パナソニックホールディングス プロダクト解析センターでは、独自の解析評価技術を用いて、パナソニック製品の競争力強化を下支えしている。前回に続き、第2回目の中編となる今回は、ユーザビリティへの取り組みについて聞いた。
パナソニックホールディングス プロダクト解析センターにおいて取り組んでいる8つのコア技術のひとつが「ユーザビリティ」である。人の感性を定量化したり、感情を推定したりすることで、生活者が欲しいと思うモノづくりをサポートしている。
パナソニックホールディングス プロダクト解析センター ユーザビリティソリューション部の佐藤康仁部長は、「人間工学、感性工学、心理学、生理学などのヒューマンテクノロジーと、統計解析や画像解析、AIなどの最新技術を組み合わせることにより、製品やサービスに適したUX(ユーザーエクスペリエンス)を実現し、新しい暮らしの価値創出をサポートしている」と、ユーザビリティへの取り組みを説明する。
ショールームや店舗、利用現場といった様々な場所、高齢者から子供までの幅広いユーザー層を対象に調査を実施。使いやすい、わかりやすい、使い心地がいいという人間の感覚や、感情や集中度、感性などを可視化し、商品やサービスに反映することになる。
具体的には、「身体負担」、「わかりやすさ(認知)」、「心地・感性」、「感情・集中」の4つの観点から取り組んでいる。
ひとつめの「身体負担」では、トイレの立ち座りのしやすさに関して評価した事例がある。
ここでは、アームレスト付き便座からの立ち座りを、動作解析、筋電図解析、重心変動などの複数の指標から定量化し、どれだけ楽に動作ができるのかを検証している。
検証の結果、アームレスがあると、大腿部や腰への負担が大きく減少しており、高齢者にとっては身体への負担が減る効果があることが実証できたという。
力を入れている取り組みのひとつが、デジタルヒューマンによる独自のシミュレーション手法も活用である。バーチャルな環境で動作による身体負担を検証できるため、検証コストの削減、開発期間の短縮などの効果のほか、老若男女の様々な人の形を表現し、それぞれへの負荷も評価できるというメリットがある。
デジタルヒューマンでは、年齢、性別、身長、体重など、4万人の日本人の形状データベースを利用。さらに、パナソニックグループ独自の負担感データベースを活用しているのが特徴で、間接トルク計算、接触反力計算などを取り入れた力学計算モデルを応用。「しんどい」、「楽にできる」といった要素を盛り込んで、身体適合評価、視野評価、身体負担感評価などを行えるという。
たとえば、縦型洗濯機では、デジタルヒューマンによるシミュレーションによって、操作パネルが手前にあると、洗濯槽から洗濯ものを取り出す際に身体に対する負担が大きいが、操作パネルを奥側に配置することで、取り出しやすくなることを発見。この成果を、企画設計段階から取り入れて製品化しただけでなく、製品の発売後には、検証結果のデータをウェブサイトや展示会などで公開し、製品訴求にも活用したという。
2つめの「わかりやすさ」では、アルカリイオン整水器の事例をあげた。
同製品は、家電量販店で販売されており、ユーザー自身がキッチンの蛇口に取り付けを行う仕様となっている。しかし、従来は、「水道の蛇口に取り付けられない」という問い合わせが多かったという。そこで、実験室に10人の被験者に集まってもらい、実際に製品を取り付けてもらう作業を確認した。その際には、視線の計測も行ったが、取扱説明書の重要な作業が表示されていた部分を読み飛ばす人が多いことがわかった。それらの被験者にヒアリングを行ったところ、他の部分がイラストで作業方法が表示されていたのに対して、当該部分は文字だけで構成していたため、必要ではない部分だと直感的に思い、読み飛ばしていたという回答が相次いだ。そこで、説明部分にイラストを追加。その結果、問い合わせ件数が減少するという効果が得られた。
「ユーザーアンケートを行っても、課題を見つけることができない事案のひとつだといえる。実際に、行動を計測した結果、課題に辿り着き、改善を図ることができた」
また、海外向け洗濯機では、視線計測用の眼鏡をかけて、作業や操作を行ってもらったところ、操作する際に視線がさまようことが多いことがわかった。そこで使用するボタンの近くに機能の内容を表示するように改良したところ、視線の移動が極端に少なくなり、操作性が改良されたという。また、自動運転の監視システムでは、管理者が複数のディスプレイを使って監視する際に軽重があることを、視線計測を通じて把握。人間工学をもとに、適正な視野範囲に収める構造に変えることで、監視中に首を上下左右の動かす回数が抑えられ、身体への負担が減るといった効果が生まれたという。
農業の現場で利用するアグリシステムの操作パネルの改良では、実際に現場を訪れて作業の現状を把握するとともに、機能や操作の優先順位などをもとに、パナソニック独自のGUI設計ガイドラインを活用し、効率的な操作が行えるUI設計を行った。これにより、水やりや日除けカーテンなどのセットアップ作業を行いやすくすることができた。
3つめの「心地・感性」では、メンズシェーバーの握り心地の可視化および具現化を行った。
