東北大学は2月8日、独自に開発した共振ずり測定法を駆使し、基板の間の距離を約13nm以下とした空間に閉じ込められた液晶は、電場により分子の向きを変えることができなくなることを見出したと発表した。

同成果は、同大 原子分子材料科学高等研究機構の栗原和枝教授らによるもの。詳細は、英科学誌「Soft Matter」オンライン版に掲載された。

最近の表面力測定や計算機シミュレーションによる研究から、固体表面間のナノメートルレベルの隙間(分子サイズの数倍程度)に閉じ込められた液体(液晶)は、"閉じ込め効果(固体内には分子が移動できないため、分子の動きが制限される効果)"によって、液体分子が規則的に並んだり、著しい粘度上昇を示すことが知られている。このような現象は、基礎科学的に興味深い課題であり、ナノインプリンティングやナノ化学デバイスなど、ナノスケールでのデバイス開発においても重要な要素となっている。

ただし、現状では、液体や液晶分子がどの程度の空間に閉じ込められると、どの程度まで運動性が制限されるのか、といった具体的かつ定量的な情報は限られており、その物理化学的な機構は解明されておらず、予測できるような理論も提案されていない。このような背景を踏まえて、研究グループでは閉じ込め効果の理解を進めるため、液晶分子を対象として閉じ込め効果の研究を行った。液晶分子は、分子の構造や極性に強い異方性を有しており、液体のような流動性を持ちながらも、分子が同じ方向を向いて配列する性質を持つ。さらに、液晶分子に対して電場などの外場を与えることで、分子を回転させる力(トルク)を発生させて、分子の向きを制御することができる。これは、液晶ディスプレイに代表される様々な液晶デバイスで利用されている。

外場により、液晶に発生する回転力は定量的に見積ることができる。そこで、研究グループでは、この回転力により、どの程度の狭い空間まで液晶分子の向きを変えることができるのかを調べれば、閉じ込め効果は、どの程度のサイズでどの程度の力に相当する効果を発生するのか、という知見が得られると考えた。また、未だ十分に解明されていない表面による液晶分子の配向メカニズムの研究にも有効な方法論と知見を与えることになり、液晶デバイスのより効率的な制御につながると考えたという。

図1 (左)基板間の距離(D)が13nm以下だと、電場をかけても液晶の方向が変化しなくなる。(右)共振ずり測定法の模式図。光学干渉法により表面間距離を0.1nmの分解能で測定できる。ピエゾにより上表面を水平方向に振動させて、上表面が固定されている縦バネの変位を静電容量計で測定する。バネの振幅(Uout)の周波数(ω=2πf)依存性を測定することで共振カーブを得る。共振カーブの解析から表面間の液体の粘性を評価できる。光学干渉させるための雲母基板の裏面の銀蒸着膜を電極として表面間に電場を印加する

今回の研究では、独自の共振ずり測定法を用いて、向かい合わせにした雲母表面間にネマチック液晶である6CB(4-シアノ4'-ヘキシルビフェニル)を閉じ込めて、表面間にせん断を与えて、その応答を調べることで液晶薄膜の粘性を評価した。液晶は分子の並ぶ方向と平行方向の滑りには抵抗が小さく(低粘性)、並びと垂直方向の滑りには抵抗が大きい(高粘性)ことが知られている。ここで用いた棒状の細長い分子である6CBは、雲母表面に対して長軸を平行に並ぶ性質を持っている。ただし、表面間に電場を印加すると、6CBは電場に対して長軸を平行(表面に対しては垂直)に向きを変える性質を持っている。従って、表面間に電場を与えたときに液晶の粘性が高くなれば、分子が電場により表面に対して垂直に向きを変えたことが分かる。

電場印加なし、電場印加あり、それぞれの条件で得られた6CBの粘性の表面間距離依存性を見ると、表面間距離が約20nm以上では、電場印加条件で粘性が高く、6CBが電場により垂直配向することが分かる。ところが、表面間距離約20~13nmの間で、6CBの粘性は2桁近く上昇し、約13nm以下では、電場あり、なしで粘性の差がみられなくなった。この結果から、6CBは約13nm以下の隙間に閉じ込められると、閉じ込め効果による分子運動の制限が電場による回転エネルギー(10-9J/m2程度)を超えてしまい、液晶分子の向きが変わらなくなることが明らかになった。

図2 雲母表面間の6CBの粘性の表面間距離依存性(◇電場あり(1.9kV/mm)、◆電場なし)

図3 雲母表面間の液晶6CBの分子の配列の模式図

今回の成果は、閉じ込め効果によって生じる液晶の運動性に関する新奇現象で、閉じ込め効果の物理化学的な理解、機構の解明に向けて有効な方法と知見を与えたものだという。また、今後の液晶の表面や外場による配向制御の研究に対して、有効な知見と方法論を提示した研究でもあるとコメントしている。