既報の通り、KDDIは両備ホールディングスと共同で11月15日より岡山市で「地域密着型O2Oサービス」のトライアルを開始する。岡山市で行われた両社の記者会見の様子と、実証実験の狙いについてレポートする。

今回のO2Oサービスは、関東圏の電車ではお馴染みの物となりつつある「デジタルサイネージ」を利用したものだ。「デジタルサイネージを利用して広告を流すだけでは、これまでとは変わりないのではないか」と思われるかもしれないが、そこで"両備ホールディングスとの共同実証実験"というキーワードが浮かんでくる。

読者の方は、両備ホールディングスの会長 小嶋 光信氏をご存じだろうか。小嶋氏は、2006年に路線廃止寸前であった和歌山県の鉄道「貴志川線」の経営を引き継ぎ、猫の「たま」を同路線の貴志駅 駅長として任命した人物である。たま駅長は話題作りとして大きな役割を果たし、同路線の収益改善に寄与したという。

両備ホールディングス会長 小嶋 光信氏

たま駅長をキャラクターにしたカードも

小嶋氏は、今回のO2Oサービスの実証実験について「素晴らしい街づくりのため、沿線を元気にする目的でKDDIさんと手を組んだ」と語る。過疎化や高齢化などで経済が冷え込む地方都市において、市民の足となるバスから経済を活性化できればという思いが今回の実証実験に繋がったという。

一方でKDDIは、以前より両備グループへバスの位置情報取得ソリューションを提供。位置情報は、バスの運行状況把握などに利用されている。位置情報の取得には、以前はフィーチャーフォン、現在はスマートフォンを利用しており、既存のコンシューマー製品を活用した安価なソリューション作りの実績がある。

専用のモジュールを用意するのではなく、スマートフォンで位置情報を取得することに疑問を持つ読者の方がいるかもしれないが、財務状況の苦しい地方都市のバス会社にとっては専用モジュールを用意するといった多額の設備投資をかけることができないという現実がある。

位置情報の取得にスマートフォンを利用している

「いかに安価で、最新のICTを導入できるか」という点で、そのような取り組みが行われており、今回の実証実験についても「安価で地方都市にも導入しやすいO2Oソリューション」がミッションの一つとして掲げられている。データの受信にはWiMAXルーターの「DATA08W」を利用し、サイネージの表示システムにはテレビをスマートテレビ化するAndroidスティック「Smart TV Stick」を採用。「1両ごとだと大した金額ではないが、全車両にデジタルサイネージシステムを構築すると設備投資額は膨らむ。これらの組み合わせで大幅なコストダウンを実現している」(説明員)という。

キーワードは「リアルタイム」

KDDI 執行役員 ソリューション事業本部長 東海林 崇氏

小嶋氏が「デジタルサイネージに流れる情報は公共交通機関と融合することで、大きなメリットを生む。日本初、世界初と言ってもいいこのソリューションに期待している」と話す一方で、記者会見に同席したKDDI 執行役員 ソリューション事業本部長である東海林 崇氏も「地域密着型のO2Oソリューションは、ありそうでなかったもの。この岡山から、日本だけでなく世界に向けて提供していきたい」と語る。

両氏が自信を見せる背景には、iPadとスマートフォンを活用したデジタルサイネージの連携機能があるからだ。これまでのデジタルサイネージでは、広告枠を設定して、一定時間動画などを配信するだけのものが多かった。今回の実証実験では、デジタルサイネージに表示されているコンテンツとアプリが連動して、クーポンがスマートフォンに配信される仕組みとなっている。

この部分だけ切り取ってみると「デジタルサイネージを見て、そのままお店のWebサイトを訪問することと変わりない」というイメージを持つかもしれないが、通常のデジタルサイネージとは大きく異なる部分がある。それが「リアルタイム発信」である。

実証実験の参加店舗にはiPad miniが配布されており、テキストを入力して画像を添付するだけで簡単に広告配信できるアプリがインストールされている。このアプリでは配信時間帯が10分刻みで設定できるため、タイムセールの広告配信といった利用方法もできる。

「雨が降ってきたら客足が鈍るため、『雨の日セール』を開催するお店があっても、これまでは消費者にリーチしづらい側面があった。このソリューションによって"市民の足"にリアルタイムで広告を表示できるため、訴求力が高い」(KDDI 東海林氏)

日時指定がきめ細やかに設定できるほか、広告入稿も手軽にできる

なお、実証実験の参加店舗は無料で広告を配信できる。実際に運用が始まった場合の価格体系は未定。配信時間帯がかぶる場合は、入稿順に繰り返し配信されるという。

この広告配信は、公共交通機関という利点を大きく生かしているといえるが、広告ばかりでは利用者の関心も薄れてしまう。そのため、岡山市や岡山県警察が地域情報の発信を行うほか、共同通信のニュースも配信される予定だという。

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