パナソニックが、2026年4月下旬から発売した冷凍冷蔵庫「WXタイプ」および「HYタイプ」は、日本で初めて、「デマンドレスポンス(DR)自動運転サービス」に対応した製品となる。
中部電力ミライズが提供する「NACHARGE Link KADEN(ネイチャージリンク カデン)」に申し込むと利用でき、24時間365日に渡り、通電している冷蔵庫の特徴を生かしたパナソニックならではの提案が注目される。
家庭用冷蔵庫で初のDR対応、狙いは?
パナソニックは、なぜ、冷蔵庫によるDRサービスにいち早く乗り出したのか。そして、2026年4月からスタートしたパナソニックの新たな家電事業体制において、冷蔵庫事業が目指す方向性はどうなるのか。パナソニック 冷蔵庫事業部の樋上和也副事業部長などに話を聞いた。
DR自動運転サービスは、電力の需給状況にあわせて、家庭などの電気利用者に電気使用量を調整してもらい、使う電気と作る電気の量のバランスを保つ仕組みのひとつだ。
電力が足らなくなった際に、電気の使用を控えるといった要請だけでなく、近年では、太陽光や風力などの再生可能エネルギーの導入が進んだこともあり、時間帯や季節によっては、供給が需要を上回り、電気を多く使ってほしいという事態も発生する。これもDRサービスによって対応することができる。
それらを「下げDR」と「上げDR」と呼んでいる。
「下げDR」は、電力が足りなくなるときに、節電を呼び掛けるというものだ。一方で、「上げDR」は、電気の供給量が多いため、電気を使ってもらうように要請するものとなる。この仕組みを活用して、一時的に電気の使用量を増やしたり、安く電気が供給される時間帯に蓄電し、ピークシフトによって効率的に電気を使用したりといったことが可能になる。また、DRサービスの多くは、利用に応じて電力会社からポイントが付与され、電気料金の割引などに活用できるメリットもある。
ただ、DRサービスの活用においては蓄電池の併用提案が多い。さらに、従来の家庭向けDRサービスは、「通知を受けて、その都度行動する必要がある」「やり方がわからない」「忙しくて対応できない」など生活者側の手間が多く、継続的な参加や利用の難しさが課題となっていた。
そうしたなかで、パナソニックが24時間365日に渡って電力を使用し、家庭内での消費電力量の割合が高い冷蔵庫を、DRサービスに対応させたことは特筆できる動きといえる。しかも、「下げDR」と「上げDR」の双方に、自動で対応する仕組みを採用している。大きな意味では、冷蔵庫の新たな進化の形を示したものになるともいえそうだ。
パナソニックが、中部電力ミライズとの連携によって提供する「DR自動運転サービス」は、以下のような仕組みだ。
パナソニックのクラウドサーバーが、中部電力ミライズからのDR要請を受信すると、スマートフォンアプリを介して冷蔵庫へDR運転信号を送信する。信号を受信した冷蔵庫は、要請内容に応じた準備運転を行い、庫内の食品への影響を抑えながら要請時間になるとDR自動運転を開始する。
「下げDR」の場合は、要請を受けると、事前に庫内を予冷し、庫内を冷やし込んでから、要請時間中にはコンプレッサーを停止して電力の使用を抑制する。要請時間が終了すると通常運転に戻る。一方、「上げDR」の場合には、霜取り運転の実施タイミングをシフトさせ、要請時間に電力を使用することになる。
長年培ってきた断熱技術のたまもの
ここでのポイントは2つある。
ひとつめは、「下げDR」においては、先にも触れたように、コンプレッサーを停止するという措置を取ることだ。
これまでにも、パナソニックでは、庫内の食品が少ないときや、ドアの開け閉めの回数が少ないときは、それを庫内センサーが感知して、自動で省エネ運転を行い、電力の無駄を抑える機能をエコナビのひとつとして搭載したり、庫内の温度を見ながらコンプレッサーのON/OFFを切り替え、冷却運転を停止して、温度の基準を保つように制御したりしていた。この制御をDR運転に最適化して、下げDRへの対応を実現したというわけだ。
パナソニックがコンプレッサーを止めるという制御によって、DR対応を実現できる背景には、長年に渡って技術を蓄積してきた真空断熱材の存在が見逃せない。
パナソニックでは、独自の真空断熱材「U-vacua」を2002年に開発。これまでに繊維配向の向上、バインダーレス、、水分除去、グラスウールの物性改善、空気除去などの改良を加えて性能を進化させてきた。2024年から利用している最新のU-vacuaでは、断熱性能をグラスウールの45倍、硬質ウレタンフォームの24倍にまで高めている。
パナソニック 冷蔵庫事業部の樋上和也副事業部長は、「下げDRへの対応は、断熱技術が優れているパナソニックだからこそ実現ができたサービスである。高断熱だからこそ、予冷をすればコンプレッサーを止めることができる。おいしさを損なわずにコンプレッサーを止めることができるという点では、他社の追随を許さない技術になる」と自信をみせる。
