パナソニックグループは、「グループ成長戦略」を説明した。
2028年度までの3年間に創出する営業キャッシュフローを2兆2000億円以上とするほか、AIインフラを支える事業に対して、5000億円の戦略投資を行い、デバイス領域およびソリューション領域での成長戦略を推進する。
パナソニック ホールディングスの楠見雄規グループCEOは、「2025年度のグループ経営改革によって、収益基盤を整えることができた。ここからは成長フェーズに入る」と宣言。2028年度の目標として掲げている調整後営業利益7500億円以上についても、「確実に達成する」と強気の姿勢をみせた。また、ROE10%の必達、調整後営業利益10%の目標も継続する。
2028年度までの3年間を「フェーズ1」として、デバイス領域では、AIインフラを支える事業で、売上高、利益ともに大きく拡大させ、グループの成長を牽引。調整後営業利益で1300億円の増加を目指す。また、ソリューション領域では、顧客のオペレーションの進化に貢献するためにビジネスモデルを変革し、2029年度以降の「フェーズ2」において、収益成長のコアに位置づける。なお、「フェーズ2」では、デバイス領域やスマートライフ領域(家電事業)も、技術革新や競争力強化により、持続的な成長を維持する。
-

デバイス領域では、AIインフラを支える事業で、売上高、利益ともに大きく拡大。ソリューション領域では、顧客のオペレーションの進化に貢献するためにビジネスモデルを変革。これを「フェーズ1」として、2029年度以降の「フェーズ2」において、収益成長のコアに位置づける
「今後3年間は大きな投資はないと想定していたが、AIインフラで大きな引き合いが出ており、電池やコンデンサ、基板への投資が必要になった。これをチャンスとして捉え、5000億円の戦略投資を決めた。5000億円の戦略投資の多くの部分が電池になる。新工場の建設予定はない。戦略投資のなかでは、M&Aも考えていない」と、楠見グループCEOは述べた。車載電池の生産拠点は、データセンター向け電池の生産工場に転換することで、AIデータセンター向けの電池需要の拡大に対応していくことになる。
想定を上回る引き合い、AIインフラは中核事業に
デバイス領域におけるAIインフラを支える事業は、2028年度に売上高で約1兆4000億円、調整後営業利益で2900億円を目指す。
AIデータセンター市場を対象にしたビジネスを中核事業に据えて展開することになり、基板材料やコンデンサを進化。ハイパースケーラーやAI半導体メーカーなどの業界キープレーヤーの要望に対応し、関係強化を進めながらビジネスを推進する考えだ。とくに、AIサーバーの電源まわりでは、電池セルの進化と、電池およびコンデンサを融合した独自技術の進化で、ラックあたりの電力負荷と変動の増大に対して、電力効率化と安定稼働を実現するという。
楠見グループCEOは、「ハイパースケーラーやAI半導体メーカーの5年先の構想に応じて、材料、プロセス技術を進化させ、世の中にない商品を提案、実装できる開発力を生かす。要望に対して柔軟に応えられる生産、供給体制を備えていることも強みである。AIサーバーとAIデータセンターの進化を支える役割を果たす」と述べ、「お客様から将来需要の見通しを示してもらっており、受注の確度が高い。なかでも、データセンター向け電源に対する強い要望があり、2028年度のAWARD獲得率は売上高の80%に達している。次世代商品の導入拡大とデバイスの進化、生産能力増強に向け、2028年度までの3年間で約5000億円の累計投資を実行する。2029年度以降もさらなる成長を目指す」とした。
ここでのAWARDとは、パナソニックグループのBBU(Battery Backup Unit)などを対象にした次世代システムの開発推進合意や受注案件となっているものを指す。意欲的な売上計画に対しても、すでに多くの商談が発生していることが示されている。
「パナソニックグループは、AI処理の頭脳部を担うGPUやASIC周辺回路や基板の高速化への対応、心臓部を担う電源周辺でのパックアップ、電力ピークカットでのお役立ちを果たす。将来的にはAIで駆動する自動運転やロボティクスなどのエッジ領域にも貢献の幅を広げる」と述べた。
価値提供の重心、ハードウェアからサービスへ
ソリューション領域は、社会オペレーションを支える事業と位置づけ、「お客様オペレーションの高度化に貢献する」と述べた。
「フェーズ1」となる2028年度までの3年間で、ビジネスモデル変革を推進し、ハードウェアを中心としたビジネスモデルから、サービスへと価値提供の重心を移し、労働力不足や人件費の高騰、環境課題や規制、エネルギーコストの高騰などの課題に対応することで、「社会オペレーションを止めずに、省エネ化、省人化をサービスとエンジニアリングで支える事業を目指す」とした。
