半導体を取り巻く状況が目まぐるしく変化している。AIをめぐって世界的に旺盛な需要が続く中、米国における半導体関税や中国企業の動向などの影響で、先行きが不透明だ。一方、Rapidusによる次世代半導体開発やTSMC熊本工場(JASM)の拡張といった取り組みが日本において進んでいる。
そんな中、半導体業界の広範な知見を持つデロイト トーマツが11月27日、半導体や半導体関連企業のアッパーマネジメント層約70名を対象に「半導体市場の展望―地政学変動と日本企業の勝ち筋」と題した恒例のセミナーを開催。半導体業界における最新動向や今後の展望について、専門家による講演やパネルディスカッションが行われた。本レポートでは、講演を中心に当日の模様をダイジェストでお届けする。
生成AIによるサーバー需要増が半導体市場を牽引。製造国としてインドが台頭
セミナー開催にあたり挨拶に立ったのは、合同会社デロイト トーマツ パートナー 貴志隆博氏だ。貴志氏は、半導体・電子部品で多数のプロジェクト経験を持ち、2024年から熊本半導体ビジネス室 室長も務めている。
貴志氏はまず、セミナー開催の狙いについて「過去の半導体セミナーは『つながりを持つ、きずなを持つ』をテーマに実施してきました。その思いはまったく変わりませんが、今回は『地政学』をキーワードに加えています。COVID-19やロシアのウクライナ侵攻、気候変動などの影響で半導体市場における不確実性が高まっている状況のなか、それらに対してどのように対応すべきか、皆で知恵を出し合っていくことが大切です」と述べた。
そのうえで、地政学の観点から注目される国・地域として、2025年3月に政府が電気・電子分野で約3,900億円(1ルピー=約1.7円)規模の補助金制度を発表したインドを挙げ、米国・中国に加えてインドとの新たな関係構築が進むことへの期待を示した。
最初の講演者として、インフォーマインテリジェンス合同会社 シニアコンサルティングディレクター 南川明氏が登壇。「2026年以降の半導体産業展望~地政学変動と日本の進むべき道」と題して、半導体業界を取り巻く地政学の最新動向を振り返った。
南川氏はまず「日本の地政学は大きく変化しています。半導体における開発、スピード、方向性のすべてが変容してきており、特にAIが半導体を大きく牽引しています」と述べ、3つのトレンドを掲げて解説を始めた。1つ目はマクロ経済と電子機器産業、2つ目はAI/DX/GXと半導体産業、3つ目は日台半導体産業連携についてだ。
1つ目のマクロ経済と電子機器産業については、インドと日本の重要性が高まっていると指摘した。
「米国は中国との関係をリセットしようとしています。トランプ政権が変わってもこの政策は変わらず、現在は株価を上げるためにテクノロジー企業を優遇する税制措置や規制緩和を行っています。中国は元高によって製造業の競争力が低下している一方で、日本とインドは競争力の回復が期待できる状況のため、中国からインドに投資がシフトしていくのは自然な流れです。そんな中、日本は世界の半導体装置のシェアで約35%、材料のシェアは約50%を占めています。日本は世界から新しいサプライチェーンをつくるための最重要国の一つと見られているのです」(南川氏)
2つ目のAI/DX/GXと半導体産業については、GAFAM(Google、Amazon、Meta/Facebook、Apple、Microsoft)がAIへの投資を加速させている現状を解説した。
「GAFAM 5社のフリーキャッシュフローの合計は現在約100兆円で、AI投資は年間50兆円です。このAI投資は過剰でもバブルでもありません。ChatGPTユーザーは10億人ですが、その一部が月30ドル課金するだけで年間54兆円の売上になります。企業の大規模言語モデル(以下、LLM)ユーザー2億人が月30ドル払うとそのLLMによる収入は年100兆円に到達するのです。AIサーバーは大型データセンターから各企業で利用する小型サーバーへ移っており、投資は今後も続くと見られています」(南川氏)
3つ目の日台半導体産業連携については、中国がレガシー分野でシェアを伸ばす中、日本がどういう立ち位置をとるかが重要とした。
「中国と台湾の半導体への補助金を合計すると23兆円で、これは日本政府が掲げている補助金5兆円の4倍以上に相当します。中国は28nm以上のパワー半導体への投資に注力しており、2023年の時点で世界の20%の半導体生産能力を有し、注目企業も多いです。日本の取り組みとしては、半導体のユーザー、サプライヤー、サポーターを繋ぐ『RISE-A』などの新しい半導体産業支援コミュニティがどのような影響をもたらすのか、期待したいです」(南川氏)
