川崎重工業と国立成育医療研究センター(成育医療)、産業技術総合研究所(産総研)は、分化しやすく、熟練者でなければ培養が難しいヒトiPS細胞の自動培養に、成功したことを明らかにした。

iPS細胞は、人間の皮膚などの体細胞へ数種類の遺伝子を導入することにより作られた神経や心筋、肝臓、すい臓などさまざまな細胞や組織になる能力を持つ万能細胞で、病気の原因の解明や新しい薬の開発、細胞移植治療などの再生医療への活用が期待されている。

他の細胞に分化しやすいiPS細胞は、現在、熟練した研究者が顕微鏡を用いて細胞の状態を観察し、細心の注意を払って細胞を分化させないよう、状態のよい細胞のみを選んで培養を行っているが、実際に薬の開発や医療に使用する実用化に向けては、安定して大量に培養できる技術の確立が課題となっていた。

今回、川崎重工と成育医療、産総研の3者は、川崎重工が開発した細胞自動培養装置を用いて、iPS細胞を自動培養することに成功した。

川崎重工が開発した細胞自動培養装置

iPS細胞の自動培養には、熟練した研究者の培養技術を装置で再現し、安定的に培養を継続することが求められていた。今回、産総研 幹細胞工学研究センターの浅島研究センター長がプロジェクトリーダーとなり、iPS細胞の実用化に向けたコンセプトを定め、その一環として大量培養を実現するため、成育医療の生殖・細胞医療研究部が確立したiPS細胞の培養プロトコルを、川崎重工がロボット技術と画像処理技術を活用した細胞自動培養装置で再現することに成功した。

これにより、これまで熟練した研究者が行っていたiPS細胞の分化・未分化の判断を自動化し、未分化の細胞のみを回収してさらに増やすことも可能となる。

なお、川崎重工は同装置で3カ月間培養を継続し、安定的に自動培養できることを実証したほか、成育医療と産総研は各種検査を行い、培養された細胞が未分化のiPS細胞であることを検証している。