KDDIは9月28日、オンラインで法人事業の説明会を開催し、商用環境での5Gスタンドアローン構成(5G SA)の通信試験開始や「KDDIマネージドセキュリティサービス」、富士通とのパートナーシップ締結などが発表された。

通信(5G・IoT)+αでDXを加速

まず、はじめにKDDI 取締役 執行役員 専務 ソリューション事業本部長の森敬一氏が法人事業について説明した。同氏は「新型コロナウイルスへの対応をはじめ、地球温暖化、デジタルデバイドなど多様な社会課題を解決するとともに、変革を実現することを目指している。当社は通信事業を主体としているため、通信(5G・IoT)+αでDX(デジタルトランスフォーメーション)を加速させて、社会課題の変革につながればと考えている」と述べた。

  • KDDI 取締役 執行役員 専務 ソリューション事業本部長の森敬一氏

    KDDI 取締役 執行役員 専務 ソリューション事業本部長の森敬一氏

同社の法人事業における2021年3月期の売上高は9916億円、営業利益が1667億円に対し、2022年3月期は売上高1兆200億円、営業利益は成長率10.4%増の1840億円を計画。通信を中心としたコア事業に売上比率の3割超への成長を見込む、NEXTコア事業を加える形だ。

  • KDDIの法人事業

    KDDIの法人事業

NEXTコア事業は同社の新しい領域となり、スマートワーク、ゼロトラストなどの「コーポレートDX」、クラウド、IoTをはじめとした「ビジネスDX」、データセンター、コールセンターといった「事業基盤サービス」で構成している。

  • NEXTコア事業の概要

    NEXTコア事業の概要

同事業の強みとして、森氏は「DXを実現する多様なケイパビリティを有し、IoTのトップランナーであり、お客さまとのビジネス共創が強みだ」と話す。

  • NEXTコア事業の強み

    NEXTコア事業の強み

DXを実現する多様なケイパビリティでは、国内外に持つ固定・モバイル双方の強固な通信基盤に加え、国内100か所、2万7000人超の従業員、海外法人のTELEHOUSEでは世界90拠点、2300人超の従業員、DX人材区政プログラムの「KDDI DX University」などの組織・人材、そしてアイレットやソラコムをはじめとしたグループ企業の存在がある。

また、IoTのトップランナーとしては、コネクテッドカーなどのIoT累計回線数を2022年3月期に2400万回線を見込んでおり、直近3年の年平均成長率は40%を超えるという。IoTの通信接続からサービス展開、データ分析まで提供する「IoT世界基盤」は、遠隔監視や在庫管理、モビリティ向けなど世界230の国と地域で提供し、IoTプラットフォームサービスを有するグループ会社のソラコムとグローバルIoTアクセスを通じ、サービス連携している。SpaceXと提携し、同社の「Starlink」を携帯電話の基地局のバックホール回線に利用することを発表。

さらに、ビジネス共創では、KDDI DX Univesityに加え、顧客と新たなビジネスソリューションを創出する5G/IoTのビジネス開発拠点として東京・虎ノ門の「KDDI DIGITAL GATE」、JR東日本との空間自在プロジェクト、三井物産との「次世代型都市シミュレーター」などを挙げている。

一方で、地域社会の課題解決につながる取り組みを進めている。渋谷区とデジタルデバイド解消に向けた実証事業として、スマホ無料貸し出し・活用支援などで高齢者の生活の質的向上を目指していることに加え、昨年はヴァーチャルハロウィンを開催し、今年も開催を予定。

電源開発とは、スマートドローンを活用して風力発電設備点検をオートフライト/AI解析で自動化し、作業時間短縮のを図るとともに、水力・火力を発電を含めたDX化を推進している。そのほか、全国の自治体と168のプロジェクトに取り組んでいることに加え、カーボンニュートラルとして2030年度までにCO2自社排出量50%削減を目標とし、三菱重工、NECネッツエスアイ液浸冷却装置の活用で消費電力を35%削減する共同実証を展開している。

多様な技術・サービスでDXをコーポレート、ビジネス両面から支える

続いて、KDDI 執行役員 ソリューション事業本部 サービス企画開発本部長の藤井彰人氏が、NEXTコア事業の核となるコーポレートDXと、ビジネスDXの具体的な取り組みについて紹介した。

藤井氏は「企業の足腰とも言えるコーポレート業務のDXであるコーポレートDXと、ビジネス環境の変化に応じて既存の事業のデジタル変革の方向性を支援するビジネスDXと位置付け、多様な技術・サービスでDXをコーポレート、ビジネス両面から支えていくことが当社の使命だ」と力を込める。

  • KDDI 執行役員 ソリューション事業本部 サービス企画開発本部長の藤井彰人氏

    KDDI 執行役員 ソリューション事業本部 サービス企画開発本部長の藤井彰人氏

まずは、コーポレートDXから。コロナ禍でオンラインへの転換が急務となり、同社ではビデオ会議の導入支援が大幅に増加したほか、働く場所が分散しているためクラウド電話の契約は昨年比で17倍にも拡大し、働き方・オフィスの再定義がなされた。

こうした状況を背景に、同社では昨年7月にオペレーション、クラウドアプリ、セキュリティ、ID、ネットワーク、デバイスの6つのコンポーネントを組み合わせ、多様な働き方をワンストップで支援するマネージドゼロトラストを発表。

