新型コロナウイルス感染症の拡大によってIT化が加速する中、デジタル庁が発足し、日本国内のDX(デジタルトランスフォーメーション)が大きな転換期を迎えた2021年。日本ディープラーニング協会(JDLA)、データサイエンティスト協会(DSS)、情報処理推進機構(IPA)がデジタルリテラシー協議会を立ち上げるなど、デジタルリテラシーがDXを推進する鍵になるのではないかと注目されている。

そうした中、JDLAが11月11日にデジタルリテラシーをテーマにした記者説明会を開催した。JDLAのプロジェクトアドバイザーとデジタルリテラシー協議会の事務局を務める小泉誠氏が「なぜ『今』デジタルリテラシーが必要なのか」について語ったので、その様子をお届けする。

  • 日本ディープラーニング協会 プロジェクトアドバイザー 小泉誠氏

小泉氏は冒頭に、「そもそもリテラシーとは必要な情報にアクセスして活用できる能力のことであり、デジタルリテラシーとは、対象となるデジタル技術がどのような性質を持っているかを理解して、目的のために適切にデジタル技術を使う能力である」と、デジタルリテラシーの定義を改めて述べた。

例えば、対話AIの場合、技術の中身までは知らなくても、AIはどの程度の会話応対が可能であり、どのレベルが不可能なのかを理解していることが重要であるとのことだ。どの企業が開発したのか、そしてどこへアクセスすればAIを利用できるのかなどを知ることもリテラシーの中に含まれる。

DXが成功している組織のリーダーに話を聞くと、失敗を経ながらもDXを推進するために組織能力を上げる長期的な計画に着手している例が多いそうだ。個人が変わることで組織が変わり、最終的に社内全体が活性化してDXの兆しをつかんでいたとする声も多く、大きな組織変革やデジタル化に成功した組織には、共通して組織能力を上げるためのプロセスが存在することが明らかになってきているという。

  • DXリーダーへのインタビューで見えてきた共通の成功プロセス

「DXが声高に叫ばれるのに伴って、ビジネスの基本が変わってきている」と小泉氏が述べた。ビジネスの時間軸が急速に早まるとともに、会社のあり方がソフトウェア化しているとのことだ。

「y(t)=art」という複利計算式を想像していただきたい。これまでの経営戦略は各社の時間軸が同一である前提のもとで「r(リターン)」を大きくする点が中心であったが、AIをはじめとするデジタルツールの台頭によって時間の制約を脱却してビジネスが加速したことで、世界的に「t(時間軸)」を増やすアプローチが求められている。

  • 複利計算式を用いたビジネス加速のイメージ

コンピュータ発展の歴史を振り返ると、人間と機械の間の層を積み重ねることで技術が発達してきた。元々は1からプログラムを書いていたものを、層を重ねることでより便利にコンピュータを制御できるよう発展している。従来の縦割りの組織に縛られるではなく、組織そのものも横割りに転換する必要があるとして、「会社のソフトウェア化」と表現しているのだ。

  • 組織がソフトウェア化するイメージ

このようにビジネスの基本が変わりつつある中で、「会社が変わるためにはデジタルマインドセットを組織として持つことが重要。それには、組織を構成する個人個人が変わる必要がある」と同氏が述べた。

会社や組織が変わるためには個人が変わる必要があり、その際に必要となるのが各人のデジタルリテラシーだ。その次の一手として、小さな成功事例を積み重ねながら社内でアンバサダーやインフルエンサーを育成していく必要があるとのことだ。

  • DXの最初の一手としてデジタルリテラシーが求められている

「社内でDX人材を育成するための組織論的なアプローチは2つある。1つは社内の評価軸を変えるアプローチだ。挑戦せずに失敗しない人ほど評価が高くなりがちな既存の人事制度を覆している組織の方がDXがうまくいっているようだ。もう1つは社外の仕組みを利用して評価する指標を持つアプローチだ。社外のコンテストやハッカソンなどで社員の評価を改めてみるのもよいかもしれない」(小泉氏)