中国のBYDが、いよいよ日本市場攻略に本気を出すようだ。日本の自動車市場の約4割を占める「軽自動車」の分野に、力の入った電気自動車(EV)の新型車を投入すべく、急ピッチで準備を進めているのだ。軽EV「ラッコ」の開発には、日本の自動車業界で経験を積んだ人材も深く関わっている。どんなクルマなのか、実物を見てきた。
ラッコの開発責任者は元・日産
東京モーターショーからの改称後、2度目の開催となった「ジャパンモビリティショー2025」(JMS2025、モビショー、会期は11月9日まで)で注目を集めたクルマがある。中国のBYDが初めて外観をお披露目した軽EV(軽自動車の電気自動車)の「ラッコ」(RACCO)だ。
ラッコの発売は2026年夏の予定。BYDにとっては初の海外専用設計モデルとなる。日本独自の軽自動車規格に合わせて、軽自動車の主流であるスーパーハイトワゴンに仕立てた1台だ。
軽自動車は日本の自動車市場で約4割を占める売れ筋商品。特に地方部では軽の人気が根強い。BYDは今のところ、知名度不足などもあって日本で販売台数を爆発的に伸ばすことはできていないが、ついにラッコで本気の勝負を仕掛けてきたといった感じだ。
日本市場攻略に向けて、独自の人材戦略を進めているのもBYDの特徴。BYDの日本向け乗用車戦略を引っ張る東福寺厚樹BYD AUT Japan社長は、三菱自動車工業で長く営業部門に携わり、VW(フォルクスワーゲン)ジャパンセールス社長から転身した人物だ。商用車部門のBYD Japanで副社長を務める石井澄人氏は、トヨタ自動車の営業部門からGMジャパン社長を経てBYD入りした人材。いずれも日本市場の国産・輸入車の動向を熟知している。
さらに、日本市場攻略の最重要モデルとなる「ラッコ」の開発責任者は、日産自動車で開発部門リーダーを務め、軽自動車「デイズ」や軽EV「サクラ」を手掛けた田川博英氏なのだ。田川氏は日産からBYD Auto Japanに転身し、商品企画部長としてラッコ商品化の「CKプロジェクト」リーダーとなっていた。
売れ筋の軽で勝負をかけるBYD
「ラッコ」は「日本の消費者のために専用開発した」(劉学亮BYD Japan社長)とする。軽規格の車幅・長さ・高さに収めた軽自動車で、最も売れているスーパーハイトワゴンのボディタイプを選択し、両側スライドドアを採用した。BYD独自のリン酸鉄リチウムイオンのブレードバッテリーを搭載することで、車内空間を広くしているところも同社の強みが出ている部分だ。
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日本で最も売れているクルマはホンダの軽スーパーハイトワゴン「N-BOX」だ。BYDの「ラッコ」はN-BOXと同じく、背が高くて両側にスライドドアの付いた軽自動車となっている。ちなみに、軽スーパーハイトワゴンのEVは、日本メーカーもまだ発売していない
価格や航続距離は非公表としているが、「軽ユーザーが購入する、競争力のある価格に」(東福寺BYD Auto Japan社長)との考えを明らかにしている。バッテリーは容量の違う2種類を用意し、通常モデルと航続距離が長いモデルをラインアップする。生産はBYD中国・上海工場なので、ラッコは輸入車ということになる。
「ラッコ」の日本市場導入に対する日本の軽メーカーの反応は、「脅威ではあるが、軽EV普及への刺激ともなるし、こちらも軽EVの開発投入計画をしっかりやっていく」(鈴木俊宏スズキ社長)といった感じだ。
日本独自の規格である軽自動車に海外メーカーが本格参入するのは初めてのことだが、世界的なEV大減速の潮流に加えて、日本市場では新車販売の2%未満とEVの普及が進んでいない。日本ではトヨタのハイブリッド車(HV)攻勢もあってHVが主流となっており、バッテリーEV(BEV)の充電インフラ整備が遅れていて、EVの価格が高いことも普及の妨げとなってきた。
だが、軽自動車こそBEVに適しているとの見方は強く、ここへきて国産車OEMも軽乗用車・軽商用車のBEV展開を活発化させている。その中でBYDの「ラッコ」は、日本の軽市場に大きな一石を投じることになるのか。注目の動きとなろう。













