2014年4月より、正式にサービスを開始した「Yelp」。「口コミローカル情報サイト」というカテゴリのWebサービスだが、全業種版の"食べログ"、"ぐるなび"と説明した方がわかりやすいだろうか。

アメリカで2004年にサービスを開始したYelpは10年という節目を超えた。10年目にして日本上陸というのは、米国発のWebサービスとしてはやや珍しい遅さとも言えるが、これには理由がある。ローカル情報を取り扱うWebサービスは、通常のWebサービスと異なり、各地方の様々な情報を取得し、常に最新の情報に書き換える必要がある。

もちろん、口コミローカル情報サイトであるから、ユーザーの手によって最新の情報にアップデートしていく「CGM(Consumer Generate Media)」のYelpはもっと早く上陸しても良かったことだろう。ただこれは、Yelp自身の成長にも関連しており、スマートフォンが普及した後に急激な成長を遂げたという状況もあった。

様々なイベントも開催している

スマートフォン時代に差し掛かった後の急激な成長は特段説明する必要もないだろう。地域情報を網羅しているYelpは、飲食店に限らず、美容室や病院、ファッションまでありとあらゆる小売店の情報を組み込んでいる。そればかりか、公共施設やイベント会場といった情報も"口コミ"できるため、「とりあえずYelpで情報を検索すればいい」という環境を提供できるわけだ。

それがスマートフォン時代になり、手元で近所のあらゆる情報を簡単に閲覧できるため、各国の利用者急拡大に繋がった。ただし、「簡単にお店の情報や口コミが見られる」というメリットだけがYelpの魅力ではない。

コミュニティマネージャーという存在

Yelpには"コミュニティ"が存在する。写真とSNSを組み合わせた「Instagram」をイメージするとわかりやすいが、ローカル情報とSNSを組み合わせたこの"コミュニティ"は、その地域に関する様々な情報をユーザー同士でやり取りできる。

同じ地域のユーザーで情報を交換できるため、ユーザー同士の結びつきなども強くなる。情報交換は有益なものから雑談まで、様々なコミュニケーションがあるが、そういったユーザー間のコミュニケーションを円滑に回す「コミュニティマネージャー」という存在もまた、Yelpの特徴の一つだ。今回、日本で初めてYelpのコミュニティマネージャーに就任した中澤 理香さんに話を伺った。

中澤さんは東京のコミュニティマネージャーに2014年7月に就任。8月からは、Yelpのイベント運営管理など、ユーザーとのリアルの接点強化に努めている。

「Yelpの存在は2011年頃から知っていました。当時私はミクシィに勤めていたのですが、ネット業界として見た時に、アメリカですでに大きな存在でしたし、お店を探す時に利用していました。マネージャーになったキッカケは偶然で、2013年末に(ミクシィを)退職したのですが、その頃は海外で仕事をしたいと考えていました。

そこで海外留学を2ヶ月ほどしていたのですが、ルームシェアをしていた友達から『コミュニティマネージャーをYelpが探している』ということでお話をいただいたんです。そこでサンフランシスコの本社を尋ねたら今の上司に会いました(笑)。

オフィスがかっこ良かったし、良い人も多く、何より話していて面白そうと感じたので入ったんです」(中澤さん)

日本はまだオフィスがなく、3名の社員は家で働いているという。日本のマネージャーと東京コミュニティマネージャー、大阪のコミュニティマネージャーの3名以外に、社外ボランティアが数名といった体制だ。

中澤さんは"コミュニティマネージャー"の一番の使命を「ユーザーとコミュニケーションし、盛り上げること」と語る。

「普段の仕事は、オンラインとオフラインの仕事が半分ずつです。毎日、新しい投稿やユーザーをチェックして、『わからないことがあったらどんどん質問して』と、自分自身ののアカウントでコメントするんです。Yelpユーザーを"Yelper"と呼ぶんですが、一番模範的なユーザーとなってYelpをリードしていかなければならないと心がけています」

オフラインの仕事は、ユーザーを集めたイベント運営。1カ月に1度程度開催しており、基本的にはお店をユーザーに紹介するためのイベントだ。11月半ばに行われたイベントでは、50名ほどが集まっており、Yelpユーザーとその友達を巻き込む形でユーザーの輪が広がっていく。

