Tenstorrentが東京に新オフィス 兼 デザインセンターを開設
米Tenstorrentの日本支社であるテンストレントジャパンが4月15日、新たなオフィスに転居。4月17日には、その新オフィスに日本デザインセンターを開設した。
このデザインセンター開設にあたり来日した同社CEOであるJim Keller氏らによるメディアラウンドテーブルが同日開催されたので、その様子をご紹介したい(Photo01)。
さてKeller氏、一応プレゼンテーション(Photo02~08)こそ用意されていたものの、これを一切使わずに説明を行った。
-
Photo03:さらっとTensixコアがTensix Neoになっているが、内部には3つのRISC-Vコアと、独自のTensorエンジンが搭載されている。高価なHBMとかSwitch/Interconnectとかが不要で性能が出せる、と強調
-
Photo04:RISC-VのOut-of-OrderコアであるAscalonの概要。同社は以前は2-wideから8-wideまで6種類のRISC-Vコアを全部Ascalonとして説明していたが、最近ハイエンドの8-wideのみをTT-Ascalonと呼ぶようになった模様
-
Photo06:同社のTensix/Tensix Neoを利用したAIプロセッサ向けのAPIの概要。以前はTT-Metalが一番最下層だったと思うのだが、最近その下のTT-LLK(Low Level Kernel)の提供も開始した模様
今回開設したデザインセンターは、最大で80人のエンジニアが働ける広さになっているという。これは日本でのエンジニア獲得と後述する「最先端デジタルSoC設計人材育成/上級コース」の両方に対応したものであり、エンジニア獲得に関してはCPU ArchitectureからDesign Verificationといったハードウェアのエンジニアだけでなく、AIソフトウェアに携わるソフトウェアエンジニアまで多岐に渡るという。加えて同社はインターンプログラムもスタートさせており、すでに本社ではインターンの受付を始めているそうで、日本でも同じようにインターンプログラムを始める予定との事。ちなみに勤務地は必ずしも日本だけとは限らず、サンタクララやオースチン、トロントのオフィスになる事もあるほか、エンジニアのトレーニングはアメリカのオフィスで行う事になる事も考えているという話であった。
一方、同社はRapidus(ラピダス)と協業する形で2nmプロセスを利用したチップレットの製造を予定しているが、これに関しては先日チームでRapidusの視察を行ったそうで、今のところ順調に推移しているとしており、6月~7月にかけて最初のパイロットラインの立ち上げが行われる予定であることに触れたうえで、このタイミングでPDK(バージョン0.5)がRapidusから提供され、これを用いて物理設計をスタートする予定であることまでを説明した。
Tenstorrentが日本に注力する背景
次いでテンストレントジャパンの中野氏(Photo09)より、日本における動向の説明があった。もっとも基本的な戦略そのものは本国と別に変らない(Photo10)という話であるが、日本独自の話としてまず2024年2月にNEDOプロジェクトにTenstorrentのCPUチップの採用が決まっており(Photo11)、2027年ごろには実際に試作チップの実装が行えるのではという見通しを示した。
Rapidusとの協業(Photo12)は今さら説明するまでも無い話であるので割愛するとして、大きなトピックは昨年11月に決まったNEDOの「最先端デジタルSoC設計人材育成/上級コース」であり、同社はこの人材育成の委託先となった。
説明によれば、この上級コースに参加する人は、まず同社の日本オフィスにて3か月程度集中的に講習を受け、次いでアメリカに渡ってOJT的な形で先端技術を学ぶ事になっている。同社の新オフィスを80人規模にまで拡大したのは、単にRapidusによる実装に向けての作業とかインターンの受け入れ以外に、この人材育成コースに参加するエンジニアを日本オフィスで受け入れる必要があるため、ということだった。
-
Photo13:ちなみに上級コースの目標は、「事業全体を俯瞰しながら、高度な半導体設計ができる人材を育成する」、「最先端の半導体設計に必要な知識、実践能力を身につけ、国際感覚および交渉能力を鍛える」だそうで、日本のオフィスではまず英語のトレーニングなども行われるらしい
これとは別に、すでに同社は「Wormhole」の量産を開始しており、この拡販のためにネットワールドおよびマクニカと代理店契約を結んだ、としている(Photo14)。
ちなみにTT-LoudBox(LB)の方はオフィスにも展示されていた(Photo15)。
自動車業界を意識した日本におけるビジネスの方向性
また自動車業界向けの話で言うと、2023年3月の日本法人設立時の説明では一応、車載向けのPoCボードがある話が公開されていたが、現在はもう少し開発も進み、チップレットの形で提案できるような構想を考えているとの事。とりあえず日本ではデザインセンターがデータセンター/自動車業界向けのソリューションを提案する一方で、クライアントなどに関しては代理店にビジネスを委託する形で進めてゆきたいという話であった(Photo17)。
日本でGalaxyを活用したサービスをUnsung Foeldsが展開
最後がPhoto07にもちらっと出て来たUnsung Fieldとの協業の話である(Photo18)。
これについてはそのUnsung Fieldの潮田和則氏(Photo19)より説明があった。
同社は昨年8月に設立されたばかりの会社である(Photo20)が、今年3月にTenstorrentと戦略的提携を結び、今回具体的にGalaxy Wormholeサーバーを利用したサービスを開始する事をアナウンスしている。
同社はTenstorrentのプロセッサを利用して、HPCホスティングを6月から提供開始。そして10月からは推論特化型のTaaS(Token as a Service)の提供も開始予定としている(Photo21)。
日本でのエンジニア拡充を推進
さて発表内容に関してはおおむねこんなところだが、質疑応答からもう少し補足情報を追記しておきたい。まずはそのRapidusとの協業である。現状RapidusからはPDKのバージョン0.5が提供されているそうで、今後これが0.7/1.0と進化してゆくのに合わせて、作業を進めてゆくとの事。8月ごろにはもう少し見極めができるそうだ。
ただ現時点で言えば、Samsung Foundry向けの4種類のチップレットのテープアウトに向けた作業が進んでいるそうで、Rapidus向けはその後ということなる模様としており、今後2年の間に順次行われることになる、としている(Keller氏曰く“Pipeline”だそうだ)。
また、そのRapidus向けのテープアウトに向けた作業中は、恐らく日本オフィスのエンジニアの数は120人位になると予測しているとの事。ただ、すでにRapidusにはTenstorrentのエンジニア用のエリア(ラボスぺースを含む)が確保されているとの事で、実際にはRapidusに出向しっぱなしになるエンジニアも相当数いることになるのかもしれない。そのRapidusに関しては、「TSMCとかSamsungはProcess Optimizationに長けたエンジニアを抱えているから、最適化の作業は彼らに任せられる。ところがRapidusにはそうしたエンジニアが居ないので、これに関してはTenstorrent側で確保する事を考えている」との話だった。
またPhoto17でビジネスパートナーという言葉が出て来たが、これは要するに設計支援とかを行ってくれる代理店と共同で事に当たって行くという意味との事。ただネットワールドやマクニカはあくまで製品の販売代理店であって、こちらの設計支援に関してはまったく異なる代理店が必要という認識だが、現時点ではまだ具体的な名前は挙がっていない。
ちなみに同社は引き続きエンジニアを募集中である。今回オフィス移転を行った理由の1つは、より積極的にエンジニアを集めるためだが、単にハードウェアというかチップの設計をするエンジニア以外に、今後はFAE(Field Application Engineer)やなによりソフトウェアエンジニアが全然足りてないとしており、絶賛募集中との事であった。