重要インフラである半導体産業をサイバーリスクから守る
続いて、デロイト トーマツ サイバー合同会社 執行役員 北野晴人氏が「重要インフラである半導体産業をサイバーリスクから守る」と題して、高度化するサイバーセキュリティ要求への対応方法を解説した。
「半導体業界は安全保障上、重要な戦略物資を供給しているとして標的となっており、世界的に深刻なセキュリティ被害が続発しています。ランサムウェアの被害を業種別に見ると、2位に半導体産業を含む製造業が位置しています。セキュリティに関わる事業リスクへの対応として、各種の基準に沿った対策の強化が必要です」(北野氏)
セキュリティ対策としては「半導体製造(製造エリア)のセキュリティ対策見直しと強化」「サプライチェーンに関するセキュリティ対策の早期対応」という2つの方向性がある。
まず、半導体製造の対策としては、守る対象の可視化と事業リスクの現状把握、技術的強化対策導入と管理体制の整備、法・規制遵守、重要技術情報管理の強化などを行う必要がある。次に、サプライチェーンの対策としては、製造装置等各種製品のセキュリティ強化、生産・製造工場におけるセキュリティ強化、情報保護のためのセキュリティ強化、顧客に対する自社セキュリティ対策状況の開示(説明責任)、取引先のセキュリティ対策状況を含めたリスク管理などを実施する。
「半導体の製造と安定供給を止めないためにはサプライチェーン全体を守る必要があります。そのため、半導体業界の特性に合わせた業界セキュリティ対策基準が国内外で作成されています。代表的なものは、国際的な半導体業界団体SEMIによる、ファブ装置のサイバーセキュリティ仕様『E187』や米国NISTによるCSF(Cyber Security Framework)半導体プロファイルなどがあります。また日本では経済産業省によって半導体工場向けのOTセキュリティガイドラインが公開されています」(北野氏)
実際に取り組みを行う際は、工場、製品、人材という3つの観点から進めることが推奨されると北野氏はアドバイスした。
「工場セキュリティでは、自社だけでなくステークホルダーの被害低減も重要なテーマです。制御システム(OT)セキュリティでは、可能な限り生産を止めないことを目的として、ネットワークを設備系、生産系、OA系に分割して配置します。この構造にすることで、万一サイバー攻撃の被害が出た場合であっても、設備系ネットワークを守るためにネットワークを分離し、保護することができます。加えて製品では、Security by Designによって製品ライフサイクル全体にわたって適切なセキュリティ対策を実施することが必要です。これによりセキュリティ対策のためのコストをコントロールし、セキュアな製品を適切な価格で提供できるようになります。さらに人材の面では、製品の設計や品質管理、製造などに関わる方々がその業務知識に加えて、セキュリティについて知っておく必要があります。求める人材像の定義、育成体系の整備、有用な教育・研修を通じた学習機会の提供、そしてこれらの定期的な振り返りと改善が不可欠です」(北野氏)
米国と中国が技術競争力でしのぎを削る「地政学競争期」
次に、「2025年の地政学的変動と日本企業の勝ち筋」と題するパネルディスカッションが実施された。
パネリストはインフォーマインテリジェンス合同会社 シニアコンサルティングディレクター 南川明氏、地経学研究所 主任客員研究員 田上英樹氏、合同会社デロイト トーマツ ディレクター/ Monitor Deloitte Institute 柴田宗一郎氏、合同会社デロイト トーマツ シニアマネジャー 児玉英治氏の4名。ファシリテーターは合同会社デロイト トーマツ シニアマネジャー 内倉要氏が務めた。
最初のテーマは「地政学をテーマとして、現在注目されているマクロな状況や地域は?」だ。
まず、現在の国際情勢をどう捉えればよいかについて、柴田氏がこう述べた。
「国際秩序の変遷をシンプルに考えると、1950年代~1990年頃の『東西冷戦期』、1990年代から2010年代半ばの『グローバリゼーション期』、2010年代後半以降の『地政学的競争期』に分けられます。東西冷戦期は米国とソ連の対立貿易により、世界が2つの経済圏に分断されていましたが、グローバリゼーション期に、貿易と投資の自由化により統合された世界市場が築かれました。現在の地政学的競争期は、米中間の経済・技術競争や貿易摩擦により市場が分離する中、日本を含む多くの国が米中両国との関係の持ち方を模索している状況です。足元では、分離はしているが分断はしていないことがポイントとなります」(柴田氏)
