レッドハットは11月8日、年次イベント「レッドハット・フォーラム東京2018」」の開催に伴い来日した米国レッドハット 社長兼CEOのジム・ホワイトハースト氏による記者会見を開催した。

  • 米国レッドハット 社長兼CEO ジム・ホワイトハースト氏

冒頭、ホワイトハースト氏は10月末に発表されて以来、話題となっているIBMによる買収について触れ、「われわれはビジョンとして『オープンハイブリッドクラウド』を発表して以来、成長を続けている。これからも、オープンソース分野のリーダーとして、独立性をもってビジネスを進めていく」と語った。

IBMに統合されることで、「レッドハットのオープンソースのポートフォリオの拡大」「オープンソース・ソフトウェアのクロスセルの機会の創出」「デジタルトランスフォーメーションの基盤としてのオープンソースの影響力の促進」を見込むとしている。

ホワイトハースト氏は、第2四半期は66四半期連続で収益が増加しており、サブスクリプションの収益は7億2300万ドルで総収益の88%に相当すると説明した。主要製品の年平均伸び率については、コンテナ・アプリケーション・プラットフォーム「Red Hat OpenShift」が91%、IaaSプラットフォーム「Red Hat OpenStack Platform」が34%、自動化プラットフォーム「Red Hat Ansible Automation」が81%と好調であることも明らかにした。

続いて、レッドハットが「顧客のデジタルトランスフォーメーションに寄与すること」を戦略として掲げていることを踏まえ、ホワイトハースト氏は、「企業の90%が何らかのデジタル化に取り組んでいる一方、大胆さと規模拡大の能力が不足しているという調査結果が出ている。デジタルトランスフォーメーションについて包括的な戦略を設けている企業が少ない」と指摘し、同社がデジタルトランスフォーメーションのさまざまな段階にいる企業を支援できるとアピールした。

そして、ホワイトハースト氏は、オープンソースがデジタルトランスフォーメーションを導くディスラプション(破壊的イノベーション)のドライバーとなると語った。オープンソースを活用したイノベーションのポイントとして「長期的なロードマップは立てない」「大きなものは分解する」「高速なフィードバックを行う」などを挙げた。

次に、レッドハット プロダクト・ソリューション本部 本部長の岡下浩明氏が製品・テクノロジー戦略について説明した。「オープンソースであるLinuxはソフトウェアのイノベーションのエンジン」と語り、話を始めた。

  • レッドハット プロダクト・ソリューション本部 本部長 岡下浩明氏

岡下氏は、レッドハットのビジョンである「オープンハイブリッドクラウド」を実現する要素は「Linuxをベースとしたハイブリッドクラウド・インフラストラクチャ」「クラウドネイティブなアプリケーション基盤」「自動化と管理」であり、その基盤は16年前に構築が始まったと述べた。その後、コンテナプラットフォームを構築することで独立性と一貫性を両立し、さらにkubernetesを融合することで包括的なクラウドに対応したプラットフォームを実現した。

  • オープンハイブリッドクラウド」を実現する3つの要素

10月30日に発表されたLinuxプラットフォームの最新版「Red Hat Enterprise Linux 7.6」における強化のポイントとしては、「管理性」「セキュリティ」「コンテナ」を紹介した。セキュリティに関しては、Network Bound Disk Encryption(NBDE)の一部として、Trusted Platform Module(TPM)2.0ハードウェアモジュールが導入されている。これにより、ネットワークセキュリティに加え、TPMがオンプレミスで動作して追加の層を付加し、ディスクを特定の物理システムに結び付けるという2層のセキュリティがハイブリッドクラウドの運用時に提供される。

レッドハット 代表取締役社長の望月弘一氏は、同日に発表された導入事例を紹介した。その1つは、富士通がグローバルに散在するデータの収集・整備と全社データ活用を推進する組織、「ビジネス・インテリジェンス・コンピテンシー・センター(BICC)」におけるシステム開発に、Red Hat OpenShift Container Platformを採用したというものだ。

  • レッドハット 代表取締役社長の望月弘一氏

富士通は2019年3月よりAIを使ったリスク回避の新たな分析アプリケーションをRed Hat OpenShift Container Platform上に展開するとともに、BICCで得たOpenShiftの活用・運用ノウハウを生かし、FUJITSU Cloud Service for OSS上でOpenShiftのマネージドサービスを提供する予定だ。

もう1つの事例は、ウェザーニューズ、気象情報提供基盤にAPI管理製品の Red Hat 3scale API Management Platformを採用したというもの。ウェザーニューズは、Red Hat 3scale API Managementを利用してAPI管理を、またアプリケーションの開発はコンテナで標準化した。

望月氏は「オープンソースをベースとしたわれわれの企業文化、顧客のニーズに応えるわれわれの技術がデジタルトランスフォーメーションの時代に功を奏しており、顧客のデジタルトランスフォーメーション推進に貢献している」と語った。

質疑応答においては、IBMの買収に関する質問が集中した。「IBMになぜ売却したのか」という質問に対し、ホワイトハースト氏は次のように答えた。

「もともとIBMはオープンソースに貢献してきた。IBMが10億ドル投資したおかげで、Red Hat Linuxが今日も存在している。また、なぜこの時期かということだが、向こう5年間で、企業のクラウドシフトが進むことが予想される。その中で、オープンハイブリッドクラウドをデフォルトのアーキテクチャとしての位置を獲得するには、われわれだけでは影響力が限られる。そこで、IBMの営業力と資金力を借りたいということになった。われわれもキャッシュを持っているが、株主にバックする必要があり、資金が足りなかった。コンテナをデフォルトのプラットフォームにまで押し上げるには資金が必要だった」

ホワイトハースト氏は独立性を強調していたが、この点に関し、「IBMがわれわれの製品を売ることはあっても、われわれがIBMの製品を売ることはない」と説明した。

ただし、両社の製品が一部重複していることは事実だ。その点については「当局からまだ承認を得ていないので、製品の統合についてはまったく話し合いをしていない」と述べた。