従来のビッグデータの概念に変革を促す「リアルタイム・ビッグデータ」。果たして日本の企業はどれほどその価値に気づいているのだろうか。日本におけるリアルタイム・ビッグデータへの取り組みの実情について、ウルシステムズの主席コンサルタント 桜井賢一氏に話を聞いた。

ウルシステムズの桜井賢一氏が講演を行う「なぜ、これからは『リアルタイム・ビッグデータ』なのか?~ビッグデータは新たなフェースへ」の申し込みはこちら(参加費無料、9月27日金曜日開催、東京・竹橋)

あなたの会社にもある「リアルタイム・ビッグデータ」

ウルシステムズの主席コンサルタント 桜井賢一氏

膨大な量のデータ分析で得られた知見を、現在進行形のビジネスに当てはめ、次に起こるであろう事象を予測する「リアルタイム・ビッグデータ」。スーパーマーケットやコンビニエンスストアなどでの会計時に、レジの前に立った顧客のこれまでの購入実績から、本人が今もっとも欲しているであろう商品やサービスをレジ画面に表示してPRする、といった使い方を想像していただければわかりやすいかもしれない。これまでの一般的なビッグデータ活用のプロセスでは、データの蓄積、分析を行い、そこから得られた知見をビジネス現場にフィードバックし、活用法を検討する……といった、「過去の情報をもとに次の機会に備える」ようなやり方が多かった。それに対し、“今“発生している事象を瞬時に分析し、まさに“いまビジネスに使える”ようにするというのがリアルタイム・ビッグデータの本質なのだ。


しかし桜井氏は、「そのようなリアルタイム・ビッグデータの価値に気づいている日本企業、さらには何かしらの取り組みを開始している日本企業はまだ少ない」と指摘する。

「リアルタイム・ビッグデータはすでに世の中にたくさんありますが、それを積極的に活用したソリューションはまだあまり見られません。例えば電力会社であれば、人が電力メーターを検針して集計しているところが多いと思いますが、さすがにこれはスマートメーターに置き換えることで自動化されていきますよね。そうすると、これまで月に一回だった電力使用量がリアルタイムに取得できるようになり、それを日々の業務や自社のサービスに活用するアイデアが次々と出てくると思います。ビッグデータの活用は間違いなくリアルタイム性を競う方向になっていくと思いますが、少しでも早く取り組むことでノウハウを蓄積し、自社のサービスに反映させた企業がビジネス上の競争優位性を獲得することになるだろうとみています」(桜井氏)

リアルタイムデータから生まれる新たな価値とは

国内でも数は少ないが、先進的な企業はリアルタイム・ビッグデータの取り組みを始めている。これまでウルシステムズが手掛けてきた事例では2つのパターンが多いという。

ひとつめは、センサーなどの機器から送られてくるデータを処理するパターン、いわゆる「M2M」(Machine to Machine)だ。これまでは処理しきれないため、使われずに垂れ流されていたデータ、もしくはファイルに出力されたまま放置されていることが多かったデータの活用だ。

数千、数万といったオーダーの機器から数秒ごとに送られてくるデータはまさにリアルタイム・ビッグデータである。CEP/ストリームコンピューティングといった技術を利用することで、これらのデータから、機器ごとに直近1時間の平均値を算出したり、機器と機器の相関関係を算出する、といったことが簡単にできるようになってきた。すると、今まで捨てられていたデータは突然価値を持ってくるようになる。

例えば、これまでは1時間以上経ってからログファイルをバッチ処理で解析してようやく発見していたような異常状態を、リアルタイムで検知できるようになる。生産ラインなどでは、1秒でも早く異常な状態を検知することで、ラインの停止などによる損害を少しでも減らすことができるようになるだろう。

もうひとつは、ニュースサイトやTwitter、Facebookなどのソーシャルメディアからの情報を取り込み、そこから新たな知見を得るというものだ。

あるプロジェクトでは、Web上に公開されているニュースや気象情報を補完するために、Twitterなどのソーシャルメディアの情報を使えないか、という取り組みを行った。ニュースサイトやWebサイトで公開される気象情報は、情報の信頼度は高いものの比較的発信が遅く、対象範囲も広くなりがちだ。一方、人のつぶやきなど、ソーシャルメディアからの情報は、情報の信頼度は低いものの、リアルタイムかつピンポイントのデータを大量に取得できる。まだまだ改善の余地はあるものの、これらの特性の異なる複数メディアの情報を統合することで、リアルタイムにピンポイントの気象状況を推定することができた。

こうした処理には日本語の文章を解析する処理が欠かせない。以前は文章を単語単位でバラバラに分解して、事前に準備した辞書に入っている単語が現れたかどうかを判断するようなものが多かった。しかし、最近では文脈を理解して、文章の内容をかなり正確に把握することができるようになってきた。「将来はソーシャルメディアに投稿された画像データや動画データなども解析の対象になるだろうと思っています」(桜井氏)。

それでは、CPUをたくさん積んだマシンを用意して、難しい数式やアルゴリズムを駆使すれば、ビジネスを成功させることができるかと言えば、話はそう簡単ではない。

「バッチ処理だったものをリアルタイム化するだけであったり、非常に単純な処理だけで解決してしまうこともよくあります。お客様と一緒に考えて考え抜いて、まったく異質なデータをリアルタイムに組み合わせるアイデアが生まれたこともありました。やはり、最後に課題を解決できるのは、ビジネスを知り尽くしているお客様自身なんです」と桜井氏は語る。

リアルタイム・ビッグデータを活用するにはどこから始めたらよいのか、9月27日に開催されるセミナー、「ビッグデータは新たなフェーズへ 『なぜ、これからはリアルタイム・ビッグデータ』なのか?」における桜井氏の講演で明らかにされる予定だ。「うちの会社でもこんなことができるかもしれない」といった気づきを得るためにも、ぜひ足を運んでみてはいかがだろうか。