高齢者の熱中症は、自宅で脱水症状が数日間続いた結果起こることが多く、注意を要することが救急搬送者のデータやシミュレーションから分かった。名古屋工業大学などの研究グループが発表した。体温調節機能の低下が著しいことを、科学的に裏付けた。高齢者は体の異変に気づきにくく、周囲が声をかけるなどして水分を意識的に摂取することが重要だと指摘している。

熱中症による救急搬送は年々増える傾向にあるが、従来の研究では搬送者数や症状が着目されたものの、半数ほどを占める高齢者が、自宅で熱中症になるまでの体のことはよく分かっていなかった。搬送前の状態は把握しにくいが、解明できれば予防につながりそうだ。  そこで研究グループは、体温や汗の量を推定する独自のシミュレーション技術と、実際に発症し救急搬送された高齢者のデータを活用し、解明を試みた。名古屋市消防局による2019年5~9月、20年5~8月の65歳以上の熱中症の搬送者は1299人。このうち831人が自宅や入居施設で熱中症を発症しており、搬送時の冷却の応急処置で効果が見られた人を除き、559人を解析対象とした。

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    2020年8月の気温(上)と、高齢者の体のモデルを基に推定した屋内での体温の変化。比較で示した「成人」は25歳に相当する(名古屋工業大学提供)

研究グループが開発した65歳、75歳の体の一般的なモデルのデータに、実際に自宅などで発症した人の搬送時の体温、昨年8月の気象条件などのデータを当てはめ、屋内での体温の変化をコンピューターで推定した。その結果、高齢者は25歳の若者に比べ調節機能が鈍く体温が上がりはするものの、最高時でも推定38度ほどにとどまった。一方、実際に搬送された患者の42%が38度以上だった。体のモデルから推定した体温が、実際とかけ離れていた。このことから、熱中症になる高齢者は体温の調節機能が著しく低下していることが、科学的に分かった。

次に、搬送された高齢者の体の状態を計算した。標準的な汗のかき方を想定した場合、実際の搬送時の体温とのずれが目立った。一方、汗をかいていないと想定すると、実際の体温とよく一致した。搬送された人の3割以上は体温調節機能が著しく低下し、体から熱を逃がすために重要な汗をかけていないことがうかがえたという。

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    搬送された高齢者の体温を推定。標準的な汗のかき方を想定すると、実際とのずれが目立った(左)。汗をかいていないと想定すると実際とよく一致した(名古屋工業大学提供)

また搬送当日の汗の量は、最大でも推定500グラム程度と少なく、当日1日だけの脱水症状で熱中症になることは考えにくかった。脱水が数日間にわたり続いたため、引き起こされたことがうかがえる。

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    推定した2020年8月15日午後2時の体表面温度。「成人」は25歳相当。「65歳では末梢神経系が衰え、汗のかき始めが遅くなり量も少なくなる。75歳だと中枢神経系が衰え体温の調整が鈍る。暑いことに気づかないのでは」と研究グループ(名古屋工業大学提供)

こうした結果から、これまで知見が不十分だった、日本の住宅での高齢者の熱中症発症の仕組みが見えてきたという。研究グループの名古屋工業大学大学院工学研究科の平田晃正教授(公衆衛生工学)は「高齢者は暑さを感じにくく、自覚しないまま数日にわたり脱水症状が続く例が多いことが示された。暑さ対策や水分補給を欠かさないよう、周囲の人が声をかけることが重要。盛夏の救急活動では熱中症の対応が手いっぱいとなっている。高齢化がさらに進むと対応が追いつかなくなる恐れがあり、予防は極めて重要な課題だ」と述べている。

研究グループは名古屋工業大学と名古屋市消防局で構成。成果は同大が今月13日に発表した。論文を学術誌に投稿中だが、熱中症が深刻化する時期を迎えることから、啓発のため先行して発表したという。

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