中国の民間ロケット・ベンチャー企業の「星河動力」は2020年11月7日、自社開発した「谷神星一号」を打ち上げ、衛星の軌道投入に成功した。

中国のロケット・ベンチャーが衛星打ち上げに成功したのは2例目で、同国における商業ロケット市場の競争がさらに激化しそうだ。

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    谷神星一号ロケット打ち上げの様子 (C) Galactic Energy

星河動力とは?

星河動力は2018年2月に設立された企業で、従業員数は現在約100人。ロケットの開発や打ち上げサービスを事業としている。星河動力とは「銀河のエナジー」を意味し、社名の英語表記も「Galactic Energy」となっている。

「谷神星一号」は同社が初めて開発したロケットで、「谷神星」とは小惑星帯にある準惑星「ケレス」を意味する。地球低軌道に350kg、高度700kmの太陽同期軌道に270kgの打ち上げ能力をもち、米国ロケット・ラボの「エレクトロン」ロケットなどと似た、マイクロ・ローンチャー(超小型ロケット)と呼ばれる種類のロケットのひとつである。

全長は19m、直径は1.4mの4段式で、1~3段目には末端水酸基ポリブタジエン(HTPB)を燃料とした固体ロケットを、4段目にはヒドラジン燃料を使う液体ロケットを装備する。それぞれの詳しい仕様は不明だが、1、2段目の固体ロケットは中国人民解放軍の準中距離弾道ミサイル「東風25」、「東風21」などから転用された可能性がある。

もっとも同社では、独自技術により、高比推力化などによるロケットの軽量化と効率化や、中国の民間ロケットとして初となる固体ロケットの推力制御を実現したとしている。

谷神星一号にとって打ち上げは今回が初めてだった。ロケットは日本時間11月7日16時12分(北京時間同日15時12分)に、中国北西部にある酒泉衛星発射センターから離昇した。ロケットは順調に飛行し、搭載していた衛星ベンチャーの国電高科の「天啓十一号星」を高度500kmの太陽同期軌道に投入した。

天啓はIoTに、衛星コンステレーションによるインターネット接続を提供することを目指しており、2018年からこれまでに9機の衛星が打ち上げられている。このほか、微博などを通じて一般から募集されたメッセージや、中国のミュージシャンの新曲などを記録したマイクロチップも搭載されていた。また詳細は不明なものの、衛星分離後のロケットの第4段機体を使った軌道変更の試験も行われたという。

打ち上げ成功後、同社は「『軌道に乗る』ということは、ロケット企業にとって最も基本的なしきい値であり、これを越えて初めてビジネスや市場の話ができます。中国の民間ロケットの取り組みは、米国よりも30年遅れで始まりましたが、国の支援、市場の精力的なサポート、そして起業家の競争により、わずか数年で、今回の打ち上げ成功のような非常に顕著な成果をもたらしました」と述べている。

「我が社は商業打ち上げサービスを展開する能力をマークしましたが、これは始まりに過ぎません。私たちの目標は、商業用ロケットをより信頼性が高く、経済的で高密度なものにし、中国の宇宙飛行を補完し、中国の商業宇宙産業の急速な発展に役立つものにすることです」。

また同社では、液体酸素とケロシンを推進剤とする「智神星一号」ロケットの開発も進めている。「智神星」とは、小惑星帯で最大の小惑星である「パラス」を意味する。

打ち上げ能力は地球低軌道に4000kg、高度700kmの太陽同期軌道に2000kgになるとされ、中国国営企業が運用する「長征二号」などの旧式ロケットを代替できる性能をもつ。また第1段機体には着陸脚や安定翼などを装備し、米国スペースXの「ファルコン9 」ロケットのように着陸、回収し、再使用することができるとしている。

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    打ち上げに向けた試験中の谷神星一号ロケット (C) Galactic Energy

激化する中国の民間ロケット開発競争

中国政府は2014年から、民間による超小型ロケットの開発企業を奨励する政策を打ち出し、固体推進剤を使う弾道ミサイルの転用や技術提供、またロケットの打ち上げに必要なインフラに関する技術の提供や貸し出しなどを行ってきた。それと同時に、何人もの起業家が企業を立ち上げ、銀行やベンチャー・キャピタル、地方政府などによる投資も積極的に行われた結果、すでに数多くの企業が生まれている。

2019年7月25日には、北京星際栄耀空間科技(星際栄耀)が「双曲線一号」ロケットにより、中国の民間企業として初めて衛星の打ち上げに成功している。また世界的にも、民間によるこのクラスのロケットの打ち上げ成功は、米国ロケット・ラボに続く2例目であった。

今回の星河動力の成功は、星際栄耀に続く、中国の民間ロケットによる衛星打ち上げ成功として2例目であり、また初の太陽同期軌道への打ち上げ成功でもあった。

さらに、「零壱空間」や「藍箭航天」、「リン(注1)客航天」など、衛星の打ち上げに近づいている企業はほかにも複数社存在する。

また、今回打ち上げられた天啓を運用する国電高科のように、衛星ベンチャーの興隆も著しく、中国国内に限っても、かなりの打ち上げ需要が存在する。

一方、他国からの衛星打ち上げ受注に関しては、米国のITAR規制の兼ね合いから事実上閉ざされた状態にある。ただ、すでに打ち上げに成功した企業が存在することや、今後も実績を積み重ねていく可能性があることなどから、将来的に他国の衛星打ち上げを手掛けられるようになった場合、ロケット・ラボなどに対して高い競争力を発揮できる可能性は高い。

星河動力も「今回の軌道への打ち上げ成功はあくまでも始まりに過ぎません。今後、大規模な商用打ち上げの新たなフェーズへと加速し、そしてグローバルな宇宙産業に対し、創造的な知恵と熱意をもって、より柔軟で、より早く、より経済的な商用宇宙打ち上げサービスソリューションを提供したいと考えています」と語り、中国国内のみならず、グローバルな市場への参入を目標としていることを表明している。

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    智神星一号ロケットの想像図 (C) Galactic Energy

注1:リンは令に羽

参考文献

http://www.galactic-energy.cn/index.php/Show/cid/11/aid/94
http://www.galactic-energy.cn/index.php/List/cid/1
http://www.galactic-energy.cn/index.php/List/cid/2
Introducing China's new commercial rocket, Ceres-1 - NASASpaceFlight.com