竹尾といえばファインペーパーの開発・販売などを行う専門商社で、デザイナーの間では有名な企業。神保町にある同社のショールーム「見本帖本店」の2階では紙とデザインにまつわる展示やセミナーが催されているが、現在行われている「光れ!紙 銀ナノinkと紙のミライ 展」の会場は、少々様子が違う。

場内に展示されている紙に電子回路が印刷され、光っているのだ。

裏側に装置を組み込んでいるのではなく、紙に印刷された銀色の線を通電させ、LEDを光らせている。これらの展示は、スタートアップ「AgIC」の技術を用い、特殊な「銀ナノインク」で電子回路を紙に印刷することで実現した。

AgICは、東大の研究を基礎として、電子回路を印刷で作ることを可能にする銀ナノインクを開発したスタートアップだ

AgIC 取締役 杉本雅明氏

紙の質感や機能といったいわば"アナログ"な情報を商材に有する竹尾が、AgIC、および博報堂とコラボレーションしたのはこれが初めてではない。同社が2014年に実施した「折り紙の呼吸 Breathing of ORIGAMI」展から協業関係は続いていたということだが、この時はAgICの作品は多数ある出展作の一つであった。今回はAgICの技術を全作品に反映し、アートディレクターたちが思い思いに技術を活用した「光る」紙の作品が展示されている。

蛍のとまる植物を表現した「初夏の夕暮れ」

作品群の中でも、キャラメルコーンのパッケージデザインなどを手がけた博報堂のアートディレクター・杉山ユキ氏による「初夏の夕暮れ」は、LEDを蛍の光に、トレーシングペーパーとの対比によって銀ナノインクの色を葉の緑と位置づけた用い方が秀逸だった。

葉がふわふわと揺れており、何か動力源となるパーツが組み込まれていると思っていたところ、実は会場の空調の風や人の動きによって揺らいでいたのだという。杉本氏は「僕らが考えたら、やはり何か機械で動かそうとしてしまう。こうした発想はやはりクリエイターからでないと生まれない」と語っていた。