125年の歴史を持ち、11万人の従業員を抱えるNEC。同社は現在、変革期の真っ只中にある。先進的な社内DXの実践による価値創出を目指し、全社的なコーポレート・トランスフォーメーションとコミュニケーション改革を進めているのだ。

具体的にNECはどのような考え方で組織を変革しているのか。7月18日に開催された「Zoom Experience Day Summer」に、NECで執行役Corporate EVP 兼 CIO 兼 コーポレートIT・デジタル部門長を務める小玉浩氏が登壇。「NECが全社横断で挑む、コーポレート・トランスフォーメーション~AI活用とコミュニケーション変革~」と題し、NECが取り組むさまざまな変革について説明し、そのノウハウを共有した。

9つの変革ドライバーを起点に目指す価値創出

NECは1899年に設立され、今年で125周年。売上は約3兆4000億円、従業員は約11万人弱を抱える大企業だ。5月には生体認証やサイバーセキュリティ、生成AI、ネットワークなど同社が得意とするテクノロジーを集約した価値創造モデル「BluStellar(ブルーステラ)」を発表。社会のDXを加速させる挑戦に取り組んでいる。

もっとも、「現在に至るまでの道のりは決して簡単なものではなかった」と小玉氏は振り返る。NECが構造改革を断行したのは2012年のことだが、その後は「2018中期経営計画」を取り下げるなど苦戦が続いた。そんな状況を打破するために同社が取り組んだのが、DXを含むカルチャー変革だ。2018年にはカルチャー変革本部を設立し、さらに2021年にはCEO直下にトランスフォーメーションオフィスを設けるなど、経営層も積極的に変革にコミットしていった。

小玉氏によると、同社におけるDXは「単なるIT化の話ではない」という。

「エンゲージメントを高めてチャレンジする組織文化を作るためにはビジョンが必要であり、経営基盤やプロセスも標準化しなければなりません。そのための中核となるのが、『9ドライバー』です」(小玉氏)

  • 小玉浩氏

    NEC 執行役Corporate EVP 兼 CIO 兼 コーポレートIT・デジタル部門長 小玉浩氏

9ドライバーとは、「エンゲージメント」「カルチャー」「組織・人材」「DXビジョン」「デジタル経営基盤」「会社標準プロセス」「好循環エコシステム」「デジタルインキュベーション」「ブランディング」という9つの要素を指す。

これらを推進力として改革を進め、社内DXの実践による価値創出につなげようというわけだ。

三位一体で推進する社内DX

では、具体的にNEC社内ではどのようにDXが進められているのか。

小玉氏が挙げる社内DXのポイントは「制度」「プロセス・組織」「IT+データ」の3点だ。これらが三位一体となることで、NECのDXは変わり続ける力と文化を持つ“DNA”として定着するのだという。

また、全社におけるエクスペリエンス改革として、小玉氏は「働き方のDX」「営業・基幹業務のDX」「運用のDX」の3つを挙げる。働き方のDXとは、すなわち「人の力を解き放つモダンワーク」によって多様な人材が集う「選ばれる企業」になるということだ。営業・基幹業務のDXとは、データドリブン経営とマネジメント変革のことであり、運用のDXとは従来型の個別最適化された専用システムを改革し、より付加価値の高い領域へシフトしていくことを指す。

一方、改革の横軸としては、シームレスな体験やプロセス変革により“つながる”価値を創出して統合エクスペリエンスを高めたり、クラウドネイティブかつセキュアな次世代プラットフォームを採用したりといった取り組みを進めていくという。

そして小玉氏が注目するもう1つの重要な要素がAIである。

AI活用において重要なのは言うまでもなく「データ」だ。だからこそ、NECではデータドリブン経営を進めているのだと小玉氏は声を強める。

「NECのデータドリブン経営は3つの骨格から形成されています。まず、経営のコックピットです。経営者がきちんとアクセルやブレーキを踏んで経営のハンドリングができるように、CxO領域ごとのダッシュボードを100種類ほど用意しています。また、そのためのベースとして、プロセスの標準化やデータの骨格となるベースレジストリの整備も行っています」(小玉氏)

何より大切なのは「未来志向でアクションにつなげる」ことだと小玉氏は続ける。

「過去のことを見ても仕方ありません。未来に向けて迅速な意思決定とアクションの実行ができるよう、経営層から従業員まで同じデータを共有しています」(小玉氏)

エンゲージメント向上を目指す働き方DX

続いてのテーマは、NECにおける「働き方DX」だ。

取り組みの目的は、社員のエンゲージメントを高めること。小玉氏曰く、「エンゲージメントのスコアが1ポイント上がることで数十億の営業利益につながるというデータもある」とのことで、NECでは2025年までにエンゲージメントスコアを現在の39%から50%に上げることを目指して施策を実施しているという。

では、その施策とはどのようなものなのか。

まずは「デジタルテクノロジー」の導入だ。例えば同社ではデジタルIDを導入しており、セキュリティゲートの通過や社員用ロッカーの使用、自動販売機での買い物などあらゆる場所に顔認証を用いている。こうした仕組みによって、シームレスでストレスのない職場環境を実現しているわけだ。

さらにスマホやモバイルPCを全社員に配布。コミュニケーションをより活性化できる環境を整えることで、チームの力の最大化を図っている。TeamsやBoxといったさまざまなツールが用意されているが、中でもコミュニケーションの中核となるのがZoomである。

「(Zoomと出会った)2017年以来、さまざまな取り組みでコラボレーションしてきました。最近ではZoomPhoneを導入してPBX(Private Branch eXchange:構内電話交換機)をクラウド化することに取り組んでいます」(小玉氏)

今やNECの全社員がZoomを利用しており、Web会議は1日に2万回、会議要約機能の使用回数は1日に400件、ウェビナーの開催回数は1日に60件行うまでになった。まさにZoomはコミュニケーション変革の中核を成すプラットフォームといえる。

“データの掛け合わせ”で生成AIを効果的に活用

小玉氏は最後に、生成AI活用に関する取り組みについて言及。コンプライアンスやブランドポリシーといった基本的な仕組みづくりは当然として、社内の機密情報を扱うためにセキュアな環境を構築するなど、本格活用のための整備を行っているという。

さらに、重要なのは「AIカルチャー」だと小玉氏は強調する。

「(既存の業務を)単にAIに置き換えただけでは、その効果は限定的なものになってしまいます。AIによってどのように仕事を変えていくのか、どうすればデータを会社の力にできるのかを考えなければなりません」(小玉氏)

AI活用において、小玉氏が期待を寄せるのが、Zoomのリアルコミュニケーションのデータ化だ。このデータを生成AIで社内のストックデータ(メールや経歴、名刺など)と掛け合わせることで、高度なナレッジを生成・活用していきたいという。

こうした取り組み自体もナレッジ化し、将来は顧客や社会のDXにもつなげていきたいと意欲を見せる小玉氏。今後もNECが進めるDX、そしてコーポレート・トランスフォーメーションから目が離せない。