パナソニックグループには、商業施設やビル、住宅、工場、航空機、流通などの領域において、高いシェアを持つハードウェアが数多くある。これらのMIF(Machines In the Field)の規模を拡大させ、その周辺へのサービス、エンジニアリングによって、さらに事業を拡大できるポテンシャルがあることに着目。これを起点に、AIとデジタルの力も活用しながら、コンサルティングから保守、メンテナンスまでをカバーする体制を強化する。
「ハードウェアにサービスを加えることで、価値を提供し、お役立ちの幅を広げる」とした。
具体的な事例もあげた。
ショーケースおよび冷凍機では、スーパーマーケットなどへの機器の提供だけでなく、遠隔監視と制御、解析ソリューションの提供を通じて、現場を止めない価値を提供しているという。また、航空機の機内エンターテインメントシステムでは、映画や音楽の再生に留まらず、乗客の満足度を高めるパーソナライズした体験を提供し、航空会社と顧客との接点強化に貢献している。この事業では、グローバル50拠点での保守サービスも提供し、他社の機内エンターテインメントシステムへの保守サービスも実施しているという。
ビル管理システムでは、照明、中央監視、セキュリティ、防災などの幅広いシステムを提供するとともに、保守メンテナンスサービスを提供。工場インフラ設計施工では、水処理および給排水システムにおいて、施工後の施設管理、保守、メンテナンスまでを提供。「今後は、コネクテッド機器の導入を加速し、設備そのものによる価値を提供するだけでなく、運用効率、省人化、環境対応を含めたトータル価値を提供する。稼働停止が、経済的損失や信頼低下に直結する機器や設備が増加し、ダウンタイムに対する許容度が低下し、予防保全ニーズが顕在化しており、パナソニックグループが持つ設備運用に関する豊富なノウハウを生かすことができる。AI、デジタルを活用することで、他社に代替されにくいサービスを継続的に提供し、顧客に対する貢献の幅と期間を拡大する。ハードウェアにサービスを加えることで、収益成長を目指す」と述べた。
家電事業に「パナソニックブランドを牽引する」役割
パナソニックグループでは、デバイス領域、ソリューション領域に加えて、スマートライフ領域を設定しているが、今回のグループ成長戦略では、スマートライフ領域に関する具体的な説明がなかった。
だが、楠見グループCEOは、「スマートライフ領域では、中国のサプライチェーンを活用したグローバル標準コストの徹底と、ナノケアドライヤーやドラム式洗濯乾燥機のように、違いを実感してもらえるコア技術の活用を推進していく。良さを伝えて、体験してもらい、あらゆる商品でNPS(ネット・プロモーター・スコア)を高める。また、万が一、故障した際のサービス品質や信頼性についても高めていく。スマートライフ領域の商品は、パナソニックのブランドを牽引していくことになる。」と位置づけた。
一方、グループ経営改革として取り組んだ「2025年度改革プラン」において実施した人員適正化では、当初計画の1万人を上回り、1万2000人となったことを報告。調整後営業利益での改善効果は、目標の2024年度比1220億円に対して、2026年度までの見通しで1450億円になることを示した。
構造改革の具体的な成果としては、スマートライフ領域において、旧パナソニックを発展的に解消し、パナソニックエレクトリックワークス、HVAC&CC、新たなパナソニックの3つの事業体制に再編したほか、本社および本部機能、営業および間接部門をそれぞれ集約するとともに効率化を実施。グローバル20拠点以上での統廃合を行い、国内で8000人、海外で4000人の人員削減を行った。
当初の1万人の計画発表時には、国内外でそれぞれ5000人ずつという想定だったが、結果としては、国内が全体の3分の2を占め、国内だけを見れば、計画の1.6倍に達する削減規模となった。
「繁忙感があると人を増やすことにつながる。AIの利活用を日常化し、業務効率を高め、後戻りしないことが大切である。創意工夫により、本社や各事業会社で、業務プロセスを変え、効率をあげていくカルチャーを醸成していくことが必要である」と述べた。
また、課題事業および再建事業に関しては、すべてにおいて、方向づけが完了したことも示した。
同社では、成長を見通せない事業や、事業別WACC(加重平均資本コスト)がROIC(投下資本利益率)を下回る事業を「課題事業」と位置づけ、2026年度末時点で、課題事業ゼロを目指してきた。
