新日鉄住金エンジニアリングは3月5日、同社が産学官連携の研究コンソーシアムを組成して提案した「大規模沖合養殖システム実用化研究」が、農林水産省の補助金事業「『知』の集積と活用の場による研究開発モデル事業」に正式に採択されたと発表した。

同事業は、農林水産省の委託を受けた農業・食品産業技術総合研究機構 生物系特定産業技術研究支援センターが、農林水産業の商品化・事業化の基盤となる革新的な研究開発を対象に公募・採択したものとなる。

同研究では、同社が2016年から取り組んできた三重県尾鷲沖および鳥取県境港沖での大型生簀システムと、自動給餌システムの実証試験を通じて得た知見を最大限に利用し、大規模沖合養殖システム(大型生簀システムと自動給餌システム)の社会実装に向け、産学官の知恵を集結し、研究開発を進めていく。

  • IoTを利用した最適生産管理システムの概要

    IoTを利用した最適生産管理システムの概要

同社は同研究における研究項目として「IoTを利用した最適生産管理システムの開発」「自動給餌システムの高度化」「大型生簀システムの高度化」「環境に調和した養殖の設計」の4点を挙げている。

IoT利用の最適生産管理システムの開発は、鳥取県境港市を実証フィールドとする。生簀内にIoT機器として水中カメラおよび環境測定センサを設置し、養殖場の環境条件(海水温・潮流・波高・濁度・溶存酸素濃度・塩分濃度・日照など)、生簀内の魚の数量・重量や、魚病発症・食欲といったデータを大量に測定し、クラウドサーバに蓄積(ビッグデータ化)する。

蓄積したデータを分析することにより、AIが最適な給餌量・タイミングを自動決定の上、増肉係数(FCR)の低減に貢献するシステムを開発する。

自動給餌システムの高度化も同市を実証フィールドとし、同社が境港沖に建設した自動給餌プラットフォームを利用し、多数の生簀への最適な給餌方法を確立する。さらに、プラットフォームへの飼料補給の高速化・飼料搬送の長距離化を図り、自動給餌システムの社会実装に向けた高度化を目指す。

大型生簀システムの高度化は、宮崎県串間市を実証フィールドとする。大型浮沈式生簀を設置し、生簀の大型化・堅牢化・浮沈機構に加えて、最適な水揚方法を確立するとともに、付着物除去や死魚回収の省力化・無人化を実現することで、大型生簀システムの社会実装に向けた高度化を図るという。

環境に調和した養殖の設計は、鳥取県境港市および宮崎県串間市を実証フィールドとし、養殖の環境影響評価と適正な養殖密度の推定を行うための養殖環境ソフトウェアを開発。養殖生産をASC認証(海の環境保全に配慮した養殖業を認証する国際的な認証制度)やSDGs(持続可能な開発目標)のコンセプトにも対応させ、持続可能な養殖業に貢献するとしている。

研究期間は2018年1月~2021年3月まで。研究コンソーシアムのメンバーは、新日鉄住金エンジニアリング、日本水産、弓ヶ浜水産、黒瀬水産、パナソニック、東京大学、鳥取環境大学、米子工業高等専門学校、鳥取県 栽培漁業センター。

同社は、これまで漁業従事者の経験と勘に大きく依存してきた日本の養殖業を、AIやIoTなどの技術と同社のエンジニアリング力を組み合わせ、各プロセスの高度化・効率化を図る方針だ。