具体的には、各行や各列において出力する波長が重ならないようにリング共振器をセットして、リング共振器に対応した波長の光を束ねた多波長信号をクロスバーアレイに入力すると、行列wの各行の成分と入力された光ベクトル信号xの積演算結果がクロスバーアレイの下側に出力され、リング共振器から出力された積演算結果を含む多波長光信号を受光器で一括して電気信号に変換することで、最終的に行列wとベクトル信号xの積和演算結果wxを得ることができる仕組みだとのことで、この積和演算結果を用いると、深層学習の推論を行うことが可能だという。

一方、クロスバーアレイの上側から誤差信号に相当する多波長信号δを入力すると、推論時に用いた行列wの転置行列wTとの積和演算結果wTδが出力される。誤差信号δと転置行列wTの積和演算wTδは誤差逆伝播時の計算に用いられるものであり、学習に必要となる計算を光回路上での誤差逆伝播により得ることが可能なことから、これにより、同一の光回路を用いて、入力する光信号の向きを変えることで、推論および学習に必要となる演算を行うことができるようになるという。

今回の研究では、リング共振器クロスバーアレイに加えて、推論用信号および誤差信号を生成・入力する光回路、演算結果を電気信号に変換する受光器アレイなど、必要となるすべての素子を集積させ、シリコン光回路のチップが試作され、その試作光回路を用いて、推論と学習に必要となる積和演算が実行された。リング共振器クロスバーアレイに3つの異なる行列を設定して推論用の積和演算wxが実行されたところ、所望の計算結果が得られたという。一方、同じ行列を設定した状態で誤差信号を入力することで、学習用の積和演算結果wTδを得ることにも成功したとする。

  • 試作されたリング共振器クロスバーアレイを用いた深層学習用光回路

    試作されたリング共振器クロスバーアレイを用いた深層学習用光回路 (出所:東大Webサイト)

また、試作光回路を用いて光ニューラルネットワークを構築して、分類問題の推論が行われた結果、93%という高い正答率を得ることに成功したとするほか、誤差信号δと転置行列wTの積和演算wTδを用いて学習を行うことで、学習計算を1000倍以上高速化できることも確認したとする。

  • 試作された光回路を用いて演算した推論用および学習用積和演算結果

    試作された光回路を用いて演算した推論用および学習用積和演算結果 (出所:東大Webサイト)

なお、研究チームでは今回の研究成果について、より高度なAI技術の進展を可能にすることが期待されるとしており、今後は、回路規模を拡大するとともに、化合物半導体と組み合わせて光回路の消費電力の低減を図ることで、さらなる高性能化を目指すとしている。