三菱電機は、新たな中期経営戦略を発表した。2030年度の財務目標として、売上高は年平均成長率で3~5%、調整後営業利益率は12%以上(2025年度実績8.5%)、ROEは12%(同9.7%)を掲げた。
また、「スマートエナジー」、「オートメーション」、「ディフェンス&スペース」を中核領域と位置づけたほか、これらの3領域に関連する事業のうち、Serendieを中核としたソリューション事業と、コンポーネント事業を「強化事業」に設定。強化事業では、売上高の年平均成長率は9%とし、2030年度のソリューション事業の売上高は1兆円(2025年度実績は4000億円)、コンポーネント・保守/サービスの売上高は3兆5000億円(同2兆6000億円)を計画。また、営業利益率は、それぞれ15%を目指す。強化事業では、売上高、営業利益ともに、全社目標よりも高い水準を目指すことになる。
5年間の成長投資は2兆円を計画するとともに、追加投資枠として1兆円を設定。強化事業に集中投資するほか、機動的なM&Aも実施する。
さらに、2030年度までに、2万人のDX・AX人財を育成する計画も発表した。
三菱電機の漆間啓社長 CEOは、「2025年度までの中期経営計画では、構造改革を中心に取り組みを進めた結果、着実に変革を遂げてきた。新中期経営計画では、構造改革中心の取り組みから、事業モデル変革を中心としたフェーズに移行する。これまでの成果を足掛かりに、リスクを恐れずに、新たな発想で価値を次々と創出するイノベーティブカンパニーになることを目指す」と述べた。
2021年度から2025年度までの中期経営計画は、構造改革フェーズと位置づけ、重点成長事業への投資を進めるとともに、循環型デジタル・エンジニアリングの具現化に向けた体制を構築。一方で、1兆5000億円規模の事業の見極めを完了し、グループ会社の再編、ROIC経営の推進などを行ってきた。
新たな中期経営戦略では、「Serendieを活用したソリューション創出」と「コンポーネント強化」を両輪で推進し、循環型デジタル・エンジニアリング事業の本格展開によって、企業価値のさらなる向上を目指す姿勢を示した。
「収益性と資本効率の向上を最重視するとともに、安定的な売上高の成長を図る」との方針を強調した。
ビジネスエリア(BA)ごとの2030年度の財務目標は、インフラBAの売上高が2兆1000億円、調整後営業利益率が13%。そのうち、社会システム事業の売上高が7000億円、調整後営業利益率が14%、エネルギーシステム事業の売上高が6000億円、調整後営業利益率が12%、防衛・宇宙システム事業の売上高が8000億円、調整後営業利益率が12%とする。
ライフBAの売上高は2兆8000億円、調整後営業利益率で12%を目指す。そのうち、ビルシステム事業の売上高が8000億円、調整後営業利益率が12%、空調・家電事業の売上高が2兆円、調整後営業利益率が12%とした。
また、FAシステム事業は、売上高が9000億円、調整後営業利益率が16%超、FAデジタルソリューション事業では、売上高の年平均成長率が25%、調整後営業利益率では19%を計画。半導体・デバイス事業の売上高は4000億円、調整後営業利益率で20%を目指す。
中期経営戦略で注力領域に位置づけた「スマートエナジー」、「オートメーション」、「ディフェンス&スペース」は、それぞれにセグメントを横断した事業で構成している。
「三菱電機は、経営の根幹にサステナビリティの実現を据え、事業を通じて、社会課題、環境課題の解決を目指す。エネルギーや気候変動、労働力不足、地政学リスクの観点と、グローバルでの市場機会、三菱電機が持つ技術アセットをかけあわせて、3つの注力領域を設定した」とする。
また、3領域のなかで、ソリューション事業とコンポーネント事業を、「強化事業」として位置づけており、「スマートエナジー」では、データセンター向け電源システム、エネルギーマネジメント、空調冷熱、パワー半導体、高周波・光デバイスが強化事業にあたる。また、「オートメーション」では、FA制御機器・産業メカトロニクス、FAデジタルソリューション、ビルソリューション、OTセキュリティが強化事業の対象となり、「ディフェンス&スペース」は、防衛・宇宙システムが強化事業となる。
