マイナンバー制度をめぐる、このところの政府の動きとしては、この連載でも追いかけてきたように、マイナンバーカードの普及促進の動きが、目立っています。その一方で、もう一つのマイナンバーである「法人番号」を活用した動きは、経済産業省が「法人インフォメーション」サイトを立ち上げる程度で、目立った動きはありませんでした。

今年6月14日に公表された「世界最先端デジタル国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画」には、「デジタル・ガバメントの実現を支える環境整備」の項に、「マイナンバーカードの普及、利活用の推進等」と並んで「法人デジタルプラットフォームの構築」が掲げられました。

今回は、この「法人デジタルプラットフォーム」をめぐる動きについて、みていきたいと思います。

「法人デジタルプラットフォーム」とは

「世界最先端デジタル国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画」の「法人デジタルプラットフォームの構築」の項では、いくつか取り組みが、列記されています。これを整理してみると、以下のようになります。

・法人からの申請フォームに法人番号入力欄を原則設け、行政手続デジタル化を徹底し、法人に関する情報のデジタル化を進める。
・各府省は、法人に関する情報の標準化を進め、法人インフォメーションへのデータ掲載を円滑に進める。
・GビズID(法人共通認証基盤:法人版マイナンバーである法人番号を活用し、一つのID/パスワードで複数の行政サービスにアクセスでき、ワンスオンリーが可能となる認証システム)を令和元年度に試行、令和2年度から政府全体で活用できる環境を目指す。
・GビズID(法人共通認証基盤)を活用した補助金申請や産業保安関係法令手続などの主要な行政手続の簡素化・デジタル化について、令和元年度中にシステム化に着手し、政府全体で活用できるシステムについては令和2年度から横展開に向け取り組む。
・官民におけるデータ交換の仕組みについての検討を進め、令和元年度に法人データ交換基盤を試行的に構築し、令和2年度以降に官民で活用できる環境を目指す。
・利活用ニーズに即した形で法人インフォメーションのデータを拡充していくとともに、政府情報システム等とのAPI連携を推進する。

そして、「これらの取組を通じて法人に関する情報のデジタル化を進め、行政サービスにおけるワンスオンリーなどのサービス向上や政策効果の分析等への活用、官民でのデータ連携を通じた事業者による事業創出を後押しする。」としています。

「世界最先端デジタル国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画」を読む限りでは、これらの取り組みが実現した先にあるものを、「法人デジタルプラットフォーム」と呼んでいるようです。

「法人デジタルプラットフォーム」の構想は、経済産業省がマイナンバー制度施行当時から、提唱していたものです。9月12日の「デジタル・ガバメント分科会」 に、「経産省の法人データ基盤とデータ標準化」が議事としてあげられ、「経済産業省における法人活動環境の整備」という資料が公開されています。

(図1)は、その資料から、「DXの基盤となる法人デジタルプラットフォームの実現」を図示したものです。

DXとは、「デジタル・トランスフォーメーション」のことですが、経済産業省では、「経済産業省のデジタル・トランスフォーメーション(DX)とは」というサイトまでつくって、以下のような説明をしています。

「これまでの、文書や手続きの単なる電子化から脱却。IT・デジタルの徹底活用で、手続きを圧倒的に簡単・便利にし、国民と行政、双方の生産性を抜本的に向上します。また、データを活用し、よりニーズに最適化した政策を実現。仕事のやり方も、政策のあり方も、変革していきます。」

(図1)をみると、そのDXの基盤として、「法人デジタルプラットフォーム」が位置づけられていること、「世界最先端デジタル国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画」で列記されていた取り組みが、どのように繋がって、「法人デジタルプラットフォーム」を構成しているかを、見て取ることができます。

ただし、(図1)に記載されている様々なサービスが、すでに、提供されているわけではありません。

(図2)は、同じ資料で、示されたサービス提供時期などについて示されたスケジュールです。

  • (図2)スケジュール

「法人インフォメーション」および「GビズID(法人共通認証基盤)」が運用中となっているほかは、スケジュールが示されているだけです。ここに示されているように、徐々に、事業者が活用できるサービスが拡張され、(図1)のような「法人デジタルプラットフォーム」が構築されていくことになっているようです。

