昨年5月の値上げで年会費119ドル (約12,700円)になって更新を迷うユーザーが続出していた状態から一転、Amazon Primeの評判がすこぶる良い。米国の主要44都市において、1,000万アイテム以上を翌日に配達する配送特典を6月に開始したからだ。昨年末に米国での契約数が100万を突破したPrimeが、新たな成長を遂げそうな勢いだ。

Amazonは4月25日、1~3月期決算において4〜6月期に物流センターや配送インフラに8億ドルを投資する計画を明らかにした。そして6月初旬に1,000万アイテムの翌日配達を発表したのだが、その時点ではあまり話題にならなかった。1,000万アイテムといっても、従来の2ビジネスデーのPrime配送対象製品のわずか10%。2ビジネスデーだって予定通りに届かないことが少なくなかったから、それほど期待されてはいなかった。

ところが、6月後半になってAmazonの買い物の中に「FREE One-Day」対象商品が混じるようになって状況が変わり始めた。これまでと同じように買い物をしていても「FREE One-Day」商品が翌日には届く。実際に始まってみると、たしかに早い。従来の「FREE Two-Day」はオンライン通販という感じだったが、翌日配達は近所の店からデリバリーしてもらうのに近いスピードだ。次にAmazonで買い物をする時に「FREE One-Day」の表示に注意するようになる。すると、思った以上に翌日配達対象商品に度々遭遇することに気付く。そして、同じような商品、同じ商品を扱っている業者があった時に「FREE One-Day」を選ぶようになる……Amazonの思う壺にはまっている。

  • 翌日に配達されるだけではなく、週末の配達も増加、また「FREE Same-Day」対象商品も増えている

    翌日に配達されるだけではなく、週末の配達も増加、また「FREE Same-Day」対象商品も増えている

「翌日配達スゴい!」と言っても、年会費4,900円で当日お急ぎ便やお急ぎ便、お届け日時指定便を使える日本のAmazonのプライム・ユーザーにはピンとこないかと思う。それは日本で利用できる配送特典が恵まれすぎているから。それほど日本の物流は素晴らしいのだ。米国はというと、これまで年会費119ドルで「1億アイテム以上を2ビジネスデー配達」だった。配達日時指定など望むべくもない。宅配荷物は「そのうち来るもの」であり、送料がかからないだけでユーザーが満足しているような状態だった。

そんな米国で、オンラインで購入したものが特別料金も支払わずに翌日に届くというのは魔法のようである。決算発表の時に、「FREE Two-Day」を「FREE One-Day」に短縮する意義について質問されたAmazonのBrian Olsavsky (最高財務責任者)は「多くの潜在的な購入の可能性が広がり、顧客の利便性が向上すると考えている」と答え、Primeの「グラウンドブレイクになる」と明言した。ライバルのWalmartやTargetも翌日配達のプログラムを提供しているが、Walmartは22万アイテム、TargetのReStockプログラムの対象はわずか3万5,000アイテムにとどまる。

Amazonが翌日配達を拡大できた理由は多岐にわたる。UPSやFedEx、USPS (米郵便公社)だけに頼らず、小規模の宅配契約を増やし、シェアリングエコノミー型の商品配達プログラム (Amazon Flex)を開始。物流用の貨物機や貨物船も含めた物流ネットワークを拡充してきた。その中には自動化や効率化が進む配送センターの進化も含まれる。

以前に比べると、UPS、FedEx、USPS以外の配達が増加している。以前は契約業者の配達になると遅配や誤配が起きるのではないかと心配になったし、実際トラブルも多かった。でも、最近はAmazonによる管理が行き届き始め、配達のトラッキングや問い合わせといったサポート面はむしろAmazon配送の方が充実している。

  • Amazon配送なら配達間近になると通知が届き、配達員がいる場所、配達までのストップ数などを確認できる

1,000万アイテムでも少ないという声もあるが、よく売れている商品が「FREE One-Day」の対象になっており、「FREE Two-Day」の1割という数字から思う以上に買い物の多くで「FREE One-Day」を利用できる。よく購入される商品は常に物流センターにストックされており、そうした商品を効率的に動かすことでPrimeメンバー向けの無料翌日配送を実現している。Amazonは「FREE One-Day」対象商品を増やすために、Amazonに出品する業者がAmazonの物流センターに商品を預けて同社の注文処理/発送を利用するFulfillment by Amazon (FBA)でも、人気商品をより多くFBAに預ける出品者に保管料のディスカウントを提供し始めた。Amazonユーザーが「FREE One-Day」を重視するようになったら、ビジネス側も「FREE One-Day」商品になることを意識せざるを得ない。

1,000万アイテム以上の翌日配達を有料オプションにしなかったのもAmazonらしい判断だった。Primeの肝は「より便利」だ。有料オプションにしたら、その商品を翌日に必要な人しか使わない。それではリアル店舗と競争できるような買い物体験が多くの顧客に広まらない。Primeを値上げをしてでも、翌日配達をPrimeの無料サービスに組み込んで全てのPrimeメンバーが体験できるようにすることに価値がある。昨年「利用者の体験の向上のため」という漠然とした理由でPrimeの年会費を値上げした時に多くのユーザーが反発した。苦しい投資の時期を過ごしたが、1,000万アイテム以上の翌日配達という具体的な体験を通じて今、年会費119ドルのPrimeが好意的な反応を得始めている。