前回の記事にて、新規事業アイディアを立案するときに使うフレームワーク

・イノベーション発想マップ ・リーンキャンバス ・Job-to-be-done

を紹介しました。それらのフレームワークを利用することで、既存ビジネスをヒントに新規事業アイディア立案から、ビジネスモデル考案、顧客のご利用シーンをイメージしながら、顧客がそのビジネスで何を達成させることができるのかを明確にすることが可能になりました。

今回は、ユーザーインタビューとMVP開発(MVPとはMinimum Viable Productの略で、顧客の問題解決もしくは価値を提供できる最小限のプロダクトのこと)に関して、紹介します。ユーザーインタビューの過程で、考案した新規事業アイディアやビジネスモデルが実際に、抱えている課題の解決になっているのか、価値を感じてくださるのかを確認していきます。そして、MVP開発で大事なポイントをご案内します

ユーザーインタビュー

前回、紹介したフレームワークで見えてきたターゲット層、彼らが抱える課題感や提供できる価値、利用シーン、顧客がサービスを利用することで達成できることを実際にユーザーインタビューし、想定していたことに近いのかを確認していきます。

ランダムに街中で見かけた人に声をかけてインタビューをするのではなく、イメージしている顧客に親しい人にインタビューをしていくことが基本です。そして、自らが考えている不満や課題感、利用シーンを押し付けるような質問はしないようにしてください。

例えば、当社が手掛けているSmartMartでは、ターゲット層はタワーマンション在住者で忙しい30代前半の独身男性を想定し、品川駅から帰宅する人に声をかけていました。

そして、日々のコンビニを利用するシーン、その際に不満に思うことを聞きます。自らが提供する価値がその不満を解決できるのか、なぜそう思うのか、実際に使う場合はどのような利用シーンになるのか、サービスを使った後に思い浮かぶ感情をヒアリングしました。 実際にインタビューをしていくと、自分が考えていたことと違う視点や利用シーンが見えてきますし、顧客ターゲットが正しいのかを疑問に思うことがあります。ユーザーインタビューを進めていく過程で、自分の新規事業アイディアをブラッシュアップしていくことが重要です。ただし、気をつけるポイントとして、ユーザーインタビューに流されすぎないことです。

ユーザーインタビューを進めていく上でよくある質問として、何人くらいにインタビューをすべきか聞かれます。人数は自分が納得する人数で良いと思います。私の場合は、10人程度にインタビューして、自分が想定していた事柄を確認し、想定範囲であれば、MVP開発の準備、想定範囲とは違う場合は、再び、リーンキャンバスとJob-to-be-doneからやり直します。自分が納得するまで、そして、それを第三者に説得できるレベルになるまで、この過程を繰り返します。

MVP開発

次にMVP開発です。冒頭でも説明しましたが、MVPとはMinimum Viable Productの略で、顧客の問題解決もしくは価値を提供できる最小限のプロダクトのことです。大企業に良くあることとして、この時点で多額を費やし、フル機能の開発を着手、完成するまでに半年以上の時間を要し、いざリリースしたら全くユーザーの反応がないということがあります。また、一部機能のみに集中してしまい、顧客の課題が実際に解決しているのか、価値を感じているのかがわからない状態になってしまうことがあります。大事なこととして、ユーザーインタビューで明確になった価値や問題解決をすることができる最小限のプロダクトの開発をすることが重要です。

さらに、時間と開発リソースや予算を最小限にすることも大事です。価値や問題を解決できるコア機能のみをスピーディーに開発し、実際にユーザーに利用してもらい、そこから得るフィードバックをもとに機能改善や機能拡充を進めてください。

もう一つ大事な点として、実際にMVP開発を手掛ける前に、アプリやWebサービスの場合は、PDFや紙で簡易的なインターフェイスを提示しながら、その価値を実際に感じてもらえるか、問題解決しているのかを確認してから、実開発に入ることで、さらに無駄な開発リソースをかけないようにしていくことが大事です。

当社のSmartMartを例にすると、MVPで確認したい価値は30分で顧客の手元に商品を届けることです。そのため、コンビニで販売している商品の中から最低限の品数で商品を揃え、顧客がスマホで注文でき、それを30分で届ける機能のみを開発しました。天候不良のとき、疲れて帰宅してきたとき、シャワーを浴びた後、そのような外出してコンビニに出向くのが億劫なときに自身のスマホで注文後に、自宅に30分以内に届ける価値をこのMVPで、実際に顧客に提供できているか否かを確認しました。

今回は新規事業を開発、遂行していく上で大事なユーザーインタビューとMVP開発を紹介しました。多額の予算と長い時間を要して、新規事業に必要なすべての機能を開発してからリリースし、自分が想定していた顧客の課題感や新規事業で提供したい価値にずれがあった、そしてその価値がサービスやプロダクトで全く伝わっていないということをこれらのプロセスによって、ある程度は軽減することが可能になります。

次回はMVP開発後のプロダクト改善プロセスを紹介します。

著者:春山佳久(はるやまよしひさ)

株式会社atta 代表取締役社長

1981年生まれ、北海道北斗市出身、UCLA航空宇宙工学科卒業。新卒で電通に入社、Googleでのセールスを経て、Hulu Japanでのデジタルマーケティング責任者。その後、Singaporeに渡り、Skyscannerにて北アジアマーケット責任者、日本に帰国しBAKEチーズタルト等を製造販売している株式会社BAKEにてCOO・海外事業責任者を経て、2018年3月に株式会社atta(旧:WithTravel)を創業。テクノロジーで生活をもっと便利にすることをモットーにリテール&トラベルテックにて事業展開中。