ここでは、アンケート結果をもとにした握り心地の良さを、重量や幅などの数値に分類。それを圧力センサーで集計した把持圧分布と紐づけて、指と掌のどの部分に影響しているのかを物理特性として表した。結果として、掌よりも、指にフィットするシェーバーが握り心地がいいことがわかり、この考え方を設計に反映したという。
「シェーバーの機構部品であるリニアモーターの小型化に伴い、グリップ部も細くできるようになった。そこに、握り心地を加えることで、デザインの方向性を決めていった」
また、海外のスイッチの押し心地についても、中国およびインドにおいて、現地での調査をもとに評価。上海では操作量が重いほど良く、広州は中程度の荷重が好まれており、ムンバイでは軽いものが好まれる傾向がわかったという。これをもとに、世界共通仕様にする部分と、ローカル要件にあわせた現地最適仕様を組み合わせた設計を採用したという。 実際、インドでは、この考えを応用した製品が大きなヒットになったという。
「インドの家では、部屋の1カ所にスイッチが集中していることが多く、一気にそれらのスイッチを消すために操作する荷重が軽い方が好まれるという傾向がある」など、現地ならではの利用環境に則したモノづくりが評価された。
ユニークな事例では、バスルームの「上質感」というテーマに取り組んだことがある。
ショールームでアンケートを行った結果を多変量解析した結果、上質感を感じる要因として最も多かったのが浴槽の形状であり、弓形のデザインに対する評価が高かったという。実際、視線解析をしてみると、浴槽の縁を見ている人が多いことがわかり、これも評価の裏付けにつながっている。また、バスルームに収納棚があると上質感を低下させる傾向もわかったという。この分析結果は、上質空間を演出した浴室のコーディネイトの提案につながっている。
その一方で、「心地・感性」の領域では、他社との協業も進めており、マンダムが発売している制汗剤の容器は、プロダクト解析センターが持つ知見をもとに、人間工学の観点から使いやすさを追求したデザインに改良したという。また、アース製薬とは、虫よけスプレーの容器デザインで協業。手に圧力センサーを取り付けて、スプレー時の圧力分布を検証し、握り心地の良さを追求。持ちやすいボトル径、フィットするくびれ形状、しっかりと支える親指スポットを提案し、握り心地が従来モデルよりも1.4倍も高まったという。
4つめの「感情・集中」では、人の状態を把握し、様々なUXを追求することにつなげている。
佐藤部長は、「これまでは、心拍や血流、発汗、脳波などを測定し、感情や集中を把握していたが、実験室では集計ができても、現場での計測が難しく、ビジネスへの反映が難しかった。だが、昨今では、カメラやマイクなどを使用し、拘束されていることを感じさせずに計測ができるようなった。適用範囲が拡大している」と語る。
なかでも効果的なのが、表情解析技術だという。リアルタイムで撮影した表情から、その瞬間の感情を推定する技術を開発し、それを連続的に計測。UX評価技術として活用している。
事例としてあげたのが、スポーツ観戦における満足度の数値化への取り組みだ。
表情解析技術を活用した「感情解析AI」と、体験価値を評価する「UX評価AI」を組み合わせたもので、スポーツ観戦中の観客を遠くからカメラで撮影し、表情を分析して、観戦満足度を推定することができる。
サッカーの試合において、観戦満足度を数値化した結果では、コアファン、ミドルファン、ライトファンのいずれもが、ゴールシーンで満足度が高まるのに対して、ライトファンだけを切り出すと、試合前の選手によるセレモニーでは満足度低いが、ハーフタイムのキャラクター行進では最も満足度が高い層になっていることがわかった。また、ヒートマップで表示することも可能であり、会場全体の盛り上がりを視覚的に捉えることができる。
「試合後のアンケートによる集計に比べて、反応を詳細に捉え、満足度を客観的なデータとして把握できる」
この技術は、2018年以降、NPB、Jリーグ、Bリーグの10チームで採用されているほか、eスポーツ大会でも利用実績があるという。
もうひとつの事例が、子供の学習における熱中度の数値化だ。カメラの映像をもとに、興味を持つ分野を推定することができる。また、興味が低い子供を特定したり、先生が声をかけるタイミングを知らせたりすることもできる。
そのほかに、顔画像解析技術を活用した「顔ヨガ」により表情筋を鍛えたり、大阪科学技術館に展示している「ヘラヘラフラフラ大阪観光ツアー」では、画面表示と同じポーズを取り、姿勢、バランスと同時に、笑顔が多いと得点があがるといったゲームに応用したりといった事例もある。
佐藤部長は、「ユーザビリティの領域においては、見えないものを見える化し、計れないものを計れるようにし、それを解析することで、新たな価値を生むことを目指している。また、目的に応じてカスタマイズすることで、検証ができるようにしている。解析によって、課題の解決を図ることができる」とした。
ユーザビリティへの取り組みが、パナソニックのモノづくりを、人に寄り添ったものへと、大きく変えているのは明らかだ。






















