EC市場の拡大には、単に消費者が便利だと感じているからだけでなく、事業者がWeb上での消費者行動を見える化し、分析・改善を行うことで売上向上を図れることにも要因がある。行動履歴だけでなく、デモグラフィックスなど顧客データから、顧客を理解(もしくは推測)し、レコメンドやリターゲティングできることは大きなメリットだ。

一方、実店舗ではどうだろう。POSデータの活用やO2Oなど取り組みが進んでいるとはいえ、接客を担当したスタッフ以外は、「どのような顧客が・どのように店舗内を移動し・実際に何を購入したか」を把握することが難しい ―― というのがこれまでの実情だろう。

このような課題の解決を目指すのが、ABEJAの提供する「リアル世界の解析サービス」。同社は2012年に創業し、NTTドコモ・ベンチャーズや米国セールスフォース・ドットコムなどから出資を受けた実績をもつ。本稿では、同社 代表取締役CEOの岡田陽介氏に、実店舗の顧客行動分析やマーケティング活動について話を聞いてきた。

ABEJA 代表取締役 CEO 岡田陽介氏

先にも述べたように、ECサイトの多くは、来訪者の購買行動を分析し、その分析結果から有効な戦略を検討・実行している。大手ECモールの中には、カート落ち顧客や休眠顧客をきめ細かくフォローしたり、送料無料のほか、申し込みから数時間で物品が届くといった革新的なサービスを次々と提供しているが、それらもデータの収集・分析から得られたアイデアだ。こうした努力が奏功した結果、売上を伸ばしているのである。

ECサイトの興隆とは裏腹に、多くの実店舗は苦境に立たされている。状況打開のため、店舗側でもいろいろと工夫を凝らしてはいるものの、有効な手だてを見つけることはできていない。そこで、ECサイトの勝因を分析し、それを実店舗にも活かそうという動きが出てきた。例えば、ECサイトでは常識となっている「購買行動のデータ化および分析」を実店舗でも実施し、その中から有効な戦略を打ち立てていこうというのだ。

しかし、そこにはひとつ大きな問題があった。実店舗では購買行動を「見える化」するための手法が確立されていないため、顧客の購買行動を客観的かつ正確に把握する術がないのだ。このような課題に対し、真っ向から取り組んでいるのがABEJAだ。

店舗内の顧客行動を分析する「リアル世界の解析サービス」

ABEJAは、店舗内における顧客行動や属性の分析を支援する「リアル世界の解析サービス」というソリューションを提供している。これは、画像解析技術や人工知能(Ai)などのテクノロジーを用いて、リアルタイムで顧客の行動データを取得・分析し、店舗内マーケティングの支援を行うもの。来店者の性別や年齢を推定する「ABEJA Demographic」や、店内をヒートマップ解析する「ABEJA Behavior」などを提供する。

「実店舗の場合、その実情が見えていないことがほとんど。たった今、どれくらいの人が入店しているのかですら、正確には把握できていないことが多い。リアル世界の解析サービスを用いて実際に検証してみると、『100人来店しているのに数人しか買っていない』という現実が明らかになる。このようなデータがあってこそ、購入していない見込み客に対して有効と思われる戦略を検討することができるようになるのです」(岡田氏)

ABEJAの提供する「リアル世界の解析サービス」イメージ

こういったシステムを構築する場合、通常はサーバーやストレージ、アプリケーションの構築などが必須になり、膨大なコストが必要になるが、リアル世界の解析サービスの場合は、IPカメラとクラウドサービスのセットアップだけですぐに利用可能。このコストメリットが大きな魅力となり、多店舗展開している企業はもちろん、小規模店舗による導入も進んでいるという。

経験や勘と、テクノロジーの融合。検証結果をもとに戦略を実施可能に

「課題を解決するためには、表面的な課題ではなく、その本質をつかむ必要がある。そのためには、さまざまな情報を集め、分析していくことが大切だと思います」と岡田氏は語る。

例えば、店舗側が売りたい商品の販売実績が思ったほど伸びないといった場合、陳列方法やPOPなどを工夫したり、チラシを配布したりといった宣伝活動を行いがちだ。しかし、その施策が売り上げに結びついているのかという検証は行われていない。こういった課題も、リアル世界の解析サービスを使えば解決する。

顧客の行動をトラッキングし、陳列やPOPに効果があるのかを検証したり、来店した顧客の性別・年齢などのデータを取得することで、チラシの効果を計測したりすることも可能なのだ。これによって、経験や勘に事実を追加することにより、データによる検証を重ね、売り上げ増につながる効果的な戦略を立てられるようになる。

「今後、"自動化" の部分を強化していきたいと考えています。(2015年9月)現在は、導入先の担当者がダッシュボードを確認し、施策を打っています。それを、たとえば『入店者数が減ったら顧客に対してメールを送る』といったことをサービス側で実施できるようにし、店舗のマーケティングオートメーションを実現していきたい」(岡田氏)

リアル世界の解析サービスは、店舗のマーケティング活動にとって革新的なソリューションになる大きなポテンシャルを秘めている。今後は、同社の解析サービスをアクセルとし、ビジネスを加速していく企業も増えていくのだろう。