台湾の半導体・FPD市場動向調査会社であるTrendForceは、SEMICON Japan 2023の開催に併せる形で2023年12月14日、東京にて世界の半導体、オプトエレクトロニクス、電気自動車(EV)産業の動向を掘り下げた、日本初開催となるセミナー「産業フォーカス情報」を開催した。

  • TrendForceのセミナーの様子

    2023年12月に東京で初開催されたTrendForceのセミナーの様子 (提供:TrendForce)

同セミナーでは、まずTrendForceのKevin Lin CEOが登壇。今回のセミナーは「挑戦の時代」をテーマにしていること、ならびにTrendForceが総力をあげて今後数年間の半導体はじめテクノロジー業界の発展についての見通しを示すとする趣旨説明を行った。Lin氏は、世界の半導体はじめテクノロジー産業は地政学的要因の影響を受けてサプライチェーン再編の傾向にあると指摘したほか、半導体、EVおよび下流のサプライチェーンにおける中国の拡大は顕著であり、これによるグローバルなサプライチェーンの再構築を注目する必要があると述べた。

AI半導体の急成長により半導体メモリ市場も回復

次に、TrendForceのシニアリサーチバイスプレジデントであるKen Kuo氏が、世界のメモリおよびAIサーバ市場の分析を発表した。同氏によると、1年半の調整を経て、主にAI分野の急成長に引っ張られる形で関連するDRAMおよびNANDの市場価格が2023年第4四半期に全面的に上昇し始めたという。

また、AI半導体に関しては、NVIDIAが優位性を維持すると予測している。NVIDIAのAI半導体の出荷数は2023年が推定150万個、2024年も前年比100%増の成長が見込まれるとしたほか、業界全体では2023年で590万個、2024年には同56%増の920万個の出荷となるとの予測を披露した。

AIサーバ市場については、2022年から2026年の年平均成長率(CAGR)は32%と予測しており、2023年は同37%増の120万台、2024年も同44%増の173万台との見込みを示している。さらに、AIサーバ以外にも、MicrosoftのCopilotやAI PC、AIスマートフォンなどのテクノロジーの導入が、2024年の成長の原動力となることが見込まれるともしている。

  • AIサーバの出荷台数推移予測と成長率予測

    AIサーバの出荷台数推移予測と成長率予測 (出所:TrendForce)

2024年のファウンドリ市場は前年比7%増のプラス成長と予測

セミナー参加者にとっての焦点の1つは2024年の半導体市場の回復がどの程度になるのかであったが、TrendForceのアナリストであるJoanne Chiao氏は、サプライチェーンの在庫圧力が徐々に緩和されるにつれ、2024年はファウンドリ市場がTSMCの先端プロセスに対する高い需要と、在庫拡充の流れによって回復傾向となり、前年比7%増のプラス成長となるとの予測を示している。

また、その生産能力を国・地域別で見ると、2024年は台湾が約60%を占めると予測されるほか、韓国が12%、中国が9%、米国が6%としている。ただし、中国、米国、EUの大規模な半導体工場誘致に向けた補助金政策により、台湾以外での生産能力が拡大されていくことから、2027年までに台湾域内の生産能力比率は徐々に低下していくことになるともしている。

加えて、日本もファウンドリ市場での地位向上を目指してRapidus(ラピダス)への支援やTSMCをはじめとする台湾ファウンドリ勢の国内誘致に向けた積極的な補助金政策を進めていることから、2027年には世界の3%のシェアを有するまでに成長すると予想されるという。

  • ファウンドリ市場の売上高推移

    ファウンドリ市場の売上高推移と2024年のファウンドリ各社ならびに地域・国別の市場シェア予測 (出所:TrendForce)

Apple WatchのマイクロLED採用がディスプレイ業界の光明に

TrendForceの調査担当上級副社長であるEric Chiou氏は、「Appleの戦略から見たディスプレイ産業の将来」と題した講演を行い、Appleの次世代ディスプレイ技術の採用に向けた進捗状況を分析した結果を報告した。

同氏によると、次世代のApple WatchのパネルはマイクロLEDが採用され、現在のApple Watch Ultraよりも大きい2.12インチになるという。2社の主要サプライヤ(ams OSRAMとLG Display)がマイクロLEDを供給する予定であるとしている。

また、サプライチェーンにおけるAppleの強力な交渉力を考慮して、同製品が発売されるであろう2026年には、マイクロLEDディスプレイパネルのコストは現在のOLED(有機EL)パネル価格の2.5~3倍に相当する120ドル以下に抑えられる可能性があると見積もった。

さらに、新しい技術と仕様を統合するAppleの技術力によって、発売初年度であっても年間100万個レベルの出荷を達成し、マイクロLEDチップの需要と業界全体の発展に向けた活力となることが期待されるともしている。

  • 2027年に向けたマイクロLEDの用途別売上高の推移予測

    2027年に向けたマイクロLEDの用途別売上高の推移予測 (出所:TrendForce)

このほか、全体的なディスプレイ業界の動向としては、以下のように指摘している。

  • テレビおよび自動車市場におけるミニLEDバックライトの開発は依然として有望である
  • OLEDは、タブレットやノートPCなどのアプリケーションへの普及が加速する見込みである
  • マイクロLEDの採用は、スマートウォッチのディスプレイとセンシング機能の統合における新しいトレンドを推進する見込みである。
  • ヘッドマウントデバイス(HMD)では、VST(ビデオシースルー)にはマイクロOLEDとLCDが採用されるが、OST(光学シースルー)にはマイクロLEDとLBS(位置情報サービス)が有望である

加えて、車載用ミニLEDバックライト用高信頼性材料について同氏は、日本のディスプレイ関連メーカーにとっては、「車載ミニLEDバックライト向けの高信頼性材料」、「IT用途向け次世代OLED機器と長寿命材料」、「ディスプレイとセンシングコンポーネントの設計統合」、「メタバースHMD」に必要なニアアイディスプレイ光学系および光学コンポーネントなどの開発でビジネスチャンスがあると指摘した。

自動車輸出の主要国となった中国

TrendForceの自動車産業アナリストであるCaroline Chen氏は自動車産業の動向を説明。「2023年に中国は世界の主要な自動車輸出国となり、世界の自動車業界は中国自動車メーカーとの競争が国内市場から世界市場に拡大することを認識するようになった。国際自動車メーカーにとっての最も重大な脅威はEV(BEV、PHV、FCVを含む)における中国の優位性である」と述べた。

同氏は、中国の初期のEV開発において、特に動力向け電池の生産能力と上流の材料の積極的な開発を推進したことで、中国は完全なサプライチェーンを確立したと強調。現在、EVは中国の乗用車輸出の4分の1以上を占める規模に成長したとする。

また、東南アジア市場で中国勢は60%近い市場シェアを有しており、同市場における他国、中でも日本の自動車メーカーの長期的な優位性を徐々に脅かしつつあるとも指摘している。

対応策としては、中国の自動車メーカーが国際市場に進出する中、日本の自動車メーカーは新エネルギー車(NEV)の開発を加速するだけでなく、長年蓄積してきたブランド価値や確立されたメンテナンス体制を競争力の中核として活用すべきだとの考えを示したほか、半導体および化学材料におけるリーダー的地位を維持することが、自動車業界における影響力を強化するための持続的な投資戦略になるとも指摘している。