QUARTZがまとめた米国における言語別の平均年収ランキングが日米で話題になった。言語ごとの需要の差がわかって面白いが、日本ではむしろ米国のプログラマーの年収差にスポットライトが当てられた。

米国における言語別の平均年収ランキング(QUARTZ調べ)

順位 言語 報酬
1 Ruby on Rails 10万9460ドル(約1290万円)
2 Objective C 10万8225(約1270万円)
3 Python 10万717ドル(約1180万円)
4 JAVA 9万4908ドル(約1120万円)
5 C++ 9万3502ドル(約1100万円)

日本の状況はというと、日本国内の求人に基づいた「プログラミング言語別求人給与額の第2位はRuby、第1位は?」によると、1位のPythonが382万2018円 (求人件数281件)、2位のRubyが361万9448円 (求人件数664件)である。

でも、驚くのはまだ早い。米国ではコンピュータサイエンス専攻で大学を卒業しても、年俸を不服としてIT企業に就職しない学生が多いのだ。このことがIT企業のソフトウェアエンジニア不足を引き起こしており、Huffington PostでBen Walsh氏は「もっと支払え、そうすればテックワーカー"不足"は簡単に解決する」と提案している。適切な給与レベルはもっと上だというのだ。

ラトガース大学のHal Salzman教授らが今年4月に公開した「Guestworkers in the high-skill U.S. labor market」によると、米国でSTEM(サイエンス、テクノロジ、エンジニアリング、数学)関連の学位を取得した卒業生の2人に1人しかSTEM分野の企業に進んでいない。コンピュータサイエンス専攻の卒業生は32%がIT業界に条件を満たす求人がなかったと回答、53%がIT産業以外の企業からより良い条件の提示を受けたという。

1992-2011、IT職業の平均年収と失業率の推移(出典:Guestworkers in the high-skill U.S. labor market)

ドットコムバブルの後、景気低迷を挟みながらも過去10年の間、米IT産業の求人は少しずつ増加してきた。このペースだと2020年頃には2000-2001年のピーク時のレベルに達する。それなのに、米国のプログラマーの実質賃金は1990年代後半のレベルに下がったまま、ここ数年は横ばい状態が続いている。原因として指摘されているのが、海外からのテックワーカーの流入だ。特に過去10年の増加が目覚ましく、IT産業の新規雇用の3分の1から半分を占めるようになった。

FacebookやGoogle、Microsoftなど主要なIT企業は、米国で優秀なソフトウェアエンジニアが不足しているとして、政府にSTEM分野の移民枠拡大を求めている。しかし、BusinessweekでJosh Eidelson氏は「The tech worker shortage doesn't really exist (テック労働者不足なんて本当は存在しない)」と指摘する。「IT企業が人件費を低く抑えようとしている」のが問題であって、ポジションを満たす米国人のテックワーカーは存在する。つまり不足しているのはエンジニアではなく、報酬というわけだ。

米プログラマーの年収が高い理由

リーマン・ショック後の景気低迷の記憶もまだ新しいだけに、移民の受け入れに寛容なIT企業への風当たりは強い。Eidelson氏の指摘には「たしかに!」と思わせる説得力がある。だが、シリコンバレー企業に言わせたら、移民の力を活用するのは何もここ10年の話ではない。

移民の国である米国では労働市場の需要ギャップを埋め、新たな市場を開拓する役割が歴史的に移民によってなされてきた。シリコンバレーには、それが今なお色濃く残っている。スキルを持った移民にチャンスを与えることで産業は拡大ペースを加速できる。米国の技術者には厳しい競争を強いることになるが、米国がIT分野のトップであり続けることはIT産業に関わる全ての人、そして米国経済に好影響を与える。

そもそもビジネスチャンスに数や量の制限はない。競争に直面した米国のテックワーカーは、自ら会社を起こしたり、これから成長しそうな分野に身を投じたりするなど、新たな可能性を模索し始めるだろう。それによって米国経済はさらに拡大する……というのがシリコンバレーの典型的な考え方だ。

ホワイトハウスによると、米国における1990年代の特許業績の伸びの3分の1は移民によるものであり、彼らのイノベーションによって米国のGDPは2.4%増大した。数学およびコンピュータ.サイエンスの分野で働いている博士号取得者の50%が移民、そしてエンジニアリング分野で働いている博士号取得者は57%が移民である。ベンチャーキャピタルに支援された米国の上場企業の25%は移民または2世によって創業されており、その中にはGoogle、eBay、Yahoo!、Sun Microsystems、Intelが含まれる。

冒頭のように、米国におけるソフトウェア・エンジニアの年収が飛び抜けて高いのはなぜか。それは、米国が世界のIT産業を牽引しているからであり、それは移民にチャンスを与えてきた結果である。だから、今もシリコンバレー企業は効率性を求め、そして多様性を重んじている。

しかし、成熟した市場において、多くの人はパイを大きくすることよりも、今あるパイをどのように切り分けるかにこだわる。それが普通であり、だから今"不足"の議論が起こっているのだ。でもシリコンバレー企業に言わせれば、報酬は結果であり、彼らが求めているのはパイの拡大に貢献できる人材なのだ。