米国で知り合いのいない街に引っ越したら、まず最初にやるべきこと……Nextdoorユーザーのご近所さんを探して友達になることだ。しばらく前に引っ越した時、その日のうちに向かいに住む人に話しかけてもらった。その際にウチの家内はすばやく聞いていた。「あなたNextdoorに入ってる?」

Nextdoorは、いわゆるご近所SNSである。「中高年者のTwitter」と呼ばれたりもしているようにユーザー年齢高めのサービスで、かつローカル色が強いため、日本ではあまり知られていない。でも、米国で生活していると、近所の人たちや学校の父兄同士の会話など、普段の生活の中でよくNextdoorからの話題が出てくる。FacebookやTwitterのような大きなネットワークではないけど、最も生活に根づいたSNSであると実感すること度々だ。

Nextdoor上のやり取りは様々、なんでもありだ。

  • ウチの猫を見かけた人は連絡ください。
  • ウチの前で茶色い猫が車にひかれています。
  • アパートの光熱費がすごく高いけど、これ普通なの?
  • ○○ストリートでつぶれた中華料理店はインド料理店になるらしい。
  • 週末に壁をペインティング、時給10ドルで働くティーンエイジャー募集。
  • 誰かパワードリル貸して。
  • 〇〇ストリートで強盗事件がありました。

スマートフォンを脅しとられたり、車の窓を壊されるぐらいの事件だったら、ローカルニュースで取り上げられることはない。でも、そうした事件が近所で起こっていることは知っておきたい。Nextdoorから得られて役立つ情報は様々だが、特にローカルの治安や緊急情報を知るためのソースとして欠かせない。

  • 「屋根を修理している人を探しています」「犬が行方不明」など、Nextdoorのフィード

    「屋根を修理している人を探しています」「犬が行方不明」など、Nextdoorのフィード

では、NextdoorがなぜローカルSNSとして普及しているかというと、近所に住む本人として参加することが条件のサービスだからだ。

Nextdoorにおける自分のご近所ネットワークは、自宅を中心とした数区画ぐらいの範囲に限られる。さらに「近辺地域」を2〜3学校区ぐらいまで広げることが可能。それら以外の地域には入れないし、入ってくることもできない。

だから、ネットワークに加わる際には住所を証明する必要があり、冒頭で述べたようにその地域のメンバーから紹介してもらわなければならない。そして、匿名は不可。実名または近所の人たちに普段呼ばれている名前で登録しなければならない。

  • 緑色が近所のNextdoorメンバー、住宅街だと参加率は高い、クリックすると名前と住所が表示される

ネットワークに加わってから、Nextdoorでマップを開くと、自分の地域でNextdoorメンバーが住んでいるところが緑色で表示され、タップすると名前・住所付きでプロフィール画像がポップアップする。つまり、ここに私が住んでいることを近所のNextdoorユーザーは簡単に知ることができる。セキュリティという点で「よろしくない」という人もいるが、自分の「近所」地域以外の人たちにも知られるわけではない。数区画の範囲であり、そして近所付き合いというのはそういうものである。ここに私が住んでいることはすでに近所の人たちの多くが知っているし、知らなくても近所の人ならここに住んでいる人を調べるのは容易なことである。

だから、Nextdoorで不用意な発言は禁物だ。ネットの誰かではなく、ここに住む私の発言であるのが丸わかりなのだ。だからといって、Nextdoorでの人々のやり取りがうわべだけなっているわけではない。例えば、先月初めに「ホームレスの人を見かけるようになったけど、彼がゴミ箱をあさっていても通報しないで助けてあげて」という投稿があった。それに対してシェルターやホームレス支援団体の情報を交換する書き込みがあれば、画像を求めたり、明らかに問題のある発言も飛び出して険悪な雰囲気になったりもした。でも、それらは全てどこかの誰かの発言ではない。誰もが自分の発言として述べており、だから発言の自由が認められる (そこには責任も発生する)。

全ての地域で同じなのかは分からないが、少なくとも私が知っている地域ではNextdoor上で本音が飛び交っている。だから、トラブルやけんかが絶えない。これは良い面も悪い面もあって、実名型だからあらゆる発言に重みがあり、それゆえに近所が自分に合わないコミュニティと感じた時の失望感は大きい。でも、自分に合わないことに気づかないまま住み続けてストレスを溜め込むより、合わないことに早く気づいて引っ越しに踏み切った方が結果的には良いという見方もできる。逆に、自分に合ったコミュニティに住めていることを確認できている時の幸福感も大きい。

特に最近は新型肺炎を巡って、中国から戻ってきた人たちがいると様々な噂が近所や学校で飛び交う。伝聞や推測のような噂がトラブルを引き起こしやすい状況だけに、ご近所SNSの効果を実感している。全ての地域のNextdoorが同じだとは思わないが、少なくとも私のネットワークでは、オープンで、それぞれが発言の責任を持って議論したり情報を共通する場があるおかげで、誰もが安心できて、帰国した人たちをコミュニティでサポートできる環境になっている。

ちなみにNextdoorが米国でサービスを開始したのは2011年11月。ユーザーの増加に伴って、2017年頃から広告プラットフォームとしての可能性が注目され始めた。住所と名前が確かなユーザーのネットワークが広告主にとって魅力的なのは言うまでもない。全米規模のビジネスの大きな広告が目立つが、賑わいを見せているのはローカルビジネスの小さな広告だ。例えば、完全ローカルなGrouponと呼べるような「Local Deal」コーナーを用意していたり、広告もローカルビジネスにチャンスを与え、利用者のメリットも生み出す戦略を採っている。