NXP SemiconductorはLas Vegasで開催中のCES 2020において1月5日(現地時間)、S32 Automotive Processing Platformの第2弾製品となる車載Network Processor「S32G」を発表した。このS32Gに関しての事前説明会の内容を元にご紹介したい。

NXPはS32で始まる車載向け製品をここ2年ほどの間にいくつか発表している(例えば"S32V Processor"、"S32K1"など)が、今回発表のものは2017年10月発表のこちらに関係する。この2017年10月の時点では純粋にプラットフォームのみの発表であったが、2018年6月にはこのプラットフォームに基づく最初の製品としてS32Sが発表されている。今回のS32GはこのS32Sに続く製品という位置づけである。

さて、S32Sは言ってみればパワートレイン制御向けという製品であり、具体的にはこれが利用されるイメージに近い。

これに対して今回発表のS32Gは、その上層というかConnectivityに焦点を当てた製品となる。背景となるのは、昨今の車がConneced Car化していることである(Photo01)。

  • S32G

    Photo01:もっとも4400万台で4TB/hourということは、1台あたり100KB/hourとかその程度なので、まだ全然大したことは無いという気もする。ただこれは現状という話であり、今後は当然急速に増えるのは目に見えている

そしてこのConnected Carをベースに新たなビジネスが広がろう、という機運が高まっている事もまた事実である(Photo02)。

  • S32G

    Photo02:MaaSが本格的にビジネスとして大きくなっていく現状では、こうした話は当然である。保険云々も、既にドライブレコーダー特約が広まりつつある現状を考えると、その次は当然運転データのリアルタイム把握に行くのは間違いない

こうして様々なサービスが普及してゆくと、ネットワークのトラフィックそのものが増える事は当然であり、プラットフォーム側としてはこうしたトレンドを前倒しで取り込んでおく必要がある(Photo03)。

  • S32G

    Photo03:セキュリティ周りもそうだが、今後登場するであろうサービスに対して「ハードウェア的に対応できません」とは言えない。ましてや、サービスは年単位、下手をすると月単位で新しいものが出てくるのに、自動車のプラットフォームは開発スタートから販売開始まで5年とか7年とかかかる訳で、その意味では5~10年前倒しでニーズに対応する必要がある

しかもサービス側は当たり前ではあるがCloudなどを前提にしている事もあり、SOA(Service Oriented Architecture)をベースとしたサービスのニーズなどが高まりつつある(既に自動車メーカーと話をすると、SOAが前提の話になっている)らしい(Photo04)。

  • S32G

    Photo04:かといってすべてのECUをSOAに対応させるというのも無茶な話であり、そこでサービス指向ゲートウェイを挟み、ここで対応させようということになる。

そのため車載プラットフォームの側も、こうしたトレンドに耐えられるものが必要になってくる、とする。具体的なニーズとしては、処理性能とネットワーク性能をラフに言って現在の10倍にし、ASIL-Dとセキュリティを強化すること、というあたりだ(Photo05)。

  • S32G

    Photo05:ネットワークは既に1Gbpsの1000GBASE-T1が広く普及を始めているし、制御系のCAN FDももう1本では足りないので複数本を走らせるなんてことになっている訳で、このあたりは今後大きく変わってゆくと思われる

ということで、ここからがS32Gの詳細の話となる。Photo06はS32Gシリーズのハイエンドである「S32G274A」の構成であるが

  • Cortex-M7×3Pair(6つ)
  • Cortex-A53×4(2Pair×2とSingle×4の両構成が可能)
  • CAN FD×20、LIN×7、Ethernet×4(GbE×3・2.5GbE×1)、FlexRay
  • Security Accelerator
  • CANおよびEthernet向けNetwork Offloading Accelerator

を搭載するという強烈なプロセッサである。

特にCAN FD×16/LIN×4/Ethernet×3については、Network Acceleratorを利用することで処理がほぼオフロード可能になっている。このNetwork Accelerator、機能としては同社のQorIQ Layerscapeシリーズの搭載しているNetwork Acceleratorと同様のものという話で、それは分かる話だが、CAN/LIN向けだと例えばL2 Switchに相当する機能は別に必要ないのでは? という疑問があった。このあたりを確認したところ、(複数バスにまたがる)ルーティングやセキュリティ処理などをオフロードできるという話であった。また、Photo06にもあるように一応FlexRayも対応してはいるものの、昨今は殆どEthernetで、FlexRayはあまり話題に上らないという事であった。

  • S32G

    Photo06:S32G274AはS32Gシリーズの一番重厚なコアで、今後はニーズに応じてプロセッサ/MCUの数を減じたバリエーションを増やす予定という話であった。ちなみにこの図だとCortex-M7が3つに見えるが、実際は3Pairで6個との事

NXPはこのS32G向けのRDBやソフトウェアを現在準備中であり(Photo07)、説明会場でもリファレンスボード(Photo08)や実機を利用してのデモ(Photo09~14)も行われた。

  • S32G

    Photo07:ただ現在NXPは様々なプラットフォーム(例えばGreenBox)が複数並列に立っている感じがあって、そろそろ統合プラットフォームのニーズが出てくるのではないか? という気はする

  • S32G

    Photo08:リファレンス「ボード」と言いつつ実際にはECUのシャシーが展示されている訳だが、車載ということで自然放熱で済む範囲の消費電力に抑える事も重要であり、これと高性能(しかもASIL-D対応)を両立したのが今回の最大のポイントではないかと思う

  • S32G

    Photo09:デモで利用された評価ボード。共通のベースボードの上に、S32Gのモジュールが搭載されている

  • S32G

    Photo10:モジュール部のアップ。ヒートシンクの下にS32Gが配されており、周囲に8Gbit DDR4×4やCypressのNOR Flashが見える。手前に見えるのはMPC5748(e200Z4ベースのMCU)だが、何の用途だろうか?

  • S32G

    Photo11:これはNetwork Acceleratorのデモ。別のPCから1Gbpsでパケットを送り付け、それをS32Gで受け取るというもの。概ね954Mbpsで受信できているのが分かる

  • S32G

    Photo12:ただしNetwork Processorを使わないと相応にCPU負荷が上がる(これはLock-Stepを使わない独立モードの4コアとしてCortex-A53が動作している状況)

  • S32G

    Photo13:Network Acceleratorを利用した場合、帯域そのものはやはりほぼ954Mbpsで変わらない

  • S32G

    Photo14:ただしCPU負荷は平均1%未満というあたりで、Cortex-A53はネットワーク処理以外の作業にほぼ専念できる

なお今回の発表に合わせてNXPはSecureな車載Ethernet Switchとして「SAJ1110」(100BASE-T1準拠で、TSN対応)を発表しており、これとS32GとSAJ1100、それとPMICのVR5510を組み合わせで新しいサービス指向ゲートウェイを容易に構築可能としている。なおS32Gファミリは合計4製品が投入される予定だそうだ。