日本IBMは、ユーザー向けイベント「The DX Forum」を2021年4月15、16日の2日間、オンラインで開催している。デジタル変革を推進している企業を対象に開催しているもので、「3つのポイントでひも解くデジタル変革の真髄」をテーマに、「デジタル企業ビジョン&戦略」、「デジタル・テクノロジー基盤」、「組織変革力」の3点を、デジタル変革を加速し成功させていくために必要な要素と位置づけ、この3つの観点から、最新テクノロジーやソリューションを紹介したり、実際に変革を実現しているユーザー事例などを示した。

日本IBMの山口明夫社長は、「日本中のあらゆる企業がDXに取り組むなかで、DXの真髄を届けたいと考えて企画したイベントである」と位置づけた。

  • 日本IBM 代表取締役社長 山口明夫氏

    日本IBM 代表取締役社長 山口明夫氏

DXの様相が少し変化

開催初日となる4月15日に行われたオープニングスピーチで、日本IBMの山口明夫社長は、「先進デジタル企業への道」をテーマに講演。まずは、コロナ禍における世界の関心という観点から切り出した。

「2021年のタボス会議の主要テーマは『グレート・リセット』。新型コロナウイルスの感染拡大が、経済成長、公的債務、雇用、そして人の幸せに、深刻な影響を及ぼしており、加えて、気候変動や格差の拡大といった社会問題が課題となっている。こうした危機から、よりよい社会を取り戻すには、その場しのぎの措置ではなく、新たな経済社会システムを構築しなくてはならない」と提言。

続けて、カーボンニュートラルや脱炭素社会の実現に向けた取り組み、SDGsやSociety 5.0などの中長期のイニシアチブ、そして、企業が取り組むデジタル変革(DX)への関心が高まっていることに触れながら、「お客様との対話のなかで、DXの様相が少し変化してきていると感じる。以前は、AIをいち早く導入する、RPAを適用してオペレーションを効率化する、エンジニア不足に対応するために最新システムに更新するといったものが主流だったが、最近では、DXは経営変革そのものであるという位置づけで、新規システムを構築したり、新たなテクノロジーを活用したり、全社レベルでのデータの戦略的利活用の検討が増えている。短期だけでなく、中長期にわたる観点であったり、全体の将来を見据えたアーキテクチャーを整備した上で、優先順位をつけてDXを進めていくケースが増えている。地に足がついたDXが動きはじめたといっても過言ではない。これからが本番という状況に入ってきた」と語った。

  • 2021年 世界の関心はどこに向かっているのか

さらに、「企業が継続的に成長を遂げるためには、複数の企業や業界をまたがる共創を推進すること、いままで以上に迅速、柔軟な対応を前提にし、スピードを重視したアジャイルなビジネスモデルの構築が重要になる」と指摘した。

高成長を実現している企業の特徴

IBMが全世界3000人以上のCEOを対象に実施した調査では、直近3年間で、競合他社よりも高い収益成長を実現している企業の85%が、リーダーシップを重要な要素にあげており、スピードを重視したり、最も重要な要素にフォーカスしていくことを、多くのリーダーが指摘しているという。

また、高成長を実現している企業のトップは、柔軟で、拡張性のあるテクノロジー基盤の構築、リモートワーク環境の整備を含めた従業員への投資、パートナーシップとエコシステムの構築を重視していることも明らかになったという。

その上で、山口社長は、先進デジタル企業への道に向けて、3つのポイントが大切であることを示した。

これは、IBMが、全世界5000社以上の顧客を対象に、DXの取り組みについて、ヒアリングを行った結果、浮き彫りになったもので、デジタル先進企業の実現に向けて、「ビジョン&戦略」が明確であること、「デジタル・テクノロジー基盤」が整理されていること、そして、それらを実行する「組織変革力」がある、という3点が重要であるとした。

  • 高成長している企業からの示唆

IBMでは、この3つのポイントにおいて、それぞれ15項目、合計45項目の問いを設け、企業のDXレベルを見える化し、取り組むべき課題を明らかにすることができるようにしているという。

ここでは、「全社でデータの定義や分類を揃えて、単一のデータソースを作成している」、「他社との協業を効率的に行うために、アジャイルに対する方法論を持ち、有用なツールを持ち、トレーニングを実施している」などの設問が用意されている。

  • DXの3つのポイント

日本企業のDXの課題

山口社長は、「3つのポイントをもとに、日本の企業のDXの進捗状況を見ると、フロントにおける顧客体験の向上への取り組みは日本が進んでいるが、ワークフロー改革や、DXを実現するためのデータの抽出といった点では遅れが目立つ」と指摘。

