「マイクロ○○」といえば「とても小さなもの」と相場が決まっているが、UAV(Unmanned aerial vehicle:無人航空機)の分野にもそうした製品がある。いわゆるミニUAVより小さい、だいたい掌に載るぐらいのサイズの機体である。

黒いスズメバチ

昨年の「国際航空宇宙展2018」(JA2018)でも、実はマイクロUAVに関する出展があった。それが、フリアーシステムズ(FLIR Systems Inc.)の「ブラックホーネット」。名前にホーネットと付くが、もちろんボーイングの戦闘攻撃機とはまったく関係ない。

ブラックホーネットは、ちょうど手と同じぐらいのサイズを持つ回転翼機。データシートによると、ローター径123mm、全長168mm、重量33g未満、最大速力6m/sec、風速15kt(突風なら20kt)まで運用可能。電動式で、航続時間は最大25分間。

見かけは正にヘリコプターそのもので、上部に付いているメインローターを電気モーターで回して飛ぶ。メインローターだけだと反トルクでくるくる回ってしまうから、ちゃんと反トルク打ち消し用のテイルローターもつけている。この小さなサイズの中に、一般的なヘリコプターとしての飛行系統が収まっているのは驚異的だ。

  • これがブラックホーネット。後方にあるのは、制御用のタブレット端末とキャリングケース

  • ブラックホーネットが実際に飛んでいる様子 写真:フリアーシステムズ

  • ブラックホーネットが撮影した画像を映し出すモニター 写真:フリアーシステムズ

このブラックホーネットは、「個人用偵察システム」(PRS : Personal Reconaissance System)と称している。その名の通り、個人レベルで使用できる「ちっちゃな偵察機」というわけだ。センサーは、昼光用の電子光学センサー(要するにデジタルカメラ)に加えて、夜間用に赤外線センサーを組み込むこともできる。

動画の解像度は640×480ピクセル(スナップショットなら1,600×1,200ピクセル)、赤外線映像の解像度は160×120ピクセルというから、いまどきのデジタルカメラと比べれば解像度は粗い。だが、データリンクの伝送能力も考慮に入れなければならないし、過剰性能はメリットにつながらない。

センサーは先端部に組み込んでおり、胴体下面にバッテリを配置している。回収時には、降着装置なんて付いていないからドスンと着陸させるのだろうし、その際の緩衝という狙いもあって、バッテリを下面に置いているのだろう。

このちっちゃな機体を2機、専用のキャリングケースに入れて持ち運ぶ。それとは別に、機体の制御や映像の受信・表示に使用する管制ステーションがあり、こちらはだいぶ厚ぼったいタブレットPCという風体だろうか。

小さな機体の実現は何が難しいか

ここまでだと、単なる機体の紹介である。そこで、ブラックホーネットのような機体を実現するのに、何が難しいんだろうか、ということを考えてみた。

先にも書いたように、コンパクトな機体の中にバッテリとモーターとメインローターとテイルローターを組み込まなければならない。現物を見ると、普通のヘリコプターみたいにブレードのピッチを細かく制御する仕組みは組み込まれていないようだから、なにか別の手段で機体を操れるようにする仕組みが必要になる。

さらに、機首に搭載するセンサーも、小さく、軽く、低消費電力にしなければならない。小さな隠しカメラを作るようなものだ。それだけでなく、そのカメラの映像をライブで送信するための無線通信機材と、そのためのアンテナも必要になる。

そうした一切合切をコンパクトな機体の中にまとめて、しかも戦場での「武人の蛮用」に耐えられるように、シンプルで丈夫な構造にまとめなければならない。そしてもちろん、半ば消耗品みたいなものだから、値段も安くしないといけない。

そしてもう1つ。管制ステーションで動作させるソフトウェアと、マン・マシン・インタフェースという課題もある。小さな画面の中に、安直にたくさんのアイコンを並べてしまったのでは、操作しづらいだけでなく、誤操作の可能性がある。

かといって、1つの目的を達成するのにいくつものアイコンを順番にタップしなければならないのでは、操作に手間がかかって火急の場面の役に立たない。

つまり、戦場で確実に使えて、かつ間違いが起きにくいマン・マシン・インタフェースの開発。これも難しい課題になるし、当然ながら現場からのフィードバックは大切である。

それが、ブラックホーネットみたいな機体を実現する際のポイントであり、これは難しい仕事だ。フリアーシステムズはもともと、赤外線センサーで知られた会社だから、センサー部分についていえばノウハウを持っているのだろうけれど。

凝り過ぎは良くない

この話は大事だから何度でもしつこく繰り返すのだが、無人ヴィークルには「消耗品」「墜とされたり壊されたりしても諦めがつくこと」という条件がついて回る。

そして、第一線の小規模部隊が個人レベルの偵察手段として用いるマイクロUAVでは特に、手荒く扱っても壊れない、シンプルで頑丈な製品が求められる。凝りすぎて構造が複雑でデリケートで、手荒く扱うと簡単に壊れてしまうような製品は悪である。

これが良い例えかどうかわからないが、分解してもほんの何個かの部品にしかならないカラシニコフAK47自動小銃みたいな製品でなければ、現場で役に立つマイクロUAVにはならない。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。