「Yelpの特徴がこのイベントです。お店がスポンサーとなって行っていただいていますが、海外の様々な国で毎日イベントが行われていて、その様子がYelpの公式ブログにまとめられています」

Yelpは海外展開も広がりつつあるため、諸外国の人と繋がれる可能性を秘めている。その一端がこのブログだが、Yelp上の口コミも自動で翻訳する機能などが備わっているため、海外のYelperが来日した場合でも、すぐに日本のお店情報を確認できる。日本のお店にとっては、Yelpの情報を拡充しておけば、2020年の東京オリンピックへ向けて更に増加する外国人旅行者への情報提供を簡単に行えるメリットもあるわけだ。

「東京に住む外国人グループもいて、1人をイベントに呼ぶと5人くらい連れてくることもあります(笑)。ほかにも、アメリカの軍人が『横須賀の配属が決まったので、東京のコミュニティに入れてほしい』というメッセージを私に送ってくれたこともありました。

イベントを経験して感じたことはが、『今まで会えなかった人に会える』という魅力です。とにかく"食"が好きな人やヨガにハマっている人、ニッチな趣味を持つ人など新しいグループの人に出会える。イベントじゃなくても3、4人の小規模でふらっと飲みに行くということもやっています」

外国人もYelpの情報を訪ねてイベントに参加する

日本での展開から1年足らずだが、ユーザー数こそ開示していないものの、Yelpの日本における成長スピードは他国と比較しても早いという。その中で、日本ならではの特色が早くも見られるようだ。

「日本、特に東京は面積辺りのお店の数がとても多いので、全てを網羅するのが大変です。ユーザーの方から『このお店がない』と言われるし、そもそもの人口も多い。ですが、そのお店の多さが逆にYelpの強みであり楽しみになる部分でもある。チェーン店だけではなく、ローカルのお店はそれぞれに特色が見られるので。

それと、日本ならではで言えば日本人は"シャイ"。海外では、イベントなどでアイスブレイクの段階を経ることなく仲良くなりますが、日本ではどうしてもある種の"の仕掛け"が必要になります。ただ、その一方で日本人はWeb上のコメントをしっかり、きっちりと書いてくれます。南米などではパーティには出て盛り上がるんですが、コメントは書き込んでくれません(笑)。お店の営業時間などをちゃんと直してくれるユーザーも多かったりして、大変助かっています」

言語の壁は大きいが、Yelp側で翻訳機能を組み込んでいるため、レビュー翻訳なども外国人が見やすく最適化される

最後に、コミュニティマネージャーとしてどのようにYelpを育てたいのか、中澤さんに尋ねた。

「Yelpは飲食店だけの口コミサイトではありません。ですので、ヨガとかランニングのエクササイズ系イベントやマッサージ屋さんなどのイベントも面白いと思います。例えば先日、美容室でイベントを行ったんですが、『友だちがいる環境で髪を切られる』といった非日常的な環境を体験して面白かったですし、可能性を感じました。こうした取り組みは、イベントを開催したお店の方ににとってもプロモーションの機会として捉えていただいています。

ただ、もちろんお金を出してイベントを開催していただいたからといって、そのままユーザーに口コミを書かせてしまっては公平性に欠けますし、私たちはそこに細心の注意を払っています。イベントを開催した場合にはイベントの特設ページを開設していただき、『こういうイベントをやりました』ということをユーザーに明示した上で対応していただいています。

コミュニティマネージャーになって面白いし嬉しかったことは、新しい友だちができたし、色んな人に知り合えたこと。

一緒にイベントを経験して、その上で手伝ってもらったりすることで仲間が増えました。最初はYelpの存在を知っているIT系の人が多かったんですが、スマートフォンがあまり使えないような地域のお店の方と話すような機会も得られるようになりました。ほかにも、小学校の先生やアパレル業界の方とか色んな方に。

年齢も属性もバラバラな人たちが集まるYelpですが、それが魅力だと思いますし、そういう方たちが増えてくることで、『Yelp』の存在そのものが強くなっていくと思っています」