苦労したのは「おいしさの維持」である。冷蔵や冷凍している食品は、温度変化によっておいしさが損なわれることが多い。
「コンプレッサーをどういう止め方をすれば、最もおいしさを維持できるのか。そこにこだわって開発を進めた」と、樋上副事業部長は語る。
長年にわたって進化させてきた真空断熱材と、冷却制御技術があるからこそ、DRサービスにおいても、コンプレッサーを停止し、使用する電力量を減らすという制御ができるのである。とくに、真空断熱材の進化は、下げDRに対応する上で最も重要なポイントになっている。
もうひとつのポイントは、DR要請を受けると、冷蔵庫が通知メロディを流す「DRお知らせ機能」を搭載した点だ。
特筆すべき機能ではないように聞こえるが、実はこれが、24時間365日稼働している冷蔵ならではの特性を生かしたものとなっている。
同社が実証実験を行ったところ、利用者から出てきた声が、ブザー音が鳴るメリットだった。
実証実験の段階においては、DR要請に対して、冷蔵庫が自動で対応し、利用者には一切負担をかけない仕様としていた。だが、DRサービスの要請が行われた際には、念のために、ブザー音を鳴らすようにしていた。
実は、このブザー音が想定以上に効果を発揮した。
樋上副事業部長は、「DR要請は、メールやアプリなどを用いた個人宛のプッシュ通知が一般的だが、冷蔵庫がブザーで通知することで、家族の誰もがDR要請時間中であることを認識しやすくなり、家庭内で自主的な行動を促すきっかけになった」とする。
当初の計画では、利用者が知らないうちにDR対応を行っているという「賢さ」が特徴になると考えていたものの、実証実験では、被験者の7割が、「お知らせ機能が、DR要請時にほかの行動につながった」と回答。下げDRおよび上げDRの双方において、いずれも行動変容が確認できたという。
パナソニックでは、実証実験で得られた声をもとに、DR要請の開始および終了を、冷蔵庫が音で通知する「DRお知らせ機能」を搭載することを決定。ブザー音から、通知メロディに変更し、DR要請時間の実施タイミングを、家族全員が容易に把握できるようにした。
通知メロディは、上げDRの際には音階が上がり、下げDRのときには音階が下がる。そして、DR要請終了時には2つの音階が上下するメロディとしている。
24時間365日、電源が入っている冷蔵庫だからこそ、家族全員に対してDR要請をタイムリーに通知し、電気に対する関心を高め、節電、活電につながっているというわけだ。
なお、中部電力ミライズの「NACHARGE Link KADEN」では、DR要請に対する電力使用量の変化を「貢献量」としてポイント化しており、冷蔵庫のDR自動運転だけでなく、家庭内での自主的な行動によって、貢献量の増加が期待できるという。利用者は、通知メロディをきっかけに、ポイントを増やすための行動ができるというわけだ。
中部電力ミライズと続けた実証実験の成果
パナソニックでは、2019年時点から、「DR自動運転サービス」の実現に向けた構想を持っていた。
エンジニアとして構想段階から携わっていた樋上副事業部長は、「政府が2050年までにカーボンニュートラルを目指したり、節電要請が増えたり、あるいは豪雨などの自然災害により停電が発生するなかで、冷蔵庫本体の電気の使用量を減らすという省エネのアプローチだけでなく、社会インフラと連動した貢献ができないかと考えていた」と、当時を振り返る。
だが、エアコンでは温度設定の変更などによって、節電要請などに対応できるのに対して、常時、電気を使用して、庫内を一定温度にすることが重視される冷蔵庫では、エネルギー需要に応じた対応は難しかったともいえる。
しかし、真空断熱材の進化を捉えながら、電気を止めても冷凍や冷蔵を維持する制御技術などを開発し、効果検証を進めていった。
そうしたなか、中部エリアを中心に展開する中部電力ミライズが、家庭用DRサービスの提供に取り組んでいたことから、パナソニックでは、同社に共同での実証実験を提案。2023年から実証実験をスタートさせたのだ。
中部電力ミライズ 執行役員サステナブル社会推進本部長の臼井太郎氏は、「DRには、行動誘因型DRと、機器制御型DRがあるが、成功率は、下げDR、上げDRともに、機器制御型DRの方が高い。機器制御型DRを普及させることが、電気の需給バランスを取るためには重要であると考えた。そこに、冷蔵庫という新たな切り口で提案が行われることに関心を持った」とする。
パナソニックが市場調査を行ったところ、DRサービスの活用において、「行動手段がわからない」、「行動し忘れる」といった声が多いことから、DR要請に対して、冷蔵庫が自動で対応することを前提に開発することに決めた。
