ソフトバンクは5月20日、新型コロナウイルスの感染拡大に伴って拡大しているリモートワークなどに対応した、法人向けビジネスの取り組みについての説明会を行った。

同社が無償で提供するリモートワーク向けソリューションや、企業に対するDXの取り組み支援、5Gを活用したネットワーク構築支援などについて説明した。 また、合弁会社のMapbox Japanの設立や、企業向け5Gマネージドサービス「Private 5G」を2022年度から提供することも発表した。

ソフトバンク 代表取締役副社長執行役員 兼 CEOの今井康之氏は、「これまでは企業の事業成長のためにテクノロジーを活用してきた。だが、企業は、社会課題を解決するために存在しており、その観点から支援する必要がある。経済復興や持続可能な社会に向けてテクノロジーを活用してソリューションを作り上げることが必要であり、ソフトバンクは、新型コロナウイルス感染拡大の環境下においても提供できるサービス、活用できるサービスで企業を支援していく」と述べた。

  • ソフトバンク 代表取締役副社長執行役員兼CEO 今井康之氏

リモートワークの支援策としては、14種類の法人向けソリューションを無償で提供する特設サイト「SoftBank Telework Support」を3月から開設している。Zoomをはじめとするリモート会議、Dialpadなどのコミュニケーション活性化ツール、IPSなどのセキュリティ強化サービスのほか、日本と中国を結ぶテレワーク「Alibaba Cloud」などを用意し、新たな働き方の実現をサポートしているという。

  • 期間限定で無償・割引提供のサービス一覧

同社が2020年3月下旬に、1000社の企業を対象に聞き取り調査を行ったところ、テレワークに関する要望が87%を占めており、「社内システムにアクセスできない」、「固定電話での対応のために、出社が必要」、「契約書への押印のために出社が必要」、「コミュニケーションが取りづらい」などの課題が出ているという。そうした要望に応えるための提案活動を加速している。

同社によると、2020年3月、4月におけるスマホの販売台数は120%に達し、Wi-Fiルータは150%になっていることを示した。「ソフトバンクでは端末を個人宅に配送できるようにしている」という。

また、SmartVPNは、前年同期比1800%となっており、「社内環境への安定的なアクセスを支援している」と述べた。 さらに、ビデオ会議のZoomは2020年1~2月に比べて4100%となっているほか、SaaSではG Suiteが前年同期比で140%、Microsoft 365が同380%、音声通話サービスではDialpadにおけるIDの純増数が450%、Unitalkの新規契約の番号数は520%になっているという。「安全なネットワーク環境、クラウドを活用したコミュニケーション環境など、場所にとらわれないICT環境の提供が期待されている」と話した。

また、「テレワーク以外の事業継続も求められている」と語り、出社が必要な社員の健康管理や、 小売店におけるECを活用した新たな販路の開拓、店舗休業を補完するオンライン接客の導入、教育分野でのオンライン授業の実現などに対する要望があるという。

そこで、同社では、出社が必要な社員の健康管理 に向けて、ソフトバンクの子会社である日本コンピュータビジョンとのAI検温ソリューション「SenseThunder(センス ・サンダー)」の提案を加速する考えを示した。

SenseThunderは、AI顔認識技術と赤外線カメラを使い、対象者の体温を、わずか0.5秒で測定し、感染症の拡大予防につなげることができるという。11万点の温度点から額の位置を特定し、サーモグラフィによる検温だけでなく、AIによって体表温、体温、室温から体温 を測定。同時に顔から1000~200の特徴を抽出して顔を認証するので、マスクを着用したままでも認証が可能だ。

約1万5000人が勤務するソフトバンクの汐留本社でもこれを導入。37.5度以上を検知するとゲートが開かない仕組みにした。「いまは、社員の9割が在宅勤務をしているが、残りの1割の社員が、安全に、安心して業務ができる仕組みを作り上げた」とし、2020年秋に移転を予定している竹芝本社では、顔認証と従業員データを連動させてゲートを開閉する。エレベータとも連動して、社員のスムーズな移動を支援したり、社内の売店や食堂での顔認証決済にも活用していくという。

  • SB本社入館ゲート 発熱時入館NG

さらに、全国のソフトバンクショップやワイモバイルショップにも順次設置している。銀座、表参道、六本木の3店舗 ではすでに運用を開始しているほか、7月までに全国約3000店のすべての店舗に導入して、従業員と来店客の検温を実施するとのこと。

また、イオンモールが、SenseThunderの導入を決定。新型コロナウイルス感染症拡大防止対策の取り組みのひとつとして、従業員の体調管理と来店客の検温などを行う。イオンモールの一部店舗では導入が開始されており、今後、多くの店舗で利用する予定だ。「イオン以外にも約15社からの引き合いがある。農林水産省や総務省、文部科学省といった官公庁のほか、小売、製造、通信販売、医療など幅広い業種で検討が始まっている」という。