課題事業だったパナソニックインダストリーの「産業デバイス事業」および「メカトロニクス事業」は、構造改革効果の刈り取り、材料合理化などを進める一方、車載用モーターおよび車載用冷却ファンモーター事業に関しては、ミネベアミツミに譲渡することを発表した。
「キッチンアプライアンス事業」では、量産開発の中国シフトと、日本での開発リソースの適正化、顧客の体験価値に寄与しない規格や基準を見直し、中国部材の積極活用などにより、グローバル標準コストを実現することで維持。「テレビ事業」は、欧米におけるテレビ販売を中国のスカイワースへ移管するなど、他社との協業により、リスクオフを図った。
また、事業立地を見極める事業を「再建事業」としており、このなかに含まれた「空質空調事業」では、構造改革や拠点最適化により、アジア地域におけるエアコン、コンプレッサーのコスト基盤を強化。業務用空調は、提携による開発コストの低減や、領域をフォーカスすることで収益を改善する。ハウジングソリューションズ事業では、YKK/YKK APとの戦略的パートナーシップにより、2026年3月末に非連結化を行い、建材のフルラインナップ化や、両社によるシナジー創出で成長を図る。
再建事業のひとつであった「家電事業」については、グローバル標準コストの追求と、協業によるアセットライト化により、事業競争力を高め、『コア技術×ブランド×販路』によって差別化できる領域で商品および宣伝を強化。高収益化を見込むという。
「多くのお客様に違いを感じてもらえる独自のコア技術をベースにブランドを高め、販路を強化し、差別化領域での循環を図り、事業競争力を強化する」という。
また、楠見グループCEOは、「パナソニックが、家電事業を中心に、他社に事業を売却すると想定していた人もいたのではないか」と前置きしながら、「だが、家電事業はブランドを牽引するという大きな役割があり、重要である。ここ数年で、中国で戦える力をつけてきた。新たな体制に移行する際に、これを徹底的に活用することを決め、新たなリーダーシップのもとで加速することになる」と述べた。
たとえば、厳しい事業環境にあった冷蔵庫は、2026年度から、日本市場向けのラインアップのほとんどがグローバル標準コストを採用したモデルになり、「これによって、シェアを高めるなど、ひとつひとつの積み上げによって、事業体質の改善が図れると確信している。中国の設計部隊の能力も向上している」などとした。
楠見グループCEO、「ここからは成長フェーズ」
説明会では、楠見グループCEOが、「創業命知」に関して触れるシーンもあった。
パナソニックグループの創業者である松下幸之助氏は、1932年5月に、「真の使命を知った」とし、物と心が共に豊かな理想の社会を、250年間をかけて実現する計画を打ち出した。この日を「創業命知」の日と呼び、同社にとって、「真の創業」と位置づけている。2032年5月には、それから100年の節目を迎えることになる。
楠見グループCEOは、「"命知"から100年目を迎える2032年に向けたパナソニックグループのお役立ちについて説明する」とし、「パナソニックグループは、時代とともに変化する社会課題の解決を通じて、社会と産業の発展を支え、進化を続けてきた。2032年に向けては、エネルギーの有効活用と、現場労働力不足の解消という2つの課題解決を目指し、AIインフラと社会オペレーションを支えることでお役立ちを果たす」と発言した。
今回の発表は、「中期戦略」ではなく、「グループ成長戦略」という言葉を用いた。
「これまでは3年単位で中期の計画を発表していたが、社会情勢の変化、技術進化が激しいため、毎年、次の3年をローリングする方式に変えることにした。また、3年に限定するのではなく、もっと先を見て、そこに向かって、自分たちはなにを変えていかなくてはならないのかということにも考え方を変えなくてはならない。1年ごとに修正しながら、3年後、6年後を示す。計画よりも、戦略を研ぎ澄まことにシフトしなくてならない。中期計画ではなく、成長戦略としたのはそこに理由がある」と説明した。
パナソニックグループが打ち出した「グループ成長戦略」では、AIインフラを支える事業が成長を支えることが明確に示された。その一方で、家電事業やテレビ事業は、グループ内での再編に目途をつけたものの、国内だけで8000人の人員削減は、想定を大きく上回るものであり、社内のモチベーション維持が気になるところだ。
楠見グループCEOは、「ここからは成長フェーズに入る」と宣言した。これまでの「中期戦略」では未達が繰り返されてきただけに、「成長戦略」での実効性が問われる。