「強化事業は、それぞれの事業の強化とともに、領域内での事業間連携を図ることで成長させ、収益性向上と成長を実現したい」と述べ、「コンポーネントと保守/サービスを起点に顧客とつながり続け、高度なソリューションを創出することで、同時に成長させ、安定的で、高収益な収益構造を構築する。グローバルで競争力を持つコンポーネントを中心に規模を拡大し、保守を通じて顧客とつながりつづけることで、現場のデータを継続的に獲得し、ソリューションの創出に向けた基盤を強化。その上で、Serendieを活用しながら、強化事業と連携させて、高度なソリューションを実現し、高い収益率を有するソリューション事業を確立し、収益性を向上させる」とした。
Serendieについては、「顧客への個別対応になっている部分が多いため、標準化する必要がある。三菱電機自身が、データマネジメントを自らの事業に生かすフェーズに移らなくてはならない。Serendieを、どのように使い倒すのかという点では道半ばである。加速させていきたい」と語った。
また、Nozomi Networksの買収により、OT領域でのセキュリティ強化を実現していることを強調。「機器のデータを収集し、可視化するソフトウェアを、三菱電機のPLC、NP、サーボ装置などの製品に導入することで、付加価値を高めることができる。サイバー攻撃への対応も強化できる。セキュリティレベルを高め、事業領域の拡大にもつなげることができ、新たなソリューション提案も可能になる」などと述べた。
ディフェンス&スペース関連事業では、2030年度に、売上高で8000億円(2025年度実績は4000億円)、営業利益率は12%(同10%)を目指す。
「防衛・宇宙市場が拡大するなか、既存事業やグローバル事業を拡大し、着実な成長を実現するとともに、新たな事業分野にも進出し、将来の成長基盤を獲得する」と述べ、「センサーから迎撃ミサイルまでの国産技術を活用した統合防空ミサイル防衛能力の向上による既存領域の強化と、国際共同開発やサプライチェーンへの参画を推進して、グローバル事業を拡大する。また、2028年度以降に、衛星コンステレーションなどのサービス提供型ビジネスの創出、無人機などの新事業創出、静止通信衛星などの海外市場への参入も目指す」という。
既存工場を防衛事業向けに転用するほか、新たに3つの工場を建設し、生産能力を高めることになる。
「つながり続ける事業モデル」の構築にも取り組む。
「顧客とのつながりによって得たデータを活用して、新たな価値を創造する『循環型デジタル・エンジニアリング』を強化する。様々な現場での課題解決を行うことで蓄積したドメインノウハウや、自らが行ってきたモノづくりの知見による現場ナレッジを、SerendieやAIを活用することで、さらに強化する」と述べた。
ここでは、3つの取り組みを推進する。
ひとつめは、現場ナレッジと、AIおよびデジタルを掛け合わせたコンポーネントの強化である。現場ナレッジをデジタル空間に集約し、AI学習に活用することで、独自のフィジカルAIを構築し、コンポーネントの付加価値を高める。
「三菱電機が目指すAIは、現場で起こる想定外の事象に対しても自律的な判断が可能なAIである。モノづくりの知見や機器制御の知見を活かしたフィジカルAIと、パートナーが持つ最先端の汎用的なAI技術の組み合わせが不可欠である。これにより、現場の変化に即座に対応し、安全に動く三菱電機独自のAIを実現する」と述べた。
スマートエナジー領域では、データセンターにおける複数の空調・冷熱機器を自律的に連携させ、人手を介さずに柔軟な省エネ制御を実現。オートメーション領域では、工場の製造装置やロボットなどにAIを実装し、現場で自律的に、瞬時に判断し、制御することを目指す。また、ディフェンス&スペースでは、防衛システムにAIおよびロボティクス技術を活用し、無人機などの自律制御システムを確立する。
