米Googleは10月23日 (米国時間)、量子コンピュータの「量子超越性」を実証したと発表した。スーパーコンピュータで10,000年かかると予測される計算タスクを、同社の54量子ビットの量子プロセッサ「Sycamore」が約200秒で完了させられる能力を示したとする。研究チームによる論文「Quantum supremacy using a programmable superconducting processor」が、同日に英Natureで公開された。

  • Sycamoreプロセッサ

    Sycamoreプロセッサ

量子超越性とは、従来方式のコンピュータでは時間がかかり過ぎて手に負えなくなるような計算を、量子コンピュータなら高速に処理できる能力を指す。今回の実証実験において、Googleの研究チームは「ランダム量子回路サンプリング (random quantum circuit sampling)」を採用。Sycamoreに0000101のようなビット列を生成させ、スーパーコンピュータでも同様の量子回路をシミュレーションして比較した。

実験では、12量子ビットから53量子ビットまで量子ビットを増やした。量子ビットが増えるほど、スーパーコンピュータでの再現に長い時間がかかるようになる。最後は53量子ビットでの動作を確認した後、スーパーコンピュータのシミュレーションで再現不可能になるまで負荷を増やした。その結果、Sycamoreはおよそ200秒で、量子回路の1インスタンスを100万回サンプリングできる能力を示した。同研究チームは、米国オークリッジ国立研究所のスーパーコンピュータ「Summit」で量子回路シミュレーションの一部を実行し、従来方式のコンピュータでは同様の処理に10,000年かかると見積もっている。

Googleは2006年に機械学習開発を加速できる可能性から量子コンピュータ研究を開始し、2014年からは米カリフォルニア大学サンタバーバラ校のJohn Martinis教授の研究チームがGoogle AI Quantumチームに加わっている。

  • 実証実験に用いたクライオスタット

    Sundar Pichai氏と、Sycamoreをマウントしたクライオスタット

Google CEOのSundar Pichai氏は「量子コンピューティングを現実にするための探求において、これまでで最も意義深いマイルストーン」とコメントしている。暗号技術を用いたビットコインの価格が急落するなど、Googleの発表は様々なところに影響を及ぼしている。しかしながら、マイルストーン到達ではあるものの、量子コンピュータ実用化への道はまだ長く険しい。Pichai氏は研究チームの成果を「地球の重力圏を抜けて宇宙の端に触れるロケットの打ち上げに成功した」と表現している。Googleは、効率的なバッテリーの設計、より少ないエネルギー消費で化学合成できる肥料、医療効果を高める分子の解明などに量子コンピュータを活用できると見ており、実用化に向けた次のステップとしてエラー訂正が可能な量子コンピュータの実現を目指す。