来年の今ごろには「Webはログインしてから使うもの」という感覚がWebユーザーに広く根付いているかもしれない。

SNSやTwitter、Googleサービスなどを日常的に使っている人ならば、Webブラウザを利用しているときに何かしらのオンラインサービスにログインした状態でいる時間の方が長いのではないだろうか。たとえばGoogleアカウントにログインした状態でGoogleの検索サービスを使えば、ロケーションや友だち関係などを反映した、より自分に関連した結果も引き出せる。MozillaのAza Raskin氏(MacintoshプロジェクトのJef Raskin氏の息子さん)は、「アイデンティティは、これからの5年を象徴するようなテーマの1つになる」と予測している。

MozillaのAza Raskin氏

問題はWebにアイデンティティを反映させる方法だ。ここ2年ほどの間にFacebookの「Facebook Connect」やGoogleの「Friend Connect」など、ユーザーがあるサービスで構築したプロフィールやソーシャルグラフを他のWebサイトでも共有できる仕組みが整ってきた。だが、Raskin氏は「Your identity is too important to be owned by any one company. Your friends are too important to be owned by any one company (ユーザーのアイデンティティは重要すぎて、どのような企業であれ、1企業には任せられない。友だち関係も重要すぎて1企業には任せられない)」と述べる。

そこでMozilla Labsでは、Webブラウザ(Firefox)をオンライン・アイデンティティ管理の窓口とするアイディアを検討している。ユーザー自身がデスクトップまたはクラウドでプロフィールやソーシャルグラフを保管・管理し、Webブラウザをエージェントに、各Webサービスにアイデンティティを適用する。現行案では、ブラウザのURLボックスの横にアイデンティティ用のスペースを用意し、そこからシンプルにサインアップまたはログインでき、Webページとの組み合わせでログインの状況をひと目で確認できるようにする。アイデンティティが、URL、セキュリティに並ぶWebブラウジングにおける重要な情報として扱われている。

アクセスしているWebページとの組み合わせでログインの状況をひと目で把握

サインナップ画面。ユーザー自身が管理しているアイデンティティを、必要に応じてカスタマイズ

ユーザーログインがWebログインを兼ねるChrome OS

「ログインありき」を意識しているのはMozillaだけではない。Googleもまた、Webログインで先手を取ろうとしている。

たとえばGoogleの各種サービスが統合されたAndorid携帯だ。初めて電源を入れたとき、Android携帯の画面にはまずGoogleアカウントの設定画面が現れる。そこでログインしたアカウントのユーザーデータが自動的に携帯全体に同期される。コンタクト・アプリを開けばGmailのコンタクトが並び、モバイルアプリを購入すれば自動的にGoogleアカウントに登録してあるクレジットカードから決済される。ログインするだけで携帯全体が、パソコンで利用するのと同じ自分のGoogle環境になる。Googleユーザーにとっては、非常に便利な仕組みだ。

Googleアカウント設定をスキップして使い続けることも可能だが、それでは使い勝手が著しく減退する。基本的にAndroid携帯は、Googleアカウントにログインした状態でモバイルWebを利用するのを前提とした携帯なのだ。

来年後半に登場するChrome OSでも、起動スイッチを入れたらGoogleアカウントのログイン画面が開く。こちらはログインしなれければデスクトップにアクセスできない。Googleアカウントへのログインが必須だ。

ログインすることでGoogleアカウントで保管している自分のChrome OSの設定が呼び出され、クラウド上の自分のデータにアクセス可能になる。Googleの各種サービスも、アカウントホルダーとしてスムースかつ便利に利用できる。Chrome OSのログインはPCユーザーとしてのログインであり、同時にWebへのログインを兼ねている。

まずGoogleアカウントにログインしなければデスクトップにたどり着けないChrome OS

Raskin氏に言わせれば、Googleにアイデンティティを任せるのは考えものである。たしかに今のAndroid携帯の多くはGoogleケータイのようだ。では、Googleアカウントの浸透はネットの成長に好ましくないことなのだろうか?

その答えはわからない。Web利用にアイデンティティを反映させる方法は、これから議論が本格的に高まるトピックであり、ビジネス上の競争も激化するだろう。それによりユーザーの使い勝手が損なわれる可能性もあるし、今は"evil"っぽいGoogleが一転、広くWebにログインできるオープンな世界を切り開くかもしれない。たとえば米Plaxo CTOのJoseph Smarr氏が18日、自身のブログで、GoogleのソーシャルWebプロジェクトを率いることを明かした。同氏はOpenID、OAuthなどの標準に関わってきたオープンWebの唱道者としても知られる。Googleでは「ソーシャルWebの未来に焦点を絞ったGoogle全体におよぶ取り組みを手助けする」という。こうした動きを含めて、今は先を読みにくい。

ひとつ言えるのは、ユーザーがアイデンティティを反映させる方法など考えはしないということだ。シンプルに面白いサービス、便利なサービスを使うだけである。

この点でGoogleデバイスの「ログインありき」は効果的だ。ログインというユーザーが嫌うひと手間を意識させることなく、常にGoogleアカウントにログインした状態でWebを使ってもらえる。そのうちアイデンティティをもってWebを利用する便利さにユーザーが気づくことになる。Googleの弱点としてソーシャルWebが挙げられるが、GoogleアカウントにログインするモバイルWebユーザーの確かな数字はFriend Connectの浸透という点でもじわじわと効いてきそうだ。