タイミングの難しさをデジタルで解決

松浦氏は、「FAMoffice」の利点について、「リアルのオフィスのように、周りの社員の状況がひと目で把握できることだ」と説明した。このツールに適用されている富士ソフト独自の機能「ライブオフィスビュー」により、周りのアバターがどこにいるのか、誰と誰が会話しているのか、PCの画面上で俯瞰して見ることができる。

これにより、相手の顔が見えなくても状況が把握でき、話しかけるタイミングが難しいといった課題の解決にもつながる。実際に、会議終了直後の上司に、待っていた部下が話しかけるといった、まるで本当のオフィスのような社員の動きが仮想オフィスにもしばしばみられるという。管理職にしても、自分のチームが分散していても、今どういう状態なのかを俯瞰して見られるということは、円滑なマネジメントを実現するために有効なことだ。

また、デジタルのオフィスだからこそ実現できることもある。それは、コミュニケーションの履歴が確認できることだ。誰と誰がどんな会話をしたのかをログとしてすべて残し、いつでも確認できる状態にしている。「どれくらいの頻度でコミュニケーションをとっているのかを可視化することができる」(松浦氏)

ほかにも、全国の社員や、まったく違う部署の社員同士が1カ所に集まることで、今までにはなかった交流が生まれた。仕事の悩みや開発の悩みの相談が積極的に行われるようになり、会議以外の雑談のような細かな接点が格段に増えたという。これはバーチャルならではのメリットだ。

「公平性」と「シンプルさ」を重視

「FAMoffice」の開発がスタートしたのは、1度目の緊急事態宣言が発令されていた2020年5月。富士ソフトでは、2012年から社員全員を対象にしたテレワークを認めていたが、その利用率は低かったという。そのために、新型コロナをきっかけに全社的にテレワークが普及した際に、コミュニケーションに関する課題に直面した。

「ITツールの活用やネット環境に関しては全く問題なかったが、コミュニケーションをとるきっかけや、話しかけるタイミングが分からないといったことが問題だった」と、松浦氏は当時を振り返る。実際に、同社が社員2980人を対象に実施したアンケートでは、3割を超える社員が、声をかける瞬間の状況や様子が分かりにくいことや、顔色が伺えないことを理由に「円滑なコミュニケーションができない」と回答していたという。この状況を打破するために「FAMoffice」の開発に踏み切った。

開発において最も意識してきたことは「公平性と透明性」だという。一方的に見るのではなく、社員同士の状況を見せ合うことで公平性を保つ。また、PC動作になるべく負荷がかからないよう、シンプルさを追求した設計も工夫の一つだ。アバターは2等身の人形型で、オフィスを再現する物も一つ一つが簡単な仕様になっている。

「このツールは、システムの開発ツールや資料作成する Microsoft Office といった本来の仕事をするツールのじゃまをしてはいけいない」(松浦氏)

しかし、「人間に近いアバターにしてほしい」、「着せ替えをしたい」といった社員からの要望もしばしば寄せられる。それに対応することは簡単だが、松浦氏は「楽しむ機能は現状ではいらない」と、解決すべき課題を明確に捉え行動している。