  • SenseThunderの導入事例 イオンモール

さらに、データを活用した新たなサービスとして、Yahoo! Japanが提供アプリの位置情報から、感染症拡大の防止に協力していること、100のエリアにおいて、時間帯別の人流変化を解析するAgoopのデータを政府や報道機関などに提供していることを紹介した。「緊急時には、飲食料品、物資、医療、電気、交通、水も必要だが、データも重要である。ソフトバンクが提供するデータによって、クラスターの早期発見や外出自粛検証に活用されている」と説明した。

今回、データ活用の新たな取り組みとして、Mapboxとの合弁会社であるMapboxJapanの設立を発表した。Mapboxは、新型コロナウイルスの世界各国における感染状況などの表示にも活用されており、人口分布や感染者数、医療センターの数などを地図上で把握できるという。 

「基礎的な地図データの上に、天気や流動人口などの各種データ、企業が保有するデータを活用して、用途に応じてカスタマイズ自在な地図が作成できるのが特徴だ。様々な企業からMapboxをこんな形で利用したいといった要望が出ている。様々なデータを組み合わせて、リアルタイム性を兼ね備えた有効なサービスとして利用できる。災害大国である日本ではリアルタイムのデータが重要であり、それを可視化して、ライフラインマップや緊急物資の配送に不可欠な道路地図、災害ハザードマップにも活用できる。自動運転やドローン、災害救護ロボットにも活用できる。ソフトバンクが展開するサービスとも連携する予定である。合弁会社によって、日本における5GやIoT時代におけるカスタマイズ自在な地図を作り上げたい」と述べた。

一方、企業に向けたDX推進支援についても触れた。ソフトバンク 常務執行役員法人事業統括付(事業戦略、マーケティング担当)の藤長国浩氏は、「ソフトバンクは、顧客ごとのIT活用のステージや目的にあわせてDXを推進できる体制を整えるとともに、デバイスからソリューションまでワンストップで提供できる体制を持っている。通信サービス以外にも100を超えるサービスや、263社のグループ会社と連携し、課題解決に向けた提案を行っている」と語った。

  • ソフトバンク 常務執行役員 藤長国浩

スマホやクラウドなどのコミュニケーション基盤、RPAなどのデジタルオートメーション基盤、行動分析や需要予測などのデータ活用基盤を活用することで、テクノロジーによる事務労働力を創出する。

  • 企業に対するDX支援

小売業においては、業務の自動化による売上げ向上への支援のほか、サプライチェーンらおいては、Treasure Dataの活用によるデータ収集、蓄積、統合と、Yahoo!Japanの市場調査や需要予測といったデータを組み合わせることで、生産需要予測などに活用している事例などを紹介した。

一方、生産労働力の創出としては、「法人向け5Gサービスが重要な役割を果たす」とし、「ソフトバンクでは、将来の見通しではなく、実用化を前提としたユースケースを創出することに力を注いでいる。いま抱えている課題をどう解決するのかといったことに挑戦している」との姿勢を示した。

インフラ点検やコネクテッドカーでの採用、設備の異常検知、集荷状況の可視化など、様々な業種において、5Gを活用した共創の実績があることを示す一方、製造業においては、工場内のネットワークに5Gを活用し、機械、工場をまたいだ生産コントロールの一元化、工場のレイアウトの柔軟な変更などを実現している例を示した。

  • 製造業における5G活用例

また、建設業においては、職人不足を補うためのテクノロジーによる支援に5Gが有効だとし、誤差数センチメ ートルという測位を実現する「ichimill」により、ドローンによる自動測量、タワークレーンの遠隔操作、最新設計図をもとにした確認作業などを実現するという。一気通貫での施工実施が可能になる例を紹介した。

さらに、高い技術力と経験を持つパートナー企業と連携し、「ONE SHIP」というブランドで展開していることにも触れた。「ソフトバンクでは、5Gを活用したソリューションを統合的に提供できる体制を整えている。パートナーとの共創 の場として、2020年6月には、具体的なソリューションを体験してもらえる5G×IoT Studioお台場ラボをリニューアルし、9月には大阪でも同様の施設をオープンする。商用環境と同等の設備で技術の検証が可能になっている場でもある」と語った。

一方、企業向け5Gマネージドサービス「Private 5G」を2022年度から提供することも発表した。「 顧客の敷地内に基地局を個別に設置し、ソフトバンクが構築、運用を行い、必要な容量やエリアを確保できる。面倒な免許取得や、保守、運用が不要になる。パブリック5Gとローカル5Gの中間的なサービスといえるものである。個別に5Gを活用したいというユーザー企業は85%に達しており、旺盛なニーズに応えたい」と話した。

加えて、藤長氏は、「5Gは、すでに高速化サービスが始まっているが、活用が本格化するのは、超高速、低遅延、多接続のメリットが同時に提供できる2021年度後半からだと考えている。様々な産業、様々な事業者とともに、5Gを活用し、高度化したサービスを提供する」とも述べた。

なお、ソフトバンクの法人事業に対する新型コロナウイルスの影響については、「現時点では、サプライチェーンなどには明確な影響が出ていない。在庫やスケジュール調整で対応できる。また、物流体制も回復しつつある。だが、第2波、第3波の影響を見ておく必要がある」と述べた。