米国と中国は、半導体を含む多くのセクターにおいて技術競争力でしのぎを削っているが、分野ごとに「勝敗が決しつつある」という。米シンクタンク等の分析をまとめると、中国はすでに自動車(EV/SDV)、ディスプレイ、ドローン、太陽光・風力、バッテリーなどの製造・インフラ領域でグローバルスタンダードとなっている一方、米国が一歩先を行くAI、メタバース、量子技術、バイオテクノロジー、航空宇宙などの先端技術領域で猛追している状況だ。
「AIと先端半導体をめぐっては、米国が性能や付加価値で覇権を目指す一方、中国は社会実装の拡大を追求しているという違いがあります。特に、トランプ政権は、米国製チップの輸出の拡大や米国企業のデータセンターの増設に加え、クローズド型を重視したLLM開発を推進しています。それに対して、中国は自国での半導体サプライチェーンを強化させ、オープン型のLLM開発を主軸に技術標準化を通した社会実装の拡大を目指しています」(柴田氏)
柴田氏が注目する地域は日本とインドだ。
「アジアには欧州のように地域統合体や同盟により強固に結びついた国家間の関係がないため、日本が中心となり多国間連携を図る機会があると考えられます。インドはグローバルサウスのなかで中国とともに存在感を持つ国であり、インドを含む形でアジア各国の連携を拡大していけるかという点が重要です」(柴田氏)
日本の次の勝ち筋は「装置・材料サプライチェーン」
2つ目のテーマは「日本企業がどう勝ち筋を作っていくか」だ。地経学研究所 田上英樹氏は、「半導体Value-Chain鳥瞰図」を示しながら、現状をこう解説した。
「現在の日本の強みは、装置・材料分野です。これらは戦略的不可欠性、戦略的自立性にかかわるもので、次にどこに進んだらいいかという点では、最先端・先端半導体製造分野が挙げられます。政府も注力していて、熊本(JASM)の場合は『日本で今まで作れなかったものを作る』ことで自立性を高め、Rapidusは『世界でここしか作れない』ことで不可欠性を強める方向で動いています。また、半導体強国に向けて、Rapidusを中心とした札幌・千歳、Micronを中心とした広島・東広島、JASMを中心とした福岡・熊本の半導体集積地があり、現場も活気づいています」(田上氏)
日本の勝ち筋もこうした状況を踏まえたものだ。
「半導体製造工場を中心とした半導体集積が日本各地で期待されています。各地で、経済界、アカデミア、地域行政、金融機関などが半導体をキーワードに経済効果の最大化を模索し、エコシステムを構築することが日本の勝ち筋の1つだと言えるでしょう。半導体製造において高い歩留まりを維持・実現している台湾の新竹サイエンスパークがその先進事例と言えます。半導体製造工場、装置・材料メーカー、半導体に強い大学の共存・協力関係があることから、半導体量産・歩留まり向上と半導体人材育成の2つのエコシステムが回り、安定操業ができているのです」(田上氏)
もっとも、新竹サイエンスパークと比べると、集積のさらなる加速、外国人高度人材の生活環境整備、周辺の交通渋滞、国内における人材育成、水やリサイクルについての課題なども多くある。田上氏は、サイエンスパークの内と外に何が必要かを分析しながら、最先端・先端半導体製造分野の次のステップとして、次は装置・材料サプライチェーンを挙げた。
「いくら日本が装置・材料分野に強いといっても、原料の供給が止まってしまっては勝負になりません。中国のレアアース規制を受けて、米国や欧州もサプライチェーンに注力しています。しかし、半導体サプライチェーンは難しい課題を抱えています。それは半導体の製造工程が複雑であり、極めて守秘義務が厳しい業界であることです。そこで、外からは見えない情報についてAIなどを駆使して分析することも必要です。これらを踏まえたうえで、日本の次の勝ち筋として、装置・材料サプライチェーンに注目したいと思います」(田上氏)
インド政府が半導体を強化。政府から50%、州政府から20~25%の補助金を提供
柴田氏と田上氏の解説に対し、南川氏からは「安全保障上重要な半導体が中国に持っていかれると日本にとって大きな問題。その対策は?」「企業同士が多国籍で連合を組む方向性は?」「日本の半導体市場は下がり続けているが有効な手は?」といった質問があった。
