そこで研究チームでは、別の研究チームから報告されていた、「出力電流を可変としたゲート駆動回路」、「適切なタイミングを決定するためのセンサ回路」、「電流波形を変化させるための制御回路」を組み合わせることで、パワー半導体の動作条件が変動しても自動的に複数回変化させる仕組みに着目。この報告では、FPGAを用いるために高コストになること、プリント基板回路が14cm×7cmと大きくなるためシステム的な制約が生じるといった課題があったことから、今回の研究では、これらの回路を同一プロセスを用いて2mm×2.5mmのチップとして集積したという。

同チップは、0Aから電流の立ち上がり(電流の値としては中程度の上昇)、0A近くまでの降下、最大値付近までの上昇という3回変更させる仕組みで、センサの信号をベースに最適なタイミングを図り、温度や負荷が変わっても自動的に調整を行うリアルタイムフィードバック制御を実現。

  • (左上)パワー半導体の回路記号。(左下)パワー半導体とゲート駆動回路の関係。(右)開発された自動波形変化ゲート駆動ICチップ。パワー半導体のゲート端子を駆動する電流波形を、適切なタイミングで自動的に複数回変化させる

    (左上)パワー半導体の回路記号。(左下)パワー半導体とゲート駆動回路の関係。(右)開発された自動波形変化ゲート駆動ICチップ。パワー半導体のゲート端子を駆動する電流波形を、適切なタイミングで自動的に複数回変化させる(出所:東大 生研Webサイト)

またゲート駆動ICのため、つながるパワー半導体はなんでもよく、SiのIGBTでもSiCでも可能だとする。実際の効果検証としては、Si IGBTを用いて600V・80Aの条件のもと、スイッチング損失を約49%低減できることを確認したとする。

ゲート駆動IC側のスイッチング損失の低減についてのシステム的な効果について、高宮教授は、「2021年にドイツのティア1メーカーがシミュレーションでの話だが、ゲート駆動回路に波形変化技術を導入することで、スイッチング損失が56%低減され、電気自動車(EV)の電動システム全体の損失が7.6%低減するという報告を行っている。今回の技術は実際にそれを半導体チップとして実現できることを示唆したものだ」と説明する。

また、SiからSiCへのパワー半導体の置き換えには回路変更など多大な労力が必要だが、ゲート駆動回路の変更であれば、IC側の設計を変えるだけなので普及する可能性は高いとの見方を示している。

ただし、その実現のためには、まだ先になる見通しで、その前に2023年1月に設立したスタートアップを介して、先行して開発したデジタルゲートドライバの提供を目指し、その後、今回の技術を含めた新デバイスの提供も目指したいとしている。