2つめは、顧客とのつながりによる継続的なデータの獲得である。顧客の許諾を得て、現場データを獲得。そのために、保守DXやOTセキュリティなどのデジタルサービスの拡充を進めるという。
3つめが、高度なソリューションの創出となる。三菱電機グループが培った現場ナレッジ、コンポーネント、顧客からのデータに、Serendieや最先端のAIを掛け合わせることで、顧客の経営課題を解決するソリューションの創出につなげる。
ここでは、タイのCPグループ(チャロン・ポカパン・グループ)や、台湾の鴻海精密工業といったグローバル先進企業との提携と、燈やsakana.ai、Tulip Interfaces、ZutaCoreといった技術バートナーとの連携に加えて、三菱電機が持つエネルギーマネジメントシステム、空調・冷熱機器で活用可能な技術や製品、UPSや生産技術といった特定のドメインに特化した技術や製品を組み合わせることで、1社では実現できない高度なソリューションの実現に取り組む姿勢を示した。
具体的な事例のひとつが、PUE1.1のデータセンターの実現である。
「PUE1.1は、かなりハードルが高い目標である」としながら、「三菱電機では、チラーやUPSなどを提供しており、今後は、エネルギー効率の向上に向けて、効率のいいサーバーの冷却、電力変換ロスの削減に取り組むことで実現していく」と述べた。
二相式液冷システムなどの開発、サーバーの冷却に伴うエネルギー消費量の大幅な削減、DC800Vや1500Vの次世代電源システムの開発に取り組んでいることを示した。
また、データセンター向けSCADAシステムやオペレーションサービスにより、三菱電機のコンポーネントを、トータルエンジニアリングで統合し、運用することで、最適に制御。エネルギー効率最高水準となるPUE1.1のデータセンターを実現するという。
「鴻海精密工業との包括的な提携のもとで、PUE1.1の実現に向けた検討も開始している。データセンター向けに、新たな機器を開発するといったところでも連携ができるだろう」とした。
もうひとつの事例が、無人化工場である。
製造現場の自動化、スタッフ業務の自律化、現場作業の無人化とともに、工場全体の自律的協調制御を推進することで無人化工場を実現する。
三菱電機が持つオートメーション技術で自動化を実現。シーケンサやCNC(数値制御装置)などからリアルタイムデータを収集して、AI活用に向けたデータの意味づけを行うほか、同社のモノづくりノウハウを生かして、AIエージェントで現場改善活動を自律化するとともに、AIとデジタルツインによって、設備の設計開発などのエンジニアリングを高度化、効率化する。さらに、現場ナレッジやコンポーネントの知見を活かした独自のフィジカルAIを、ヒューマノイドロボットなどに搭載し、継承が難しかった「匠の技」をバンドルし、無人化する。そして、モノづくりの知見や現場ナレッジを生かしたAIオーケストレーションによって、工場全体の最適な協調制御を自律的に実施し、無人化工場を実現するという。
「現場では、すでにデータ収集やフィジカルAIの活用に向けた取り組みを開始している。2027年度には少しずつ実現につなげ、2028年度以降には完全な無人化工場が実現する。生産技術、現場ノウハウと最新AIを活用し、その成果も製品にバンドルしていく」と語った。
加えて、PUE1.1のデータセンターや無人化工場を実現する際に創出した高度なソリューションを、スマートエナジーやオートメーション領域の顧客に対して展開するする考えも示した。
CPグループや鴻海精密工業との共創で生み出した高度なソリューションをマイクロサービス化し、強化事業の成長につなげるという。これにより、2030年度のスマートエナジーおよびオートメーション関連の強化事業の売上高を3兆8000億円(2025年度実績で2兆6000億円)、営業利益率で15%(同12%)を目指す。