「具体的には、モバイル広告やSNSによるマーケティングは行っているが、バックエンドの仕組みとの連携ができていない例が目立つ。また、RPAは、局所的に、特定業務の自動化には活用しているが、組織横断でのプロセスの見直しが行われていない。FAQでのAI活用は行われているが、経営判断のために将来予測を行うためにAI活用は活用していないといった点である。日本の企業は、組織横断型で、データ活用ができるスキルを持った人材や、活用するための仕掛けによって、新たな価値を顧客に提供するためのITプラットフォームを構築すること、ビジネスモデルを最も効果的に実現するためのワークフローを設計することが大切である。DXは単なるデジタル化ではなく、経営そのものである」などとした。

また、「顧客のDXの成功に向けて、日本IBMは、オープンなハイブリッドクラウドとAIの推進に取り組んでいる」とし、「ハイブリッドクラウド環境と、RedHat Open Shiftによるプラットフォームが中心になって、どんなインフラでもアプリケーションが稼働する環境を実現している。そのもとで、インフラ製品であるサーバー、ストレージ、クラウドを提供し、他社のクラウドも利用できるようにした。

また、ソフトウェアにおいては、自動化、ユーティリティ、データベースのほか、コンテナ化をサポートするミドルウェアも提供する。そして、すべての業務に、より高機能化されたAIを組み込み、新たなハイブリットクラウドとAIの世界を実現する支援を行っている」と述べた。

さらに、「オープンなハイブリッドクラウドとAI による世界は、IBMだけでなく、多くのビジネスパートナーとともに構築したい。ソリューションやインフラをオープンなエコシステムを通じて提供し、さまざまな強みを持つ世界中の企業や専門家と新たな関係を築き、既存のビジネスパートナーとは、負荷化の高い取り組みをともに推進することになる。IBMはオープンなソリューションとエコシステムを通じて、これまでの枠を超えた共創により、日本のDXを盛り上げたい」と語った。

  • DXの成功に向けたIBMの取組

DXなしに、明るい日本の未来は描くことができない

一方、スペシャルメッセージとして、デジタル改革担当大臣の平井卓也氏が登場。次のように述べた。

「2021年9月1日からスタートするデジタル庁は、国や地方自治体のDXを推進する司令塔になる。つまり、企業のDXを推進する役割の人たちと同じ悩みを抱えることになる。ビジョンと戦略を掲げ、優先順位を決め、DXという終わりなき長い旅路を続けていくことができる組織を作らなくてはならない。DXを進める上では、いまあることを疑うことから始める必要がある。

行政システムを改革する上では、いままでの仕事のやり方に疑問を持つことが大切であり、それを見極めた上で、業務のなかにデジタルを一気に取り込んでいかなくてはならない。省庁の縦割りを廃して、成長戦略の柱になっていくのがデジタル庁である。目的は、国民が満足する行政サービスを提供すること、国民の命を守り、地域社会を活性化していくこと、そして、生産性をあげ、日本の成長力を再生することである。社会課題を解決するために知恵を絞って、デジタル・テクノロジーを実装していきたい」としたほか、

「100年に一度のパンデミックは、ワクチン開発の状況からもわかるように、イノベーションの速度を10倍以上加速した。デジタルシフトも一気に進んだ。国も地方自治体も待ったなしの状態である。It's now or neverという思いである。デジタル庁の創設も、いままでの霞が関にはないスピードで取り組んでいる。デジタル化のあとにある社会、そのなかでの生活を描き、国民が感じる不安や幸せをイメージしながら、誰一人取り残さない、人にやさしいデジタル化を目指したい」と述べた。

  • デジタル改革担当大臣の平井卓也氏

さらに、「デジタル庁には、多くの人たちを民間から募集しており、さまざまな技術を持っている人たちが応募してくれている。DXを進めるには人材が最も重要である。デジタル庁に力を貸してほしい。また、デジタル庁で働かなくても、さまざまなプロジェクトを進めており、そこにも多くの民間企業に参加してほしいと思っている。官民をあげて、本気でDXに取り組むことが大切である。DXなしに、明るい日本の未来は描くことができない。あとは覚悟の問題である。情報共有をしながら頑張っていく」と語った。

なお、開催2日目となる4月16日は、午後1時30分から開始する予定で、「先進デジタル企業への道~日本企業がDXを成功させ、イノベーションを促進するためのポイント」と題して、早稲田大学大学院経営管理研究科 早稲田大学ビジネススクール教授の入山章栄氏と、日本IBM 専務執行役員グローバル・ビジネス・サービス事業本部長の加藤洋氏による対談などが行われる。