--反対に、どんな点に業務の難しさを感じますか

奥村氏:入社した当初は、フロントエンドやサーバサイドなど、システムエンジニアの役割が分かれていることも知りませんでした。どのエンジニアがどんな仕事をしているのかがわからずに困った記憶があります。

私はAIのアルゴリズムはもちろんのこと、どのような技術で当社の製品が成り立っているのかもわかりませんでした。しかし、当社の製品は法務に関係するものですので、その点では反対に私がプロフェッショナルとして知識を提供できたと思います。

当社の社風なのですが、お互いのチームの業務を尊重し合う雰囲気ができています。私はシステム開発に関する知識がない状態で入社しましたが、製品の利用者は弁護士や法務の方なので、私の知識を開発チームに提供しながらギブ・アンド・テイクの関係性で勉強できました。

--ITとの関わりが薄い業種からデジタル人材になる際に大切なことは何だと感じますか

奥村氏:弁護士の業務からシステム開発に携わるようになって強く感じたのは、お互いの仕事をリスペクトすることの重要さですね。そしてもう一つは、コミュニケーション能力だと思います。法務業界の専門知識とエンジニアの技術を掛け合わせて、ようやく良い製品が出来上がると思っています。

お客様の声だけを聞いて開発を進めたからといって、必ずしも良い製品が作れるとは限りません。私はプログラミングができるわけではないのですが、法務の専門知識を持っています。製品を利用する企業にとってなぜこの機能が必要なのか、どの機能が使いやすいのかを、開発段階に落とし込む橋渡しの役割ができることに、自分自身の価値を感じます。

私が当社に入社したのは2020年のコロナ禍による緊急事態宣言中でした。在宅勤務が主となる中で、たまに出社するたびに近くに座る社員に声をかけていました。そうすると、それ以降のテキストでのやり取りがスムーズになったのです。

顔を知らずにチャットをするよりも、相手の人柄がわかったうえでのチャットの方がやりやすいですよね。エンジニアと私ではバックグラウンドは全く異なりますが、こういう基礎的なコミュニケーションが取れたのは良かったと思っています。

  • 社内に知り合いを増やすために、あえて他部署のスタッフにも話しかけていたとのことだ

--今後の目標について教えてください

奥村氏:会社としても私個人としても、製品のグローバル展開を最大の目標にしています。会社間での契約リスクや法務部の業務課題は、日本国内だけの問題ではありません。世界の法務業界全体を変えていくためにも、私の海外勤務の経験が生かせるのではないかと思います。

私は自分自身の仕事について、弁護士がデジタルテクノロジーを使用して法務業界を変えていくことが面白いと思っています。今後リーガルテック市場が広がってくると、私のように弁護士でありながらシステム開発に携わる人が増えてくるはずです。そういった意味で、弁護士の新しいキャリアを示せたらいいなとも思いますね。

法務業界に限った話ではありませんが、特定の専門領域に対してテクノロジーを活用したい企業は多いのではないでしょうか。エンジニアだけで開発を進めるのではなく、ぜひ怖がらずに専門家を開発チームに入れてみてください。利用者の声を開発に落とし込める専門家がチーム内にいることで、圧倒的に開発スピードが加速するはずです。

反対に、テクノロジーには詳しくないけれど、自身の専門領域をデジタル技術で変えたいという気持ちがある方も、専門性を生かして課題を解決できるので、臆せず飛び込んでみてください。