英国ケンブリッジ・クオンタム・コンピューティング Chief Business Officer デニース・ラフナー氏

英国ケンブリッジ・クオンタム・コンピューティング(Cambridge Quantum Computing Limited)は12月19日、日本法人である、ケンブリッジ・ク オ ンタム・コンピューティング・ジャパン社を拡充し、日本市場への本格参入を開始すると発表した。

同社は英ケンブリッジ大学発のベンチャーで、従業員約85名のうち、60名は科学者となっている。英国政府の委託により、Quantum Readiness ProgrammeをNQITと共同で実施している。

説明会には、英国ケンブリッジ・クオンタム・コンピューティングのChief Business Officer(最高事業責任者)を務めるデニース・ラフナー氏が出席した。同氏は、IBM Systems Group Quantum Computingチームのリーダーとして、IBM Qスタートアッププログラムの開発・推進に当たっていた。

ラフナー氏は、量子コンピューティング市場が2019年までに9300万ドル、2024年には2億8300万ドルに成長するという市場予測を示し、大きなビジネスチャンスを生む可能性があることを強調した。

加えて、アジアおよび日本は量子コンピューティングの市場が期待されるという。例えば、日本政府は2019年11月に2039年までの量子技術開発ロードマップを発表した。ロードマップには、20年度には 19年度比の倍増となる300億円の予算を計上し、 5年間で国内5カ所以上に「量子技術イノベーション拠点」を整備するなど、本格的な計画が盛り込まれている。

ラフナー氏は、日本では「アニーリング型」「ゲート型」 のいずれもハードウェアの開発が複数の企業と大学で進んでいることにも言及した。

同社の中核分野は「サイバーセキュリティ」「量子ソフトウェア開発プラットフォーム」「量子化学」「量子機械学習」「OPTIMISATION」「量子自然言語処理」の6つとなっている。

製品としては、自社開発の量子コンピュータ向け汎用コンパイラ「t|ket〉」 、量子化学の分析プラットフォーム「EUMEN」などのソフトウェアを主に提供している。そして今年3月には、暗号関連デバイス「IronBridge」を発表した。

「IronBridge」は、INISTおよびIBMのPQアルゴリズムを実装しており、自の量子もつれを採用することで、リアルタイムで自己認証を行う。ラフナー氏は、「IronBridge」の特徴として、「4量子ビットプラットフォーム」「サーバラックに設置可能」「室温で動作可能」「ハッキング不可能な乱数キーの生成」を挙げた。また、クラウドアクセスが可能なことから、クラウドサービスプロバイダーによる導入が多いという。

ケンブリッジ・クオンタム・コンピューティング・ジャパン 代表取締役社長 結解秀哉氏

ケンブリッジ・クオンタム・コンピューティング・ジャパンの代表取締役社長を務めるのは結解秀哉氏だ。同氏は、ゴールドマン・サックス証券およびJPモルガンで、アジア太平洋地域におけるアルゴリズム取引や電子取引を担当していた。

結解氏は、日本法人を設立した理由として「世界をリードするさまざまな業界の企業が集中している」「R&Dに積極的」「700以上の大学と多くの研究機関がある」「優れた科学者とエンジニアがいる」「アジア地域へのアクセスがよい」を挙げた。

日本においては、サイバーセキュリティを最優先して取り組むという。その理由について、「現在、量子コンピュータのハードウェアは50ビットから60ビットまでが主流だが、今後、1000ビット、2000ビットクラスのハードウェアが出てきたら、現在の暗号技術では太刀打ちできなくなる。問題が起きてから、暗号技術をアップデートするのでは遅い。特に、金融機関では10年はかかると見ている」と結解氏はと説明した。

また、量子機械学習については、メガバンクをはじめとする金融機関が予算の計上を始めるなど、準備を進めており、同社は参入のチャンスを狙っていくという。

12月19日に東大とIBMが量子コンピューティングで協業を発表、12月20日にNECが量子コンピューティング領域に本格参入を発表するなど、国内でも量子コンピューティング分野の動きが活発になってきている。今後、国内の量子コンピューティング市場の動向が気になるところだ。