シャープは2027年度に日本のEV市場に参入する。親会社である台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業が開発した電気自動車(EV)をベースとする自社ブランドEVを発売する計画だ。日本ではEVの普及が遅々として進んでいないが、シャープは逆風の日本市場に参入する背景とは?
シャープのEV、どんなクルマ?
シャープはホンハイが開発した「Model A」をベースとし、自社のAI技術なども盛り込み、車内空間にこだわって開発したバッテリーEV(BEV)のコンセプトモデル「LDK+」(エルディーケープラス)を「ジャパンモビリティショー2025」(JMS2025)に出展する。これを実用化し、2027年度に日本市場で発売する予定だ。
今回の「LDK+」は、シャープのEVコンセプトモデル第2弾だ。第1弾の発表は2024年9月だった。今回のLDK+は第1弾を進化させたもので、ホンハイのEV「ModelA」をベースとし、シャープ独自のAI技術「CE-LLM」やAIoT技術、センシング技術などを組み合わせ、EVと住空間、エネルギー機器などをつなぎ、快適でサステナブルな暮らしを実現するEVとしての提案となっている。
つまり、シャープはクルマの「止まっている時間」にフォーカスし、「リビングルームの拡張空間」としてのEVを提案しているわけだ。同社の種谷元隆専務執行役員CTOは「シャープのAIとホンハイのSDVの融合によるスマートな車内空間がシャープらしいEV開発となる」と話す。
具体的に「LDK+には、映画などを車内で見るためのプロジェクターやロール式スクリーンを搭載している。運転席は後向きに回転させられるので、後部座席の乗員と対面して座ることも可能だ。
日産との関係にも注目?
いよいよシャープが日本のEV市場に参入するわけだが、そもそも、同社がEVに取り組むようになった流れとは、どのようなものだったのか。
始まりは、2016年のホンハイによるシャープ買収だ。ホンハイはiPhone製造を手掛ける世界最大手EMS(電子機器の製造受託サービス)企業。液晶技術で一時代を築いた(世界の亀山モデル)シャープが業績を悪化させた際、その技術力を見込んで子会社化した。
ホンハイは2019年にEV事業参入を表明し、鴻海科技集団として、「フォックスコン」のブランド名でEV開発を進めてきた。シャープとのEV事業の連携でキーマンとなったのは、ホンハイのEV事業最高戦略責任者(CSO)を務める関潤氏である。
関氏は異色の経歴で知られる。防衛大学で機械工学を学びながらジェット戦闘機のパイロットを目指したが、視力の低下で断念して日産自動車に入社。日産がポストゴーンの経営陣の混乱から2019年12月に内田前体制に移行した際、もともと“社長候補本命”と目されていたのが関氏だった。結局、委員会が日産の新社長に指名したのは日商岩井出身の内田誠氏であり、最高執行責任者(C00)に就いたのはルノー出身でインド人のクプタ氏で、関氏はナンバー3の副COOとなった。
これを見た当時の日本電産(現・ニデック)の永守重信社長(現会長)が直々に後継者としての転身を誘い、関氏は日産副COO就任から1カ月足らずで日本電産入りし、2021年6月にCEOに就任した。だが、それも永守会長から社長CEOの座を追われ、2022年9月に社長を退任した。
そして2023年2月、台湾・精密科技グループのEV事業の最高戦略責任者(CSO)に就くことになる。EMSからの事業多角化でEV事業に乗りだすホンハイが、期待をかけて関氏をヘッドハンティングしたわけである。
ホンハイはシャープの持つ潜在的な技術力を高く評価しており、EV開発におけるシャープの技術活用に対する期待も大きい。また、日本の自動車メーカー(OEM)との協業にも意欲を見せている。三菱自動車工業はホンハイが開発・製造したEVのOEM(相手先ブランドで製造)供給を受けてオセアニアで販売する計画だ。また、三菱ふそうもホンハイ製のEVバスで協業する方向にある。
さらに、関氏の古巣である日産との協業関係も注目されている。一時は、日産が閉鎖を予定する神奈川・追浜工場の買収に向けホンハイが水面下で動いたようだが、交渉は決裂したと伝えられた。だが、これは正式な発表ではなく、今後、両社の関係がどう動くかは予断を許さない状況だ。シャープの亀山第2工場は2026年8月までにホンハイに売却する予定で、シャープ・ホンハイの協業EVの生産工場がどこになるのかも注目される。
EVの普及は世界的に減速傾向にあり、特に日本では普及が遅れている状況だ。その日本市場では国産、中国車、韓国車、欧州車によるEVの競合が激化していく動きがある。それだけに、「シャープならではのEV」をホンハイがバックアップしていく中で、日産の販売店を販路として活用していく案が検討される可能性もあるだろう。








