AI時代に求められるコミュニケーション能力とは

司会:理系的な話をしてきたつもりが、最終的には文系的な、ある種の感覚的な能力ですよね。コミュニケーション能力。上田さんが文系、理系なんて意味がないという話をされてましたが、必要とされる能力的には、まさにそのとおりになってきたように感じますが、実際はそうは言っても1人でなんでもこなすのは現実的ではないので、保科さんはデザイナーを入れるという話をされた。AIエンジニア、データサイエンティストが現場の話を聞いたとき、デザイナーは翻訳機の役割をするのかな、と思いましたね。

保科:データサイエンティストはアルゴリズムを作り、そのアルゴリズムによって何かしらの「最適解」を導き出すわけですが、その「最適解」が必ずしも人の感性に響くわけではありません。

一方、人の感性にどうすれば訴えられるか、というのはデザイナーが得意な分野です。お互いが協力し合いながら結果を出すというプロセスが重要なのです。また、言うまでもなく業界の専門知識も必要です。

様々な領域の専門家が、互いに優れたところを認め合いながらサービスを作り上げていく、こうしたコミュニケーション能力が重要だと思います。その領域に対する知見を持つ人が中心となってあるべきサービスを考え、データサイエンティストは、データとアルゴリズムを駆使して目指すべきサービスをどう実現するのかを考え、デザイナーは顧客や消費者の感性にどう訴えていくのかを考える。チーム一丸となって取り組んでいかなければなりません。

上田:今の王道としては、AI時代においてどういったデータサイエンスや数学教育を行っていくのか、だと思うんですけど、もっと本当に大切なのは、日本人にとっては国語能力、コミュニケーション能力。英語なんて、そのうち5年とは言わないですけど、10年も経てば完全な自動翻訳ができてるでしょうから、音声認識で全部翻訳してくれるようになるので、そんな勉強をしていても無駄だと個人的には思ってます。

ただ、国語と言ったのは、別にジャパニーズと言ったわけではなくて、自分の思いをきちんと文章にして、相手にわかりやすく、インパクトのあるように伝える能力を指してます。英語で書くか、フランス語で書くか、日本語で書くかは関係ない。

研究資金の獲得に向けた申請書の審査もしてますけど、研究の意義、価値をクリアに書かれていることが必要条件ですね。十分条件は藤原先生が仰ったとおり、得意技がない人はダメなんですよね。最初からふわっとして、私はコミュニケーション能力がありますといっても、ダメで、まず何かを磨かないといけない。

ただ、そこに閉じずにそこから拡げるためにはコミュニケーション能力がないといけない。そのためにはまず国語力ということかなと感じています。

それが培われるまでは、数学は計算ができる、1/3で割るといったら、ひっくり返してかけることができるといったことや、論理的な思考ができるといったことが優先されるべきだと思います。

きちんと人に話すためには論理が通っていないといけない。何を言っているか支離滅裂だと良くないので、そのことをまず小中学校でできるようになればよくて、大学生くらいになってきたら、専門分野でいろいろやるようになるわけですけど、それらに共通するのが国語力とコミュニケーション能力。それがないと、いくら数学を鍛えたり、授業をやったとしても、今のAI時代にはなかなか社会にでて、異分野交流とかをやるときに、お互いの理解に苦しむこととなる。

医療機関と共同研究した際の経験ですが、がん研究をAIを使ってどうやっていくか、というレクチャーを受けた際に、専門用語を次々と使われるわけです。そういう専門用語が並ぶ話を聞かされて、ではそこに機械学習がどう使えるか、ということは内容を理解できていないので、分かるわけがないんです。

ここで突っ込みを入れられるかどうかなんですよ。普通は、そうですか、といって、どうしようかな、と悩むんですけど、ここでちゃんと分かりません、と、もうちょっと我々がわかるように話をしてくださいと何度も何度もやっていくと、やっと我々がわかるレベルに落ちてくるんですね。専門家はそういった専門用語を普段、当たり前のように使っているから、相手が分からないということが分からないわけです。

我々は、道具屋であり、先方はその道具を使って何ができるかを知りたい。そうなったときに、我々は問題が理解できていない、ということを切り込みながら、何度も何度もやり取りをするということをやりましたが、そういうことが大切なんだと思うんですね。

だからコミュニケーション能力と言っても、アナウンサーが早く正確に言葉を伝えるということではなくて、深く的確に、相手に対して適応できていけるか、ということであるので、そうしたものは、なかなか座学だけでは身につかなくて、さっきも話に出た、いろいろなディスカッションなどを経験しながらやっていく必要があるのかなという気持ちです。経験として、そういうことをこれからやっていかないと厳しい感じですね。

保科:そうですね。私もこれまで色々なことに取り組んできましたが、その中の1つにAIチャットボットがあります。AIチャットボットを作る際はまず、「ユーザーはどんな会話を投げかけてくるのか」「その会話の裏にある意図、真意はどこにあるのか」「回答すべき答えをどのように伝えるのが良いのか」を議論します。ユーザーの意図や反応を上手く引き出していく必要性というのは、人間であろうがAIであろうが変わりませんね。 議論では、コンピュータサイエンスの専門家だけではなく、言語学や心理学の専門家の意見が有効なことも多く、様々な専門知識が必要です。

司会:チャットボット系だとNTT系のNTTレゾナントのサービスが色々なところで使われているという話も聞いていて、開発側としては、やはり自然な受け答えを作るのに苦労すると言う話は聞きますね。人間として、理解する自然な言語とコンピュータの理解する自然な言語は必ずしも同じではない。ただ、それを理解できるかどうかは、プログラマーの仕事ではないですよね。

保科:コンピュータに適した入出力と、人間が期待するコミュニケーションにはギャップが大きいので、そこを上手く翻訳してあげることが開発側に求められます。ただ、プログラミング知識は豊富でも、人と人との間の「心地よい」コミュニケーションに対する理解が十分ではない場合もあるので、そういった教育も大切だと思います。

司会:実際、そういうコミュニケーションに特化した教育はほとんど行われてこなかったわけですからね。異分野交流とまでは行かないですが、米国のアムジェン財団が行っているアムジェン・スカラーズ・プログラムの取り組みが日本でも東大や京大で行われています。海外からの留学生を受け入れるプログラムですが、やはり海を渡ってくるくらいなので、やる気があって、活発に意見を言ってくるので、それによって、これまでのコミュニティが活性化する、といった効果もあったという話を聞いたことがあります。そういう自分たちと違うものがある日突然入ってくる、という経験を企業内でやると、いろいろ面倒なことも起こると思いますが、学生のうちであれば、それほど大きな問題になりにくい。そういう意味では、学生のうちにそういった経験をしておくというのは、藤原先生のお話にもつながってくると思いますね。

藤原:講義の中でそういったことまでやるのは難しいですよね。限られた時間の中で、限られたメンバーでやるわけですから。それよりもクラブ活動として、彼らは時間無制限で面白ければいくらでも時間を使って進めていくので、そうした取り組みの中でやらせていく方がよいと思います。時々、感心するのが、工学部の中でクルマづくりをしている学生たちが居るんですけど、実はあれは工学部の学生だけでなく、経済学部とか別の学部の学生も入って、みんなで役割分担をしているんです。役割分担をするから、必然的にコミュニケーションが必要になってくるんですね。ですから、ああいう経験を、かなり違う思考をもっている学生を無理やりいれちゃうと、きっといいんじゃないかなと思うんですね。