英ランカスター大学からスピンオフし、2023年に起業したばかりのベンチャーQuInAs Technologyが、2023年8月8~10日に米国にて開催された不揮発性メモリに関する世界最大級イベント「Flash Memory Summit 2023(FMS2023)」にて、「最も革新的なフラッシュメモリ賞(Most Innovative Flash Memory Award)」を受賞したことを発表した。

同社が開発を進める「ULTRARAM」は、アンチモン化ガリウム(GaSb)、ヒ化インジウム(InAs)、アンチモン化アルミニウム(AlSb)などの化合物半導体と量子力学的な井戸型ポテンシャルの共鳴トンネル現象を利用して電荷を出し入れする方式の不揮発性メモリでありながら、DRAMなみの読み書き速度が実現できるという。また、DRAM特有のリフレッシュ操作も不要であるため、DRAM以上の高速動作が可能で、いわば不揮発性DRAMとしての利用も期待できるともしている。データの保持期間も1000年(推定)とされているほか、少なくとも1000万回の書き込み耐性があるとされていながら、消費電力も20nmプロセス採用のDRAMと比較して100倍、SSDと比較しても1000倍低いとされている。

  • Most Innovative Flash Memory Award

    FMS2023において、「最も革新的なフラッシュメモリ賞(Most Innovative Flash Memory Award)」を受賞したULTRARAMの開発を行っているQuInAsのCEOであるJames Ashforth-Pook氏とCSOのManus Hayne氏 (出所:QuInAs)

このULTRARAMは、英ランカスター大学のManas Hayne教授が発明したもので、同教授はQuInAs社のCSO(Chief Scientific Officer)も兼務している。QuInAsの社名は、量子力学(Quantum Mechanics)のQuと、量子井戸形成のカギとなる化合物半導体InAsを結び付けた造語である。Quinas社CEOのJames Ashforth-Pook氏は、ディープテック分野の起業家で、GAA(Gate All Around)構造のトランジスタを発明したUnisantis Electronics社(フラッシュメモリを発明した舛岡富士雄氏が創業)にも資本参加してきた。

なおULTRARAMは、2020年に研究論文が発表され、開発が始まったばかりのメモリ技術であり、実用化のタイミングについてはまだ見えていないものの、もし実用化された暁には、メモリ業界やIT業界に新たなイノベーションがもたらされることが期待される。