人財戦略としては、人的資本への投資を、前中期経営計画比で1.5倍に拡大。事業モデル変革をリードするDX・AX人財の輩出に向けた認定制度や処遇制度の導入などによる「事業変革を推進する人財の獲得および育成」、グローバルでの人財登用を加速する評価・報酬制度などによる「グローバルでの経営リーダー育成および登用」、AI利活用による創造的時間や機会の確保、挑戦を促すインセンティブ制度の導入による「自律的な挑戦や共創を生むカルチャー醸成」の3点に取り組む。
「事業戦略の実行をけん引する人財が不可欠である」とし、2030年度に、DX・AX人財を2万人に拡大するほか、海外拠点長を含む経営幹部後継者候補準備率を200%に拡張。従業員エンゲージメントスコアで70%以上の達成を目指す。
三菱電機では、これまでの構造改革のなかで、ビジネスエリア体制を敷き、ビジネスエリアオーナー制度を取り入れてきたが、この成果については、「ビジネスエリアオーナーが傘下の事業を見て、不採算事業に対しては、徹底の意思決定を促し、ビジネスエリア内の人材を有効活用したり、事業間連携を加速したりといった役割を果たしてきた。さらに、ビジネスエリアオーナー間の連携も進めた。従来は9つの事業がサイロ化していたが、これが、かなり解消されてきた」と評価したものの、「だが、事業本部ごとのビジネスに寄っている傾向は残っている。CPグループや鴻海精密工業との連携においては、三菱電機としての総合力を示すことができないと、課題解決ができないことにつながるため、様々な事業本部の人材を集めて対応することも進めている。ソリューション強化には、ビジネスエリアを超えて、三菱電機全体の技術を理解して、提案をしていく必要がある。こうした人材を育てたい。ビジネスエリアオーナーの役割も、三菱電機の総合力を出すことに変化していくことになる」と述べた。
一方、三菱電機では、自動車機器事業に関して、鴻海精密工業との戦略的提携の検討開始を発表している。自動車機器事業を担う三菱電機モビリティへの50%の出資受け入れも視野に、共同運営に向けた検討を開始するという内容だ。
「事業力の強化に向けて検討を開始している。早く結論を出して、共同で事業を強化していく。鴻海ではEVの生産を行っており、三菱電機が持つパーツ事業を組みあわせて、顧客開拓、機能向上、他社との差別化を強化する。2026年7月末に内容を発表できるように進めている」と語った。
また、三菱電機のパワーデバイス事業と、ロームおよび東芝デバイス&ストレージの半導体事業との経営統合に関する協議については、「どの領域を統合するのかは、まだ決まっていない」としながら、「この分野では、海外勢が力をつけてきている。3社の統合によって、チップの開発力を一段とあげていくことが目指すところである。早く統合し、安いチップをどう開発していくのかを決めて、一体となって事業力強化を進める。低圧から高圧まで、すべてにおいて他社を凌駕することを目指す」と述べた。
なお、三菱電機では、2026年4月1日付で、新たな企業理念(Our Philosophy)を発表している。
Purpose(存在意義)として、「飽くなき探求心と驚きの技術で、未来の価値を創造する」を掲げた。また、Guiding Principle(大切にする考え)を「Changes for the Better」とし、Core Values(行動指針)では、「BE BOLD(挑戦)」、「CO-CREATE(共創)」、「WITH INTEGRITY(誠実)」の3点を掲げた。
「急速に変化する社会のなかで戦略を実行し、三菱電機グループがさらなる発展を遂げるには、これまで以上に、柔軟で迅速な判断が必要になる。判断のよりどころとなる、次の一歩となる指針が、新たな企業理念となる。三菱電機の強みである探求心と技術の掛け算によって、革新を生み出し、世の中にない新しい当たり前を作り出し、よりよい未来を切り開く」と述べ、「中期経営戦略を確実に遂行し、環境課題を解決するとともに、三菱電機グループのさらなる成長を目指したい」と語った。

















