考察

ということで長々と読まされた読者の皆様にまず感謝とお詫びを述べた上で、考察で締めたいと思う。

まずCPUコアについて。今回、確かにIPC Improvementが行われていることは確認できたが、それは本当に僅かでしかなく、殆どのケースでIvy Bridgeは同一動作周波数のSandy Bridgeと同程度の性能に留まると思われる。劣るケースは殆ど無いが、何かしらの「上乗せ」を期待していた読者にはやや肩透かしに感じられるかもしれない。

次いでGPUコア。まだOpenCLやDirectComputeの対応がなされていないとか、描画もちょっとおかしい(しばしば画面に赤い点がちらつく事があった。ただ画面キャプチャでは撮れなかったので、出力側の問題なのかもしれない)とか、Far Cry 2の様に妙にスコアが低い場合があったりするが、総じてDirectX 11の表示は問題なく行えており、また前世代のGMA3000に比べると倍近い性能改善を果たしたことも確認できた。ただ絶対性能がまだ低いことは如何ともしがたく、3Dゲーム系に十分な描画性能があると期待すると裏切られる事になるだろう。

その一方、システム全体としての省電力性は非常に高いことが明確に確認できた。Sandy Bridgeも登場したときには随分省電力化が進んだと感心した記憶があるが、Ivy Bridgeを評価した後だと「なんて消費電力が多いんだ」とまで感じてしまうのだから、人間慣れというものは恐ろしい。Photo16にあった「性能/消費電力比を倍増する」の目標は、ほぼ実現できていると判断して良いと思う。

ところで、Turbo Boostの掛かり方の謎がまだ残されている。外部GPUを使う場合、なぜSandyBridgeの方が倍率が上がりやすいのか? これに関する筆者の仮説は以下の通りである。

Turbo Boostは、消費電力と温度の2つのパラメータでBoost倍率を制御することになっている。従ってTDP枠か温度、どちらかがLimitに達したらそれ以上倍率は上がらない。さて、従来Sandy Bridgeは、TDP枠よりも先に温度が上限に達していたと考えられる。というか、通常の空冷だと、そうそう熱容量にゆとりはないから、上がってもほんの僅かな期間に留まるだろう。ところが今回水冷クーラーを導入することにより、大幅に熱容量が増えたため、従来よりも温度に起因する制限が緩くなったと思われる。

他方Ivy Bridgeの方は、定格で使う限りにおいては消費電力(=発熱)が少ないが、定格を超えると温度の上がり方がSandy Bridgeより急になると考えられる。というのは、Sandy Bridgeと比較すると大幅にダイサイズが削減され、しかもトランジスタ数が増えているからで、熱密度で言えばだいぶ上がったと考えられる。勿論水冷クーラーにより熱容量そのものは大きくなっているが、ダイによる発熱の熱量がクーラー側に移動するには若干の時間がかかるから、熱量が移動するまでの間はダイ側の温度がクリティカルになる。勿論Sandy Bridgeでも同じ事はいえるのだが、Ivy Bridgeの方が熱密度が高い分、上がり方も急になるわけで、この辺りがTurboの掛かり方に関係してくるのではないかと予想している。

この説の傍証は、内蔵GPUを使うとSandy BridgeのTurboの掛かり方が悪くなることだ。これは、GPUが稼動する分発熱が増え、その分温度上昇のマージンが減ったのではないか、と考えられる。

もう一つの案は、温度ではなくTDPの方が一杯という話であるが、可能性から言うと温度の法に筆者は掛けたいところだ。

残念ながらこれらの仮説を検証するための機材が無い(BIOS SetupでTDPとか温度の上限を自由に変更できればいいのだが、そうした機能は持ち合わせていない)ので、あくまでも仮説とさせていただく。ただそんなわけで、純粋に高い性能を、という話であればSandy Bridgeをむりやりブン回すという方法も現実的な選択肢として存在する。しかしながら普通のユーザーにとっては、(今年の夏も節電の必要性は高そうなことだし)性能を落とさずに消費電力を半減させ、しかもリーズナブルな金額で入手できるIvy Bridgeは非常に良い製品と言える、という見解を持って評価のまとめとしたい。