その成果は実証実験でも証明された。自動対応によって、下げDRでは、一般世帯の1.7倍の節電量、上げDRでは2.2倍の活電量に達したという。
また、DR自動運転サービスでは、中部電力ミライズの「NACHARGE Link KADEN」に加入し、パナソニックの「Kitchen Pocket」アプリから連携させるだけで済むという利便性にもこだわった。冷蔵庫への個別設定は必要なく利用を開始できる。
今後、パナソニックでは、DRサービスの契約ができる電力会社を広げていくほか、DR対応家電のラインアップも広げていく考えを示している。
パナソニックの樋上福事業部長は、「IoT接続が可能な冷蔵庫や、家電であれば、DRサービスに対応できる仕組みが整った。専用装置を増設することがないため、コストをかけずにDR対応が可能になる。中部電力ミライズのシステムとの連携では、最初ということもあり、苦労した部分はあったが、このノウハウを活用することで、他の電力会社との接続にも乗り出すことができる」とした。また、「冷蔵庫のIoT接続率が低いという課題があったが、これを高めていくことにもつながる。2027年度には、DRサービス対応冷蔵庫の購入者のうち、50%の接続率を目指す。2026年度は、認知度向上やメリットを訴求する仕込みの1年とし、DRサービスを契約できる電力会社に広げていきたい」とした。
パナソニック コンシューマーマーケティングジャパン本部商品マーケティングセンター メジャーアプライアンス商品部・福島伊公男部長は、「中部電力ミライズが提供するNACHARGE Link KADENは、中部エリアのほか、首都圏を含めて全国規模で利用できるサービス。これらのエリアにおいては、量販店店頭などで露出を高める。また、冷蔵庫をIoT接続するメリットや、IoT延長保証サービスのメリットなどを訴求し、IoT接続率を高め、つながることでの価値を提供したい」と述べた。
DR対応だけじゃない、新型冷蔵庫の特徴
DR自動運転サービスに対応した新たに冷凍冷蔵庫「WXタイプ」および「HYタイプ」の特徴についてもみてみよう。
「WXタイプ」は、デザインにこだわったフラッグシップモデルで、「HYタイプ」は、コンパクト設計でありながら大容量冷凍室を実現した「コンパクトBIGシリーズ」に位置づけている製品だ。
同社では、「冷凍はパナソニック」のメッセージを打ち出しており、両製品とも、それを具現化する新たな機能として、冷凍食品の霜つき量を3カ月後でも約80%抑える「霜つき抑制冷凍の長期化」、冷凍室の下段においても2週間後の霜つき量を約27%抑制する「霜つき抑制冷凍エリアの拡大」を実現しているのが特徴だ。
冷凍食品に霜がつくのは、周囲の温度変化によって、食品から水分が出ていき、それが乾燥することが原因となっている。これまでにも上段にはケースカバーを設置し、温度変化を抑えることで霜がつくのを防いできたが、新製品では、新たな制御技術により、冷却能力を最適化している。具体的には、冷蔵庫の庫内は何もしないと温度が上昇するため、センサーで温度を検知し、定期的に冷却運転を行っているが、従来よりも庫内の温度変動の幅を抑制した制御を行うことで、霜つき抑制冷凍の長期化とエリア拡大を実現したという。
パナソニック 冷蔵庫事業部商品企画マーケティング部の宗形彩加部長は、「パナソニックの冷蔵庫は、大容量冷凍室を実現しながら、奥まで100%引き出せるフルオープン構造により、整理がしやすいこと、設置スペースがコンパクトでありながら、収納量が多いコンパクトBIG設計であること、冷凍食品の霜つきを抑え、おいしさを保つことができる高い冷凍性能を実現していることが特徴となる」とし、「おいしさや使いやすさにこだわるなかで、とくに冷凍室にこだわっている。家庭での冷凍食品の消費量が10年前に比べて増加していること、冷凍作り置きへの関心度が高まっていることがその背景にある」と説明した。
価格はオープンだが、市場想定価格は、NR-F60WX3は37万円前後、NR-F55HY3は32万円前後となっている。
家電の進化、パナソニック新体制への期待
パナソニックグループは、2026年4月1日付で、新たなグループ体制へと移行しており、パナソニック株式会社(以下、パナソニック)には、冷蔵庫や洗濯機、理美容家電などの白物家電事業と、テレビやデジタルカメラなどのAVC事業を統合。国内外のマーケティング機能も集約している。
パナソニックが、ビジョンに掲げたのは、「進化し続ける創造力で、まだこの世界にないものを生み出す」であり、冷蔵庫事業では、「健康で豊かな食文化の向上」と「サステナビリティの実現」を提供価値としている。
