--IBMによるレッドハットの買収が発表されたことは、2018年におけるIT業界最大のトピックスとなりました。2019年後半には、この買収が完了することになります。この買収はどんな意味を持ちますか--

望月氏: 確かなことは、オープンソースに対し、IBMが真剣に取り組んでいくことを証明した出来事であるという点です。そして、世界1位のハイブリッドクラウドプロバイダーが誕生し、デジタルトランスフォーメーションの基盤として、オープンソースの影響力がさらに高まることになるともいえます。レッドハットが、IBMのグループに入ることで、IBMの規模を活用し、より多くのお客様に到達できるようになります。この結果、オープンソースの普及がより促進されるようになります。これは我々にとっても、業界にとってもポジティブな要素だといえます。

ただ、注意しなくてはならないのは、レッドハットがIBMという企業のカラーに染まってしまうことです。これはお客様にとっても、業界にとってもいいことではありません。IBMおよびレッドハットによるリリースを見てもらえばわかりますが、レッドハットの独立性と中立性が明確にうたわれています。オープンソースのカルチャーが絶えないようにする姿勢を打ち出していることは、お客様やパートナー、そして業界全体にとっても、この買収における重要なポイントになります。レッドハットは、これまでのパートナーとの協業関係を維持しながら、IBMとの密な協業を推進することになります。

--この買収によって、レッドハットが変わらないところはどこですか。一方で、変わるところはどこですか--

望月氏: 変わらないところは、すべてのパートナーに対し、中立であるという点です。一方で、変わるところは、IBMとの協業においては、より緊密な関係を構築することになるという点です。IBMがレッドハットの製品を売ることはあっても、レッドハットがIBMの製品を売ることはありません。その点で、レッドハットにとっては、ポジティブな変化だといえます。

--日本において、主要なパートナーに対する説明は完了しているのですか--

望月氏: 富士通、NEC、日立といった日本のOEMベンダーをはじめ、主要なパートナーには説明を行いました。独立性、中立性がオープンソースの価値であり、それを維持するということには、すべてのパートナーが期待をしていることですし、それが前提であるということも説明しました。IBMにとっても多くの投資をした買収案件ですから、オープンソースの本来価値である独立性、中立性を損なうようなことはしないでしょう。それは、私の意見というよりも、多くの人たちの共通認識であり、そこには安心をしていただいているようです。

--望月社長は、日本IBM出身であり、IBMとレッドハットの両方の企業カルチャーを知っています。外から見ていても、この2つの企業カルチャーを束ねることができるのかという不安を感じますが--

望月氏: 確かに企業カルチャーは大きく違います。しかし、レッドハットの独立性、中立性を維持するのであれば、統合しなくてもいいのではないでしょうか。今回の買収は、企業統合が目的ではなく、独立性、中立性を維持しながら、シナジーを発揮することが大きな目的です。シナジーというのは、いかに統合するかではなく、いかに共創するか、ということです。ここに今回の買収の重要なポイントがあります。繰り返しになりますが、レッドハットの独立性、中立性はこれまでと変わりません。