「GビズID(法人共通認証基盤)」と行政手続き電子化

「GビズID(法人共通認証基盤)」については、「経済産業省における法人活動環境の整備」のなかでは、(図3) のような説明がされています。

(図3)のなかでは、「GビズID(法人共通認証基盤)」について、「1つのID/パスワードでの手続の実現により、官民双方における手続に要する時間やコストを削減」としています。法人が、電子化された行政手続き(e-TaxやeLTAX、e-Govなど)を行う場合には、公的な電子証明書として、商業登記電子証明書を利用するのが一般的になっています。この商業登記電子証明書は、発行手数料が有償です。中小企業では、電子証明書発行に費用をかけてまで、電子申告・申請を、自ら利用しようとはしないため、電子申告・申請の利用率が伸び悩む傾向がありました。

(図4)は「GビズID(法人共通認証基盤)」のホームページです。

このGビズIDの利用料金は無料です。また、個人事業主も利用できます。

法人代表者や個人事業主が利用することとされているgBizIDプライムは、申請に際して印鑑証明書などを添付して、書類で申請するため、発行に際して、費用と手間がかかりますが、商業登記電子証明書の発行手数料に比べれば、微々たるものです。 gBizIDは、(図5)のように3種類あります。

この(図5)は、よくある質問「アカウントに種類があるのはなぜですか」という質問の回答のなかにある図です。

この回答では、「GビズIDでは、審査を行わず発行するアカウント及び審査を行ない発行するアカウントの2系統を提供しています。各行政システムにおいて、どのアカウントの種別で利用することができるかは異なります。」と説明しています。

このなかで、「gBizIDエントリー」がどこまで行政手続きで利用できるかは、不明ですが、基本的には、「gBizIDプライム」と「gBizIDメンバー」が主に利用されることになると思われます。また、「gBizIDメンバー」は「gBizIDプライム」を使って、作成できます。企業の担当者が、電子申請など行う場合は、この「gBizIDメンバー」を使用すれば良いことになります。

この「GビズID(法人共通認証基盤)」のホームページでのいろいろな説明をみる限り、「gBizIDプライム」や「gBizIDメンバー」の使い勝手は、良いように思われます。 あとは、「gBizIDプライム」や「gBizIDメンバー」がどのような行政手続きに利用できるか、という点です。

「世界最先端デジタル国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画」では、補助金申請や産業保安関係法令手続などの行政手続に使用されるとされていますが、これだけでは、「GビズID(法人共通認証基盤)」が広まっていくとは思えません。

(図6)は、以前も掲載した、内閣府が進める社会保険・税のオンライン・ワンストップ化等のロードマップです。

(図6)の一番下に赤字で書かれているなかに、「社会保険ID・パスワード化開始(2020年4月)」とあります。内閣府の説明によると、2020年4月からマイナポータルで電子申請できる社会保険関連の手続で、この「GビズID(法人共通認証基盤)」が利用できるとのことです。「GビズID(法人共通認証基盤)」の利用が予定されている手続には、健康保険・厚生年金保険や雇用保険の被保険者資格取得(喪失)届出や、健康保険・厚生年金保険被保険者報酬月額算定基礎届など、従業員を雇用する企業や事業主では必ず行う手続が入っています。

これらの手続では、内閣府が進めるマイナポータルを利用した社会保険のオンライン・ワンストップ化の方が、e-Govを利用するよりも、より便利になるのであれば、マイナポータルを利用した電子申請の利用が進むことになり、あわせて、「GビズID(法人共通認証基盤)」の利用も進むことになるのではないでしょうか。

今後の電子申請の利用拡大に、「GビズID(法人共通認証基盤)」が寄与していく可能性も考えられます。

「法人デジタルプラットフォーム」の構想のなかで、「GビズID(法人共通認証基盤)」は、(図1)でみたとおり、プラットフォームの入り口を担うものになります。「GビズID(法人共通認証基盤)」の利用がどれだけ広がっていくのか、また、この「GビズID(法人共通認証基盤)」を入り口とした、法人や個人事業主向けのサービスが充実していくのか、今後の「法人デジタルプラットフォーム」の進展に、注目していきたいと思います。

中尾 健一(なかおけんいち)
アカウンティング・サース・ジャパン株式会社 最高顧問
1982年、日本デジタル研究所 (JDL) 入社。30年以上にわたって日本の会計事務所のコンピュータ化をソフトウェアの観点から支えてきた。2009年、税理士向けクラウド税務・会計・給与システム「A-SaaS(エーサース)」を企画・開発・運営するアカウンティング・サース・ジャパンに創業メンバーとして参画、取締役に就任。現在は、同社最高顧問として、マイナンバー制度やデジタル行政の動きにかかわりつつ、これらの中小企業に与える影響を解説する。