パナソニックの樋上副事業部長は、「パナソニックは、食品の保存、調理、後片付けまで、食に関わる動線を網羅する商品、サービスを整えている。冷蔵庫は、本質機能である『おいしさ』と『使いやすさ』を追求するとともに、環境などの変化する暮らしへの対応を強化している」と語る。
おいしさと使いやすさについては様々な角度からの取り組みが特徴だ。
味の素冷凍食品などの食品メーカーとの共同検証や、大学との研究開発、パナソニックグループが持つ業務用ショーケースや厨房機器などとの連携、Panasonic Cooking@Labによる食品科学や調理科学などのソフトウェア技術、筐体設計技術や冷却技術、ナノイー、AIカメラなどを組み合わせたモノづくりを進めていることを強調する。
「食品にまつわる業界各社や、ソフト技術、ハード技術を組み合わせることで、使いやすさ、鮮度保持、調理活用を進化させ、おいしく、無駄なく、使いやすい冷蔵庫を提供している」としながら、「食の『収納庫』としての使いやすさを追求し、鮮度保持による『保存庫』として利用できる。さらに、急速冷凍や急速冷却によって、あら熱取りなどの調理にも活用できる『調理庫』としての役割も果たす」と、冷蔵庫の活用シーンを広げていることを示す。
また、1953年の第1号冷蔵庫の発売以来、暮らしや社会、環境の変化にあわせて進化。環境性能についても、真空断熱材やエコナビなどを採用してきたことを示しながら、「省エネは、磨き続けた冷却技術、断熱技術、制御技術の組み合わせによって実現している」と語る。
2024年には環境負荷低減を実現する新ウレタン発泡剤を採用し、温暖化係数の低減、CO2排出量削減も達成した。フードロス削減に向けては、重量検知プレートやAIカメラを搭載。サステナビリティでは、再生中古品であるPanasonic Factory Refreshなどの取り組みがあり、今回発表したDR対応もこれらの取り組みの一環となる。
「冷蔵庫を取り巻く環境は、電気代の高騰などにより、省エネへの関心が高まっていること、物価高騰により内食志向が高まり、冷凍食品市場が拡大していること、住宅の狭小化や少人数世帯の増加などの傾向が見られており、使い方も変化している。パナソニックは、冷凍の進化、業界初の自動DR対応によって、変化する暮らしと環境に 寄り添うことを目指している。高品質、高品位の製品を提供するだけでなく、全国100拠点のサポート体制を敷き、長く使い続けられるようにしている。社会全体や地球全体の食や食文化を支えていく」と語った。
2026年4月からスタートしたパナソニックの新体制において、冷蔵庫事業はどんな進化を遂げるのだろうか。
パナソニックの樋上副事業部長は、「キッチン家電は課題事業に位置づけられていたこともあり、2025年度は、原価力の強化など、中国家電メーカーに対抗できるための基礎体力づくりに取り組んできた。さらに、お客様とつながりつづけるための価値についても仕込んできた。これによって、課題事業からの脱却に目途が立った。2026年度は、仕込んできたものを刈り取る重要な1年になる。成果は数字でしっかりと見せていく」とする。
キッチン家電事業は構造改革の取り組みによって、中国拠点で開発、調達、生産を行う体制へとシフトするが、冷蔵庫に関しては、日本での開発体制をベースにしながら、中国の開発拠点を活用した取り組みに移行することになる。
パナソニックでは、前述したように、「進化し続ける創造力で、まだこの世界にないものを生み出す」ことをビジョンに掲げている。
だが、冷蔵庫という領域においては、「まだこの世界にないものを生み出す」ということは、高いハードルのようにも感じられる。
だが、樋上副事業部長は、「冷蔵庫は、食品を保存する箱という役割を担うが、家具のような価値を加えることで、冷蔵庫の在り方が変わる可能性がある。キッチン空間での存在を見直したり、設置する場所をキッチン以外に広げたりといったことも想定できる。世界にないものはまだまだ作り出せる」とする。
その上で、「新体制のスタートにあわせて発表した今回のDR自動運転サービスは、冷蔵庫のモノづくりに対する考え方をフェーズチェンジした点で大きな意味がある」と前置きし、「たとえば、DR自動運転サービスは、真空断熱材の高い性能によって実現したものである。この技術は追求していくことで、これまでとは異なる新たなサービスを創出することにつながるのではないかと考えている」とする。
また、「パナソニックが目指す価値は、つながり続けることで提供できる価値であり、DR自動運転サービスは、社会とつながるという新たな提案になる」とも語る。
冷蔵庫事業は、新たなモノづくりへと、一歩を踏み出そうとしている。
DR自動運転サービスは、その動きを象徴するものになりそうだ。



























