- 「それを検討する前に、こっちも検討しなきゃいけないんじゃないですか?」
- 「そもそもこんな会議を開いてどんな意味があるんだ??」
- 「この会議はもう終わりだろ? ちょっと早いけど失礼させてもらうよ」
能天気な発言をする部下や、会議をひっくり返すような上司の発言によって、会議が迷走することはままある。発言者が部下ならば、無視するか後で叱ればよいが、それが上司だとなかなかそうもいかない。ましてや、それが顧客の発言だったらなおさらである。無視することもできず、受け止めるしかない。心の中で「勘弁してくれよ…」と呟きながら。
![]() |
本書はアビーム コンサルティングで戦略系のコンサルティングを手がけてきた現役コンサルタントが書いた本である。コンサルタントは基本的に顧客との対話が仕事となるため、会議は日常的な仕事で、本書はそんな日常の中で磨かれてきたノウハウがわかりやすい例とともに記されている。
筆者もコンサルタント業界に身を置いているが、私の見る限り、顧客の信頼を得ている「良いコンサルタント」ほど、会議の仕切り方も見事である。コンサルタントは顧客との対話の中で解を見つけ、合意を得て課題解決を進めていく。会議の仕切りがうまければそれだけ解を見つけるのも早くなり、顧客の信頼も得やすくなるのである。したがって、コンサルタントは仕事をうまく進めるために会議に細心の注意を払うことになり、準備に時間をかけることになる。私の先輩の中には「準備が8割、本番は2割」とおっしゃる方もいる。冒頭のような発言によって、会議が台なしにならないようにするためである。
会議を開催するにあたってとくに大切なのが、その会議を「何のために」開催するのかを明確にすることである。本書でも「技術01 ゴールはなに?」として、真っ先に挙げられている。会議の目的が「明確にされていない=出席者全体に周知されていない」状態で会議が始まると、出席者の考えがバラバラになってしまい、思うように進めることができなくなってしまう。また、会議の最中に判断が必要になった場合に、目的に沿った判断ができなくなる。
さらに、会議がどのように進んでいくのかを明示することも大切である。もし、あなたがある本を読むことになったとして、1枚を読むと次の1枚が手渡され、それを読むとまた次を……という形式で読むことになったとしたら、「いったいこの後、どれだけあるんだ?」と、あなたは大変なストレスを感じることだろう。会議も同じである。終わりの時間が示されていたとしても、どういう段取りで進んでいくかを知らなければ、その会議で決めるべき項目のうち何割が決まっていて、時間が余っているのか、足りないのかがわからない。それがわからないと、詳細に発言できるのか、短く簡潔に述べた方が良いのかを出席者は判断できず、会議の進行はチグハグになってしまう。その結果、結論が出せなかった議事と、すっきりとしないモヤモヤ感が出席者に残ってしまう。出席者のモヤモヤ感は澱(オリ)のように心に残ってしまい、のちのちまで影響を及ぼす。したがって、その後の仕事を円滑に進めるためにも、毎回の会議では議事を残さないようにすることが大切なのだ。
本書はそういった会議を進める上でのポイントが、「7つの心得」と「11の技術」としてうまくまとめられており、ハウツー本として活用しやすい内容になっている。
![]() |
カバーに使われている中村淳司氏のイラストは、本文でも「論点くん」「待ったくん」などのキャラで登場する |
ただし、注意が必要な点もある。本書で示されている重要なポイントは事例の中で説明されているのだが、その事例が家族会議であるため、ビジネスでの会議とは若干、趣が違っている。おそらく著者は読者に親しみを持たせるために、そのような事例を挙げたのだろうが、家族会議と会社でのビジネスとして会議では、議事の重さも緊迫感も違うため、まさに会議で困っている読者が自分自身のケースとしてイメージするのには、もう1段階、想像を膨らませる必要がある。せっかく著者はコンサルタント業界に身を置いてさまざまな会議を経験してきているのだから、読者層となるビジネスパーソンがもう少しイメージしやすい会議の実例を示していれば、と思う。
とは言え、面白くて参考になる本である。管理職として活躍しているビジネスパーソンにとっては、これまでに蓄積してきたスキルを補完するのに本書が参考になるだろうし、若手への教育としても使うことができるだろう。若手にとっては、どういったポイントを押さえていると会議がうまく進み、どこを外すとうまくない結果になってしまうのかという先輩の技を勉強する参考として本書を活用できるだろう。筆者もこれから、本書に記載されている内容は実践してみるつもりである。
もし、ここまで読んで、実際にこの本の効果を確かめたくなったらどうすればよいか? ぜひ、筆者とお仕事をご一緒する機会を設けてほしい。会議の私の身の振り方を見れば、良くも悪くもこの本に効果があるかないか一目瞭然のはずだろうから。
1回の会議・打ち合わせで必ず結論を出す技術 - 戦略コンサルタントが教える「決まる会議」の掟
![]()
斎藤岳 著
東洋経済新報社 発行
2008年7月10日 発売
A5判/240ページ
ISBN4-492-55611-7
定価: 1,680円本書を3名様にプレゼントいたします。こちらのページからご応募ください。
執筆者プロフィール
枝松利幸 (EDAMATSU Toshiyuki)
日立コンサルティング コンサルタント。2006年4月に日立製作所入社後、10月より日立コンサルティングへ出向。日立総合研究所にて、Web 2.0を用いたバイラルマーケティングの研究および社内SNS「ミネルヴァの梟」実証を手掛ける。ナレッジマネジメントを専門に、新規事業開発や各種提案を日々積極的にこなす。週末は、ツーリングや野球観戦などのスポーツを楽しみながら、物事を考える新しい切り口を探している。