IDC Japanは2月22日、国内コネクテッドビークルおよび関連サービスの市場動向について記者向けの発表会を開催し、同社の実施した調査結果を発表した。

同社ではコネクテッドビークルを「サービス提供、データ収集、アセット管理を目的に、車両自体ないしモバイル機器を通じてセルラー無線ネットワークを活用するもので、ソフトウェア、センサー、IPによるコネクティビティを包含する、人間の操作を必要とするか、半自動的ないし自動的に、乗用車、トラック、バス、バンなどとして街路や高速道路を含む車道を走行する車両」と定義し、コネクテッドビークルの個人ユーザーと事業者ユーザーに対して、事前調査と本調査の2段階でWebアンケートを実施した。

まずは、20~69歳の個人ユーザー9421人と、事業者ユーザー4808人を対象に事前調査を実施。そして、個人ユーザーは家庭の所有者について「月に数回以上運転する」かつ「コネクテッドビークルに興味があり、購入/利用を検討する」と回答した人の中から無作為に500人を抽出し、事業者ユーザーは勤務先の社有車について「業務として月に数回以上運転する」「業務として運転する従業員を管理する」「社有車の管理を担当する」「経営者/部門責任者」のいずれかと回答した人から無作為に500人を抽出して、本調査を行った。

個人ユーザーは安全・効率的な移動・低コストを重視する

個人ユーザーへの本調査では、「コネクテッドビークルを利用する場合、どのような目的で利用しますか?」という質問に対して、「より安全な運転を行うため」という回答が73.6%と最も多く、「目的地までより効率のいい移動を行うため」が71.4%で続いた。次に多くの回答を得たのは「移動を楽しむための情報/コンテンツ提供サービスを受けるため」だが、回答は35.0%にとどまった。

  • 国内コネクテッドビークルおよび関連サービスの市場動向

    「コネクテッドビークルを利用する場合、どのような目的で利用しますか?」という質問に対する個人ユーザーの回答

さらに、「コネクテッドビークルの各サービスパッケージの利用についてどのように考えますか?」という質問には、「運転時の安全/安心サポート」では34.2%の人が「有償でも契約を検討する」と回答し、「効率の良い移動」サポートでは27.2%が有償契約を検討すると答えた。一方で、音楽やビデオ、ニュースなど移動中にコンテンツを楽しむ「インフォテイメント」は14.0%だった。

  • 国内コネクテッドビークルおよび関連サービスの市場動向
  • 国内コネクテッドビークルおよび関連サービスの市場動向
  • 「コネクテッドビークルの各サービスパッケージの利用についてどのように考えますか?」という質問に対する個人ユーザーの回答

IDC Japan コミュニケーションズグループ リサーチマネージャーの敷田康氏は、調査結果について「個人ユーザーは安全運転や効率性を重視しており、音楽やビデオ、ニュースなどを楽しむインフォテイメントはあまり重視されてないことが分かった。日本では車の中でコンテンツを楽しむことにまだ価値を見出していない状況かもしれない」と分析した。

  • IDC Japan コミュニケーションズグループ リサーチマネージャーの敷田康氏

    IDC Japan コミュニケーションズグループ リサーチマネージャーの敷田康氏

また、「コネクテッドビークルを購入、利用するうえで、阻害要因/不安要素は何ですか?」という質問で最も多かった回答が「車購入価格にコネクテッドビークル関連のコストが上乗せされること」で65.8%だった。

「ハッキングなどが大きな阻害要因になると思っていたが、コスト関連が上位を占めていたことは意外だった」と、敷田氏。

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    「コネクテッドビークルを購入、利用するうえで、阻害要因/不安要素は何ですか?」という質問に対する個人ユーザーの回答

事業者ユーザーは安全が第一

同調査では、事業者ユーザーに対してもほぼ同様の質問を投げかけた。「会社がコネクテッドビークルを導入する場合、どのような目的で利用すべきと考えますか?」という質問には、「運転者がより安全な運転を行うため」という回答が63.6%と、最も多かった。効率的な移動については、そこまで多くの事業者ユーザーが求めているわけではなく、敷田氏は「それなりの頻度で社有車を運転する人や、バス、タクシーの運転手も多いので、安全性以外にはそこまで付加価値を見出していないのかもしれない」と、考察を述べた。

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    「会社がコネクテッドビークルを導入する場合、どのような目的で利用すべきと考えますか?」という質問に対する事業者ユーザーの回答

事業者としてコストをかけられるかという「コネクテッドビークルの各サービスパッケージの利用についてどのように考えますか?」に対する回答としては、個人ユーザーと同様に「運転時の安全/安心」サポートが26.2%と最も多い。また、阻害要因は「費用対効果が不明確なこと」が最も多く挙げられた。

敷田氏は「有償での契約に対しては、全体的な数値は個人ユーザーより低いが、全体的に2割を越えているため、事業機会は少なくないだろう」と、分析する。

  • 国内コネクテッドビークルおよび関連サービスの市場動向
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  • 「コネクテッドビークルの各サービスパッケージの利用についてどのように考えますか?」に対する事業者ユーザーの回答

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    「会社がコネクテッドビークルを導入する上で、阻害要因/不安要素は何ですか?」という質問に対する事業者ユーザーの回答

調査結果をもとに、敷田氏は「ITベンダーは独自のサービスプラットフォームを築く場合、収益を期待しやすい運転時の安全/安心領域などで付加価値化できる技術要素を組み込むことが大事。APIを外部に開示するなどして、多様な知見やアイデアを取り込む施策を行うべきだろう。また、自動車メーカーはデータ・コミュニケーション・モジュール(DCM)の標準装備化促進による車両の関連コスト低減を行い、ユーザーの負担を下げる必要がある。同時に通信機器とスマートフォン対応を拡充していき、自動車のメディア化を促進することで、広告配信など新しい視点の収益源創出に向けた仕組みづくりを行っていくべきだ」と、「ITベンダー」「自動車メーカー」への提言を述べた。

さらに、「政府はコネクテッドビークルを産業振興の基盤ととらえるべきである。車とあらゆるものが接続されるV2Xから生まれる事業の受益者は幅広い。通信事業者だけがコスト負担を強いられるのであれば、ネットワークインフラの整備が滞る可能性もある。そのため、国はリーダシップをもって、この事業を進めるべきだ」と、指摘した。