新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大は収まりを見せず、政府は4月21日、3度目の緊急事態宣言を東京、大阪、兵庫、京都の4都府県に発令する方針を固めた。それに伴いテレワーク・リモートワーク・在宅勤務を導入する企業や団体が増える一方で、社員の生産性の低下やコミュニケーション不足など、さまざまな課題が浮き彫りになってきている。

内閣官房と経済産業省が発表した資料によると、テレワークの生産性について、オフィス勤務よりも低いと回答した企業が92.3%に達しており、テレワークの方が生産性が高いという回答はわずか1.2%だった。テレワークで生産性が低下した理由で一番多かったのは「対面での素早い情報交換ができない」だった。

またサイボウズの調査によれば、テレワークによるコミュニケーションに課題を感じる人は50%を超えていた。「相手の顔が見えない、状況が分からない」「電話など連絡が取りにくい、メールなど時間がかかる」「タイミングが難しい」といった理由が上位だった。このような背景から、東京商工会議所の調査では、テレワーク実施企業の約30%が「一時期実施していたが現在は取りやめた」と回答していた。

システム開発を手掛ける富士ソフトも、同じようなテレワーク時のコミュニケーションの課題を感じていた。そこで同社は、仮想オフィスツール「FAMoffice」を開発し、自社運用を2020年7月から開始した。2021年4月現在、富士ソフトの社員約1500人が同ツールを活用しており、今後は富士ソフトの社内勤務者約5000名全体に適用する予定。

仮想的なオフィスで、どのようにして新しいコミュニケーションスタイルを確立したのか。「FAMoffice」の開発を手掛けた富士ソフト プロダクト事業本部 副本部長の松浦直樹氏に話を聞いた。

  • 富士ソフト プロダクト事業本部 副本部長 松浦直樹氏

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オフィスを仮想化する「FAMoffice」

富士ソフトが自社開発した「FAMoffice」は、仮想オフィスにアバターが出勤できるコミュニケーションプラットフォーム。「FAM」は「Fujisoft Augmented Meetup」の略で、「拡張した出会いの場」を意味している。

  • 「FAMoffice」による仮想オフィス

システムにログインすると、仮想オフィス内で定められた席にアバターが現れ、仮想オフィスに出社できる。156席ある仮想的なオフィスが10フロアあり、固定席のほか、ミーティングルームや会議室などが用意されている。

アバターはドラッグ&ドロップで移動させることが可能で、自分のアバターを他のアバターに接触させることで自動的にビデオ通話が始まり、お互いの顔の映像がアバターに表示される。まさにゲームの世界観のようだ。ワンクリックで富士ソフトの資料共有アプリ「moreNOTE hello!」を起動し、資料やホワイトボードを共有することも可能。

  • アバター同士を近づけることでビデオ通話が自動で開始。自分の映像はアイコンにちょこっと表示される

  • 資料やホワイトボードの共有も可能

また、ミーティングルームや会議室にアバターを集合させることで、複数人によるオンライン会議も可能。参加者は、好きなPCアイコンを選択し好きな席に着くことができる。「声をかけてすぐに会議が開始できる手軽さが便利だ」と、松浦氏は話す。

さらに、会議中・電話中・外出中・食事中の中から状況を選び、アバターの上に表示できるほか、「○○オフィスに出社しています」や「今日在宅勤務です」など、自分の状況に合わせたひとことを表示させることも可能。音声のみを消す「ミュート」や、音声・映像の両方を消す「プライバシー」といった機能も備わっており、個人のプライバシーにも配慮している。