Top500の発表に伴って、Lawrence Berkeley国立研究所のErich Strohmaier氏がその分析を発表するのが恒例である。

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    恒例のTop500の分析を発表するLBNLのErich Strohmaier氏

Top500の傾向

次の図の3本の折れ線グラフは、上から順にTop500にランクされた全システムのHPL性能の合計、Top500 1位のシステムのHPL性能、そして500位のシステムのHPL性能を示している。

500位のシステムの性能は2008年6月から傾きが鈍化している。これは半導体の微細化によってクロックの向上が得られるというDennard Scalingがスローダウンし始めたからである。なお、これはムーアの法則とは別物である。

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    お馴染みの、Top500全体の合計、第1位、第500位のシステムの性能値のトレンドのプロット。2008年6月を境に500位の性能のラインの傾きが鈍化してきた (このレポートのすべての図は、ISC2019でのStrohmaier氏の発表スライドを撮影したものである)

次のグラフは、全システムの平均年齢の推移を示すもので、2010年頃まではほぼ7.6カ月の平均年齢で推移していた。しかし、Dennard Scalingの鈍化でスパコンシステムの性能の向上が鈍化すると新システムを設置しても得られる性能向上が小さくなってしまうので、システムの更新を遅らせようということになって、システムの平均年齢が増加してきた。最近は平均年齢16~17カ月程度のところで推移しているように見える。

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    Top500システムの平均年齢。2010年までは7.6カ月であったが、それ以降、増加して、現在では17カ月程度になっている

次のグラフは、その順位までの性能合計が全体の半分になるシステムの順位の推移を示すグラフで、Dennard Scalingが鈍化したころからその順位が上位に移ってきている。つまり、トップ側のシステムが相対的に巨大になり、低位のシステムが小型化してきている。これは更新周期が伸びたことにより、トップ側のシステムでは1つのシステムに多くの予算を掛けることができるようになり、トップ側のシステムが大型化したためであると考えられる。

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    Top500の全システムのHPL性能が半分になる順位の推移。2008年頃から順位が上がっており、Top500のスパコンがトップヘビーになってきている

次の図は年間の性能向上率の傾向をプロットした図で、でこぼこが大きいが、Strohmaier氏は、2013年頃までは平均的に年率1.82倍程度でTop500スパコンの性能が向上する傾向にあった。これはムーアの法則による年率1.6倍より大きい値であった。しかし、2013年以降は、性能向上は年率1.4倍程度に減速してしまったと分析している。

この減速時期の始まりがDennard Scalingの減速開始から5年程度遅くなっているのは、購入周期が長くなって購入するシステムが大きくなったことから性能が向上して、年間の性能向上率の減速を隠したというのがStrohmaier氏の解釈である。

そして、2013年までは11年で性能1000倍のペースの性能向上であったが、2013年以降は20年で性能1000倍のペースになっているという。

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    年間の性能向上率の推移。でこぼこが激しいが、Strohmaier氏は、2013年までは年率1.82倍、それ以降は年間1.4倍に鈍化したと見ている

結果としてTop500の性能向上は次の図のような傾向になると考えられ、HPL性能で1ExaFlopsを超えるスパコンが登場するのは2023年頃という予測になる。

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    現在の性能向上率を延長して将来のスパコンの性能を予測すると、傾きの緩い破線のようになり、HPLで1ExaFlopsのスパコンが登場するのは2023年頃という予測となる

中国は米国を超えたか?

次の図は、Top500の500システムの内、どこの国の設置が多いかという国別台数の推移を示す図で、2014年までは一番下の空色のアメリカが一番多かったが、2014年以降は一番上の赤色の中国がトップとなっており、中国のスパコンが増える傾向にある。

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    スパコンの設置は永らく米国がトップであったが、2014年頃から中国の設置が急増し、現在は中国のスパコン台数がトップである

次の図はシステム数ではなく各国の保有スパコンのHPL性能のシェアを示す円グラフで、米国が38%、中国が30%で続き、日本は8%で3位となっている。つまり、中国はシステム数は多いが、小さいスパコンが多く、米国や日本は比較的大型のシステムが多いということである。

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    シェアをスパコン台数ではなく、スパコンのHPL性能の国別合計で見た円グラフ。米国は大きいスパコンが多い。中国は台数は多いが、規模の小さいスパコンが多い

そして次の円グラフはTop500全体ではなく、50位までのTop50でのシステムの国別の設置台数のシェアを示したもので、米国が38%、日本が18%で2位で、中国は6%で、フランス、ドイツにも抜かれている。

つまり、中国は太湖之光や天河2Aのような巨大なスパコンもあるが、Top50に入るスパコンは3台だけで、それ以外の300台近いTop500にランクされたスパコンは51位以下のスパコンであるという状況である。また、中国のシステムのSegmentの記述を見るとIndustryというものが多い。また、Siteの記述をみるとソフト開発、インターネットサービスなどと書かれたものが多い。その意味では、中国の科学技術研究用のスパコンは少なく、米国や日本に比べると研究者が計算機時間を得るのは大変であろうと推測される。

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    Top50のスパコンの国別の設置台数シェア。中国のTo500に入るスパコンは3システムにとどまっている

しかし、中国は急速に力をつけてきており、スパコンの設置台数だけでなく、製造台数でも大きなシェアを持ってきている。2015年以前は中国で製造されたスパコンは僅かであったが、現在では2/3以上のTop500スパコンが中国製になっている。特にLenovoは中国国内だけでなく、海外へのスパコン販売も多い。

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次の図は、ベンダー別の台数シェアであるが、Lenovoが35%でトップ、2位が14%のInspur、3位が13%のSugonで、中国の3ベンダーで62%を占めている。

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    ベンダー別のスパコンシェア。中国は力をつけてきており、Lenovo、Inspur、Sugonで、Top500スパコンの62%を製造している

しかし、システムの台数ではなく、性能の合計のシェアで見るとLenovoは20%と大きいがInspur、Sugonは6%である。天河2AのNUDTと太湖之光のNRCPCを加えると中国勢は42%である。これに対して米国はIBMが21%、Crayが12%、HPEが8%、Dell/EMCが4%と合計は45%で、性能シェアでいうと、まだ、米国の方が優位である。

しかし、この辺りは最上位のシステムの稼働開始時期にも影響される。

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    ベンダー別のHPL性能シェア。中国3社のシェアは32%、NUDTとNRCPCを加えると42%。米国は45%で、まだ米国優位である

そして、50位までのシステムのシェアでは、Crayが28%、HPEが20%、IBMが14%と上位の3つのベンダーを擁する米国勢が優位である。そして、富士通も10%で4位であり、6%シェアのLenovoを抑えている。

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    Top50スパコンのベンダー別シェア。米国がCray、HPE、IBMと最上位の3社を独占して計62%、10%の富士通が4位となっている。中国勢はLenovoが6%で5位である