  • 昨年発表したマネージドゼロトラストの概要

    昨年発表したマネージドゼロトラストの概要

同氏は「これまでの社内IT化と異なる点は、多様な社員それぞれの生活スタイルにどのように寄り添うかということだ。しかし、マネジードゼロトラストを展開していくと新たな課題が出てきた。それは、どのように管理し、安心して使える環境を維持していくのかという点が問題になっているため、新たにKDDIマネージドセキュリティサービスを提供する」と説明した。

同サービスは、同社独自開発のログ基盤に同社グループのラック(LAC)のノウハウを活用した自動分析エンジンを搭載。複数のセキュリティサービスから収集される膨大なログを、1つの基盤でリアルタイムに自動分析し、KDDIとLACの合弁会社であるKDDIデジタルセキュリティ(KDS)のアナリストによるログ調査・分析を迅速に行う。

これにより、インシデント発生を早期に検知・対応することが可能なほか、オプションサービスとしてエンドユーザーからの問い合わせに対応するヘルプデスク機能や、設定代行を併用して利用することで社内で運用を行うための人的リソースや体制を用意することなく、ゼロトラスト環境を安定して利用でき、10月1日に提供を開始する。

  • KDDIマネージドセキュリティサービスの概要

    KDDIマネージドセキュリティサービスの概要

今後、マネージドセキュリティを強化するため、2021年下期には監視対象サービスの拡充を予定していることに加え、海外拠点対応のSD-WANサービスを提供する考えだ。

商用環境での5G SAの通信試験を開始

次はビジネスDXについて。藤井氏は「5Gにより、あらゆるものがつながった後、どのような新しい産業が出てくるのか、どのようなビジネストランスフォーメーション(BX)でビジネス変革が創出されるのかに注目している。そのため、5GやIoTのテクノロジーはビジネスDXテクノロジーのきっかけになると考えており、IoTのトップリーダーとして当社はサポートしていく」と強調する。

そのために、商用環境での5G SAの通信試験のほか、「KDDIリカーリングビジネスプラットフォーム」「KDDI IDマネージャー」を解説した。

同社では、5Gの特徴を活かしたサービスの提供が可能な5G SAの提供に向け、全国に展開中の5G基地局と新規に構築した5G SA専用コア設備(5Gコア)を接続し、商用環境での5G SAの通信試験を9月から開始。MEC(Multi Access Edge Computing)やネットワークスライシングを組み合わせ、ニーズに合わせたネットワークを提供する。

  • 5G SAを始動させた

    5G SAを始動させた

すでにソニー、フジテレビと実証実験を行っており、ソニーとはリアル会場から全国各地の現地までライブ配信に最適化されたネットワークをオンデマンドで提供し、全国各地へのリアルタイム配信を目指した実証に取り組んでいる。また、フジテレビとは低遅延での中継映像の伝送とクラウドスイッチングで報道中継現場の映像を簡易に放送・配信することを目指した実証を実施。

今後、商用環境での通信試験を通して、実際の使い方に即したシチュエーションでの通信品質の評価や、5G SA特有の通信品質の評価を行う。5G SAの特徴である高速・大容量通信の品質の確認や、幅広い利用目的ごとの用途やニーズに合わせた通信機能の確認を行い、安定したサービス提供に向けた着実な準備を進めていく。

他方で、ビジネスDXのプロセスを変えていくことも必要なため、継続的・長期的に収益化を図るリーカーリング(循環)モデルへの転換が重要なため、同社はKDDIリカーリングビジネスプラットフォーム構想を進めている。同プラットフォームは同社が通信事業で培ったノウハウを活用し、サービスインフラ、データ分析、マーケティンをワンストップで顧客がリカーリングビジネスを実現することを支援。

  • 「KDDIリカーリングビジネスプラットフォーム」

    「KDDIリカーリングビジネスプラットフォーム」

その一環として、9月28日からKDDI IDマネージャーの提供を開始した。同サービスでは、3000万超のユーザーを保持するグループ ID運営で培ったノウハウを活用し、法人顧客のIDによる顧客管理と保守・運用を支援するサービスとなり、リカーリングビジネスの実現を支援するというものだ。

また、パスワードレス、多要素認証、シングルサインオン(SSO)でユーザビリティを担保し、24時間365日監視による不正アクセス検知を可能としている。さらに、導入は容易で、継続的なアップデート、拡張性を確保しており、運用面でもメリットを持つという。

  • 「KDDI IDマネージャー」の概要

    「KDDI IDマネージャー」の概要

富士通とは5G技術活用でパートナーシップを締結

そして、目玉となった発表が富士通と5G技術を活用した社会課題解決に向けたパートナーシップの締結だ。すでに、同社では5Gをベースに1000社のパートナーとビジネス共創に取り組んでいる。

今回、両社は互いの5G技術を持ち寄り、5Gサービスプラットフォームの構築として、ローカル5Gとau 5Gを連携させてリアルとヴァーチャルをシームレスにつなぐ基盤の構築を目指している。また、サービス全般を網羅的に提供するために業務ノウハウを多く持つ、富士通のインテグレーション能力とKDDIにおけるリカーリングの考え方を統合し、B2B2Xのサービス基盤を網羅的にサポートする。

  • 富士通とのパートナーシップの概要

    富士通とのパートナーシップの概要

最後に、藤井氏は「通信+αでDXを加速し、お客さま・社会の課題解決を実現していく。事業においてはNEXTコア事業・コア事業の両輪で持続的な成長を図る。NEXTコア事業の強みであるDXを実現するケイパビリティ、IoTトップランナーとしてのソリューション提供、お客さまに共感し、共創していく体制で支援していく」と述べていた。