また、デロイト トーマツ 児玉氏からは「4、5年前は日本企業からの中国市場調査・拡販戦略案件のご相談が多かったが、ここ数年で急速な地場企業の台頭もあり中国は日本企業にとって難しい市場となっている。一方、「ここ数年でインドの半導体市場としての存在感が急速に高まっており、日本企業にとっては中国に変わる次の市場として検討に値するのではないか?」「半導体のバリューチェーンを俯瞰すると製造だけではなく、設計や半導体需要を牽引するアプリケーションの育成を促進する半導体政策も必要ではないか?」といった提言があった。これらに対する答えとして、鍵となってくるのがインドとの連携だ。
続いてゲストスピーカーとして招聘されたインド政府の半導体産業育成を担う組織India Semiconductor Mission(ISM:インド半導体ミッション) のCEOであるアミテーシュ クマール シン(Amitesh Kumar Sinha)氏が「インド半導体の展望」と題して、インドにおける半導体市場の動向と取り組みを解説した。
「インド首相は、インドが世界の信頼できるパートナーとしてグローバルなサプライチェーンに貢献する意志を明確に表明しました。現在は、すべてのデバイスにインドで作られたチップが搭載されることを目指しています。政策は今後25年間を見据えた長期的なもので、ISM 1.0の政策を経て、これからISM 2.0へと進む予定です」(シン氏)
インドは、インターネットユーザーが約9億人、携帯電話契約者が約11億人というデジタル大国だ。世界で3番目に大きなスタートアップエコシステムを持ち、FinTechの導入もあらゆる分野で進んでいる。半導体における政府のインセンティブは、半導体とディスプレイ分野(Semiconductor and Display Ecosystems)、電子機器製造(Electronics Manufacturing)分野、周辺分野(Allied Sectors)の3つの分野に100億ドルずつ割り当てられ、PLIという補助金制度を設けている。
「半導体分野に割り当てられた100億ドルで、国内での半導体ファブ、ディスプレイファブ、化合物半導体、ATMP施設の設立、ファブレス企業の創出を進めました。加えて、パンジャーブ州モハリにある統合デバイスメーカー半導体研究所の近代化も進めています。また、電子機器分野の100億ドルについては、モバイル・部品の生産連動型インセンティブPLI、ITハードウェア向けPLI、電子部品製造向けPLIなど、7つのPLIを発表しました。これらに対してはインド中央政府から一律50%のインセンティブが提供され、さらに、20~25%のインセンティブが州政府から提供されます」(シン氏)
シン氏はこのほかにもEDAツールの無償提供や、大学や研究機関と連携した教育プログラム、育成プログラムの提供など、さまざまな産業支援策があることを紹介。また、グジャラート州ドレラでは、新竹サイエンスパークのような集積地にするため、さまざまな投資が行われていることを紹介した。日本からも150社が視察に訪れているという。
「現在、ドレラからシンガポール、日本、台湾への直行便の開設にも取り組んでおり、アーメダバードからドレラまでの高速鉄道も整備される予定です。ISM 1.0に続くISM 2.0でも、半導体ファブ、ディスプレイハブ、化合物半導体ファブ、先端パッケージング、そのためのR&D拠点設立や組み立て部品の製造も含めてエコシステムを包括的に支援していきます。ISMは日本企業の取り組みをあらゆる面でサポートしたいと考えています」(シン氏)
講演後には会場からの質問も受け付けた。ISMの支援を受ける際の連絡先やサポート内容、現地で苦労することなどに関する質問があがり、テクノロジーアドバイザーのスリンダー シン(Surinder Singh)氏がそれらに答えた。
最後に合同会社デロイト トーマツ ディレクター 三津江敏之氏が「半導体業界が発展するようこれからも変わらず貢献していきたい」と挨拶。セミナー後は懇親会が開かれ、参加者同士が半導体市場の展望やインドへの期待などについて、熱心に情報共有を行っていた。
半導体業界のリーダーが集い、さまざまな議論が交わされた本セミナーは、今後も半導体業界を牽引していく参加者にとって、新たな気付きが得られる場となったといえるだろう。
<参加企業一覧> ※五十音順
- インテル株式会社
- NTTドコモビジネス
- グローバルウェーハズ・ジャパン
- 公立千歳科学技術大学
- 株式会社KOKUSAI ELECTRIC
- CKD株式会社
- 株式会社 図研
- 大成建設株式会社
- 株式会社ニコン
- ルネサスエレクトロニクス株式会社
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