大企業で2020年4月、中小企業は2021年4月からと少し先の話ではあるが、不合理な待遇差を解消するための規定の整備、いわゆる同一労働同一賃金という制度も待ち受けている。派遣労働者やパート・アルバイト労働者を多く抱える企業にとっては悩ましいものかもしれない。

「同一労働同一賃金に関しては、業務を精査することで解決できる企業が多いのではないでしょうか。つまり、本当に同一労働なのか、正社員だけに任されている仕事はまったくないのかということです。もちろん精査の結果、まったく差がないのであれば賃金は同一にしなければなりませんが、実際は同一業務ではないという例がかなり多いのではないでしょうか」と大槻氏。

具体的には、小売業の場合、最終的なレジの締め作業や現金の移動などを正社員だけが行っているのであれば、販売業務に関しては同一労働でも現金管理に関して正社員が責任を負っているということになる。また残業の量や内容、深夜労働の有無、クレーム対応の有無など細かく業務を見ていけば正社員だけが対応することになっているものが見つかることが多いのだという。

「業務や賃金にどういう差をつけるのかに決まりはなく、企業の価値観によります。現在は通勤手当や福利厚生に差をつけないという形で取り組む企業が多いですね。社員食堂は正社員にしか使わせないというようなルールも聞きますが、これを全社員に開放することは難しくないでしょう」と大槻氏はやりやすいところから対応する形が主流になっていることを紹介した。

「副業」は要注意!複雑な労働時間管理が発生

もう1つ、非常に注目されている時間外労働の上限規制について、近年の傾向から扱いが難しいものとして「副業」が挙げられた。

「労働時間としては副業先と合算で考えなければなりません。また残業代の扱いも難しくなります。たとえばA社で7時間働いた後でB社で働くなら、B社では1時間働いた時点で正規の労働時間が終わります。2時間目から残業代として給与を計算しなければなりません。逆にB社で2時間労働することが決定している状態なら、A社では8時間労働でも最後の1時間は残業代が必要になります」と大槻氏は指摘する。

つまり企業は社員に副業を許すならば、副業先がどこなのか、何時間労働するのかを相互に把握しなければならないわけだ。さらに労災の扱いとしても、自宅からA社への通勤はA社の労災だが、副業先のB社へ向かう時はB社の労災になり、B社からの帰宅時もB社の労災を使うことになり、複雑だ。自社の残業時間や休日出勤にだけ注目していると見逃しがちなポイントになる。

「フリーランスなら労働時間を企業が管理しなくて済むので、逃げ道としてフリーランスで副業という形はとられがちでしょう。また、企業として副業を許可するかどうかというのもポイントです。もし副業禁止を明確にしているなら、労働者が影で副業をしているのであれば労働時間や残業代について管理しようがありませんが、許可とも禁止とも言っていないという状況でまったく管理しようとしないのはNGでしょう」と大槻氏。

企業としては特に推奨する理由がない場合、ルールとしては副業禁止にしておいた方が管理面では楽になり、責任も少なくなるということだ。もしくは、フリーランスに限って許可というような形もあるだろう。全面的に許可するならば、副業先や労働時間について詳細に把握する必要があり、副業として働いてもらうB社側も本業の労働時間を十分に把握し対応しなければならないということになる。

現状把握と棚卸しで早めの対応を!

多くの企業や労働者から注目されている年次有給休暇や時間外労働に関する法律だが、副業についてまでは考えていなかったという企業も多いのではないだろうか。在宅勤務や副業の管理など、働き方自体が変わっていく中で、企業・労働者に法的に求められている対応や、労働の実態について再確認する必要がある。

高度プロフェッショナル制度や管理職の扱い、フレックスタイム制の弾力化の実態などについても十分に学習した上での対応が求められる。

「何に関しても、まずは現状把握が一番大事です。さまざまな数字をしっかり取り、業務の棚卸しや人のペースを把握することで解決できることは多くあります。また、そのままでは対応できないということがわかれば、業務の振り分けや人を増やすといった具体的対応ができるでしょう。加えて、忘れてはいけないのが評価制度の見直しです」と大槻氏。

企業は長時間働くことではなく成果を見る評価方法を確立しつつ、多彩な雇用形態や働き方をする労働者全員に関して、有給休暇の取得具合や時間外労働時間について細かく管理し、必要に応じて警告・指導・制限をしなければならない。求められていることの多さと複雑さを考えると、施行時期が多少先でも猶予はないと考えた方がいだろう。