ECサイトの台頭とともに、実店舗を構える小売業は新たなビジネスモデルへの転換を迫られている。こうした中、高円寺パル商店街振興組合はブランド価値を高めて固定客を増やすため、カシオ計算機と共に、ITを活用して商店街の課題解決や店舗運営の向上につなげる実証実験を行った。

高円寺パル商店街振興組合は実証実験により、どんな学びを得たのだろうか。今回、杉並区商店会連合会青年部 相談役 兼 高円寺パル商店街振興組合 理事を務める上原正氏に話を伺った。

  • 杉並区商店会連合会青年部 相談役 兼 高円寺パル商店街振興組合 理事 上原正氏。同氏はITコーディネーターとしても活躍している

キャッシュレスは顧客を逃がさないため必須のツールに

今回の実証実験は、高円寺パル商店街振興組合と他の10の商店街が共同で実施したもの。実証実験の第1弾は2020年11月から2021年9月30日にかけて行われた。

店舗にはレジスターとキャッシュレス決済を導入し、商店街にはビーコン端末が設置された。レジスターは売上や来店客を分析すること、キャッシュレス決済はデジタル化を促進すること、ビーコン端末は来街者を分析することを目的としている。レジスターは22店舗、キャッシュレス決済は12店舗に導入し、ビーコン端末は27カ所に設置した。

上原氏によると、同商店街では、4・5年前からキャッシュレス決済の導入を計画していたそうだ。しかし、手数料や端末にコストがかかることから、計画はなかなか進まなかった。そうした中、2019年にキャッシュレス・ポイント還元事業が始まり、一部の店舗にキャッシュレス決済対応のレジが導入された。

キャッシュレスの動きが高まる中、「商店街としては 業者と組むことで商店街に見返りがほしい、その見返りを活性化に役立てたいと考えていました」と話す上原氏。

そして、還元事業の後押しもあり、キャッシュレス決済が広がり始めた。こうした動きに伴い、「キャッシュレス決済はお客様を逃がさないために、必須のツールになりつつありました。裏を返せば、キャッシュレス決済を入れておかないと、店は客を逃がすことになります」と、上原氏は、キャッシュレス決済が商店街においても必要不可欠なツールとしてのポジションになりつつある現況を明らかにした。

ミセス層向けラインアップ強化で売上増を達成した寝具店

DX真っ盛りの今、テクノロジーを活用した実証実験は日本全国で行われているが、実のところ、実証実験で得たデータをうまく活用できているケースはあまり聞かない。高円寺パル商店街振興組合の実証実験はどうだったのだろうか。

今回の実証実験では、カシオが無償でレジを配布し、レジの運用やデータの分析といったサポートまで行った。レジを導入すると一言で言っても、簡単なことではない。「商店街の店舗にPOSレジはいりません。例えば、古着屋の場合、基本的に1点モノを売るので、マスタを作ることはできません。しかし、Tシャツ、ワンピースといったカテゴライズをするだけでも、簡易POSになります」と、上原氏は語っていたが、店舗によってビジネスのやり方はまちまちであり、それにあわせてレジを導入する必要がある。

カシオは各店舗の商いの状況に合わせて、マスタの作成を行った。売上データを活用する際、商品マスタがうまくできているかどうかが成功のカギとなる。したがって、レジをポンと渡されても、データ分析のフェーズにまで達することは簡単ではない。カシオが店舗に合わせたマスタを作成し、データを分析するなどのサポートの甲斐もあり、レジを入れた店舗はデジタル化のメリットを感じることができたという。

カシオ計算機 システムBU SS戦略室の山田あゆみ氏が、寝具店の実証結果について説明してくれた。データを分析した結果、寝具店では、スリッパが売れ筋の商品であり、スリッパを最も買っているのは60代の女性であることがわかった。これにより、ミセス層向けの商品を強化することで、売上増につながったそうだ。

また、飲食店では、時間帯によって売れる商品のクロス集計が、仕入れに役立っているという。「オーナーも感覚では商品の売れ筋がわかっているので、売り切れを防ぐために多めに仕入れをします。しかし、数字が出てきたら、バッファを小さくして、無駄を省くことができるのです」と、上原氏はいう。