iPhoneは「革新的な魔法のようなデバイス」という姿を見せる一方で、その裏では非常にロジカルな計算が働いているビジネスライクなデバイスであると筆者は考えている。その理由の1つが端末コストで、毎年新端末が登場するとIHS iSuppliのような調査会社がその部品コスト(BOM)を予測し、利益率を割り出すことが恒例になっている。このBOMだが、初代iPhoneを除けば歴代端末はおおよそ200ドル前後の範囲に収まっているとみられている。これを500~600ドル程度の卸値でAppleが携帯キャリアへと卸し、携帯キャリアは200ドルで端末を販売する。その差額は月々の利用料から回収するシステムだ。端末が売れれば売れただけAppleの利益は増大する仕組みで、事業計画上も非常にシンプルでわかりやすい。

驚くべきは歴代モデルが革新的な技術を盛り込んだ端末でありながら、BOMがほぼ200ドル程度の水準に収められている点だ。このバランス感覚の良さがAppleの強さだと筆者は考える。

例えばiSuppliの予測によれば、iPhone 4SのBOMは約188ドルで、これは前モデルのiPhone 4と同じだ。主な変更点は3GモデムがQualcomm製になったこと(GSM/CDMAの両対応)、そしてプロセッサがA4からデュアルコアのA5プロセッサになったことだ。こういった高価な部品を採用しながら部品コストを一定に保てている理由は、他の枯れた部品のコストが年々下がっているからだ。iSuppliの試算によれば、アプリケーションプロセッサはA4の約10ドルに対し、A5が約15ドルと1.5倍になっている。これはA5のダイサイズが拡大したことに起因する。iPhoneのハードウェアの進化においては、年々部品コストが1割程度下がることで浮いた分を追加機能にまわし、トータルの部品コストを200ドル以内に収めることを目標にしているとみられる。

このルールに倣えば、もしLTEに対応した場合、次回はプロセッサの更新は行われず、あってもマイナーチェンジに留まる可能性が高い。大きな刷新は急激なコスト上昇要因となるからだ。QualcommのLTE対応チップが3G版に比べてどの程度コスト上昇要因になるかはっきりわかっているわけではないが、おそらくこの10%の範囲内だろう。次期iPhoneについてはほかに4インチへのパネルサイズ拡大NFC (Near Field Communications)搭載の噂があるが、もしLTE搭載を優先した場合、部品コストを上げないという条件では厳しい可能性が高い。パネルサイズについては純粋に数%のコスト上昇要因になるし、NFC対応ではNFCチップとアンテナの設置で10~15ドル程度のコスト上昇要因になるほか、端末デザインを既存のものから大きく変更しなければならないという制約がある(タッチ部のアンテナ設置のため)。トータルの部品コストが上昇してもこれらの機能を盛り込むメリットがあるとAppleが判断したのであれば問題ないが、前述のような200ドルルールを遵守するのであれば、Appleは追加機能に優先順位をつけて機能を取捨選択しなければならない。

AppleがiPhoneにおいてこうした工夫をする一方で、新機能を次々と盛り込んで進化を続けているのがAndroidデバイスだ。GoogleのNexusシリーズのほか、SamsungのGalaxyではNFCを標準サポートしており、4インチ以上の大画面パネルや高駆動周波数のデュアル/クアッドコアプロセッサを採用、LTEもサポートするなど、これでもかと最新技術を取り込んでいる。一方でHTC Thunderboltの例のように、BOMが260ドル以上とiPhoneに比べても高い水準になるなど、端末価格の上昇や端末メーカーの利益圧迫の要因となることもあり、ビジネス的には難しいところだといえる。だがこうした新技術の積極的な取り込みや奔放さがAndroidの魅力であり、面白さでもある。ある意味でAppleとは対極的なビジネススタンスだ。

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